日本水産 異例の6月新商品投入、売場提案からSNSまで情報発信を強化/熊谷賢一家庭用食品部長インタビュー

日本水産「おうちTIME タツタ」「大粒シーフードミックス」
――2020年度の家庭用冷凍食品事業の振り返り

ニッスイ個別(国内)実績で家庭用調理冷食の売上高は前年比1.6%増504億円、約半数が家庭用の農産冷食は4.9%減112億円だった。調理冷食のカテゴリー別では、惣菜15%増、米飯2%増、麺類15%増、スナック5%増と伸長した一方で、構成比の高い弁当品がマイナスだったことが全体の伸び率にも影響した。

 
2020年度はコロナ禍の影響で家庭用冷凍食品が見直された1年となり、またカテゴリーごとに良い悪いがはっきりし、販売構成比が変化した。弁当品の中でも、カップ入り商品のような「完全な弁当品」は不調だったが、クリームコロッケなど惣菜系や、ちくわの磯辺揚げのようなトッピングに使えるような商品はむしろ好調で、全体ではさまざまな商品を持っていたことでカバーし、弁当品もある程度踏ん張ったと見ている。
 
単品では、「若鶏の竜田揚げ」が大きく伸びたほか、「ちゃんぽん」「大きな大きな焼きおにぎり」、そしてたこ焼きが好調だった。「今日のおかずレンジでつくる」シリーズの中華キット、2020年秋投入した「今日のおかず」和惣菜小鉢の食卓惣菜提案が好調で、全体の底上げとなった。冷食の5年後・10年後を見据えて数年前から食卓惣菜メニュー強化の取り組みを行ってきたことが、コロナ禍以降の市場ともマッチした結果と捉えており、これからもこの提案を続けていく。
 
コロナ禍で人々のライフスタイルが変化する中、冷食の購入率が増えたことは大きな変化だ。購入率アップは業界全体としても大きなテーマだったが、環境の変化が後押しとなった。新たにトライしてもらった人に冷食の価値を伝え、今後も使ってもらえるよう情報発信することが今後も重要になるだろう。また、巣ごもりの中でテレビ番組でも冷食がさまざまに取り上げられ、メディアの後押しもあったと考えている。
 
――2021年春の新商品のここまでの動きは
 
なかなか外食に行けない環境下で、外食ニーズの高い「フライドチキン」「フライドチキン 旨辛」を投入し、配荷を含めて順調にきている。また、「五穀米が入った!赤飯おにぎり」は、忙しい中でもワンハンドで食べられる特長が、生活パターンが変化する中でも上手にはまっている。高齢の方の購入も多く、目に見えないニーズも捉えたことで想定以上の動きになっている。
 
――6月に新商品を投入した狙い
 
〈関連記事〉日本水産、食べきりサイズのスナック「おうちTIME」や「大粒シーフードミックス」など8品発売、“おうち時間”増加に対応/2021夏の家庭用冷食新商品
 
6月1日、「おうちTIME」シリーズの鶏肉加工品4品と、「大粒シーフードミックス」などシーフードミックス類3品の計7品を発売した。足元で市場環境変化のスピードが早まっている中で、新しいメニュー提案をするとともに、店頭活動が難しい環境にある中、春秋の年2回だけでなく新商品を投入することで売場の活性化に貢献しようという取り組みだ。
 
「おうちTIME」は外食が難しく「家飲み」にシフトしている環境を踏まえ、おつまみにターゲットを絞ったメニュー提案だ。4品同時発売し、たとえばリーチインケースの1列で陳列してもらい、売場起点で認知向上を図ることを狙っている。
 
シーフードミックス類は家庭での調理機会が増えている状況に向けた素材提案で、本格メニューができる大粒に仕上げた。若い人で水産売場に行かない人もいることから市販冷食売場向けを想定している。パッケージも透明袋ではなく、使い方がイメージできるメニュー写真を用いるとともに、QRコードでレシピサイトを閲覧でき、メニュー選びの困りごと解決にも繋げようとした。
 
――コロナ禍以降の売り方の変化は
 
営業が直接お話する機会が減っている中では、売場提案が一番分かりやすい。こういう売場を作ればこういうお客様に訴求できます、という提案にシフトしている。それに対する販促では、SNSを活用した個へのアプローチも強めている。引き続きテレビCMは放映しながら、YouTubeやTwitterを活用した個への情報発信を強化している。
 
〈おにぎりカテゴリーでは異なる切り口の提案で市場拡大を〉
2021年春、「大きな大きな焼きおにぎり」では、スポットでテレビCMを打ちながら、ムロツヨシさんに出演いただいた、ドラマ仕立てのウェブCMを制作するという新しいアプローチをとった。これがどこまで響くか、ターゲット層をどうするかということが1つの課題ではあるが、やり方を変えていかざるを得ない中で新たなチャンスにもなるだろう。
 
――足元の市場状況と今期の目標は
 
2020年の大幅伸長のウラに当たり、3〜4月は前年割れだったが、4〜5月で見ると前年を上回っている。スナック、麺類は前年割れだが、惣菜は前年並、2020年に不調だった弁当品が大きく伸びたことで貢献している。今期の目標は、前年伸長でベースが拡大したため厳しいが、知恵を出しながら前年比3〜5%増をターゲットに取り組んでいきたい。
 
――重点施策は
 
1つは売場提案を通じて食卓での冷食利用をいかに増やすか。2020年度はコロナ禍もあり期待以上の成果があったと思うが、方向性に間違いがないと確信し、これを継続したい。
 
その中では人・シーンを1つ1つ掘り下げて、価値をどう伝えるかを考えていくかがテーマとなる。重点カテゴリーは食卓惣菜となるだろう。今も餃子、から揚げと大きくなっているが、もっと別のものも可能性があるのではないかと考えている。
 
そして日本水産にとっては米飯の中でおにぎりカテゴリーをどうしていくかは1つの大きなテーマだ。「大きな大きな焼きおにぎり」を主軸に、ここ数年のもち麦おにぎり、2021年春の赤飯と幅を拡げる取り組みを行い、一定の成果を得ている。プレーンタイプのおにぎりしか売れないというこれまでの歴史から変化してきていると感じている。ワンハンドで忙しい中でも手軽に食べられるおにぎりは、冷食の基本ラインにも位置する。
 
「大きな大きな焼きおにぎり」は、コバラ需要を満たすことをテーマに提案し、あらゆる層に受け入れられる商品になってきている。もち麦おにぎりでは、朝食での新しい食シーンも提案し、健康を意識する女性など新しい購買層がとても増えた。少し異なる切り口で提案を続け、間口を広げていきたい。
 
〈冷食日報2021年6月23日付〉