「宅麺.com」コロナ禍に販売食数が急増 クラウドキッチンも開始/グルメイノベーション・井上琢磨代表取締役インタビュー

「ビンギリ 勝浦タンタン麺」(宅麺.com商品例)
冷凍ラーメンをECで販売する「宅麺.com」が順調な推移を見せる。

2019年時点では20万食に達していなかったが、2020年に54万食を超え、2021年には70万食以上を販売した。ラーメン店で普段よりも多く作ってもらったものを冷凍して提供している。加盟店も急増し、「Japanese Soba Noodles 蔦」や「飯田商店」など、行列のできる人気店が多く加盟している。忙しい店舗に代わって生産を担う取り組みも開始している。運営会社のグルメイノベーション(東京都渋谷区)の井上琢磨代表取締役に現状や今後の施策を聞いた。

「宅麺.com」運営会社グルメイノベーション・井上琢磨代表取締役

「宅麺.com」運営会社グルメイノベーション・井上琢磨代表取締役

――改めて、このビジネスを始められたきっかけをお聞かせください。

立ち上げたのは2010年です。コンセプトは、「行列のできるラーメンを自宅で楽しめる」ことです。

ラーメン店の余剰生産能力を通販向けの商品を作ることに活用してもらい、それを冷凍してEC で販売しています。店舗にとっては、店内飲食以外の収益を作ることができます。店舗の負担にならないよう追加の投資は不要です。冷凍技術の進化のおかげで店舗と同じ味を提供できるだけでなく、フードロスの削減にも役立っているのではないでしょうか。

事業であることは前提ですが、ラーメン屋さんにとってもプラスになることを大切にここまで取り組んできました。営業活動でも飲食店にとって嫌なことはやらないようにしてきました。

一般のユーザーからはまだまだ認知されていないと感じていますが、ラーメン屋さんでの認知は上がっていて、現在は195店舗(2022年2月時点)にパートナー店舗として加盟していただけています。

――現在の売上はいかがですか。

食数はコロナ禍以降、順調に伸び続けています。新型コロナウイルスの感染拡大で営業時間を短くしなくてはならなくなり、ラーメン店の売上は下がったと聞きます。そのため、余った時間で通販に取り組みたいと考える店が増え、加盟店は増加しています。時短営業になったため、余剰生産能力が増え、人気商品の供給もアップしています。10年間続けてきたということも信頼につながったのではと思います。

一般の冷凍食品はレンジで簡単に調理でき、しかも美味しい。「宅麺」で販売している冷凍ラーメンを食べるまでに麺を茹で、スープを解凍する必要があります。それがあってもコロナで美味しいラーメンを食べに行けない、という方からは支持して頂けたと感じます。

――送料をネックに感じる方もいると思います。そこに向けた施策はありますか。

元々は、一定の金額以上を購入された場合は無料にしていました。しかし、冷凍品はコストが高く、原価も上がっていたため、従量制に切り替えました。確かに売上は落ちましたが、想定ほど落ち込みませんでした。この形に変えても使ってくださる方は、電車賃や、行列に並ぶ時間をコストと捉え、送料を払っても適切だと感じていただけたのだと思います。

――注力されている取り組みは

コロナが収束しても、ラーメン店の店内売上がコロナ以前の水準に戻らない可能性もあります。この減った分を何とかしなければより厳しい状況になると考えています。今後はいかに店内飲食以外で売上をカバーするかが重要だと捉えています。

その取り組みの1つは、ラーメン店に代わって店舗と同じ品質の冷凍ラーメンを製造する「宅麺クラウドキッチン」です。ラーメン店とライセンス契約を結び、共有していただいたレシピから店舗と全く同じ味のラーメンを製造しています。店主が同じと認めてくださるまで販売しません。現在は、東京・荻窪のラーメン店「ビンギリ」の看板商品「勝浦タンタン麺」を販売しています。

「ビンキリ」は過去に取り扱いがありましたが、店舗の人手不足などでパートナー店舗から一時離脱していました。しかし、今回のクラウドキッチンで製造することを条件に、販売を再開できました。

宅麺 品質チェックの様子

宅麺 品質チェックの様子

他にも「濃麺海月」(千葉県千葉市)など3店舗とも契約を進めています。2022年内には10店舗程に拡大させたいと考えています。
 
工場では月に最大10万食まで作れます。また、あくまで構想ですが、サブスクサービスも実施できればとは考えています。
 
店舗だと席数と回転数の関係で売上には限界があります。こうした取り組みで、店内飲食以外の収入を作れるようになるのではと思います。
 
ラーメン店は全国に3万店以上あり、その多くは個人店です。席数の関係で、1店舗で作れる売上には上限があります。多店舗を展開しても、レシピは同じなのに「味が落ちた」と言われることも多いです。また、売上の上位数パーセントの店舗でも、多くの方が想像するより年収は多くないと聞きます。私たちは少しでもラーメン店をやる方に夢のある状態を作れればと考えていて、今後も様々な取り組みを進めていきます。
 
〈冷食日報2022年3月9日付〉