ニチレイフーズ「シェア争いからの脱却のため、冷凍だから出来ることを探る」/滝執行役員業務用事業部長インタビュー

ニチレイフーズ・滝英明執行役員業務用事業部長
業務用市場は2021年度、長引くコロナ影響によって思うように回復しなかったが、2022年度に入り回復の兆候も顕著となっている。一方であらゆるコストが上昇し、値上げ環境が消費に影響することが予想されている。冷食各社の動向が注目されるなか、ニチレイフーズの業務用事業部長を務める滝英明執行役員に取材した。

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――2021年度の業務用事業部の業績について

21年度の業務用市場は想定していたよりも厳しい環境が続いた。学校給食と福祉給食は堅調で、コロナ前を上回ったが、事業所給食は昨年比で6~7%戻したものの19年比20%近い落ち込み。外食は19年比70%程度までしか戻っていないと見ている。

またデリカ市場は前年比で4%増だが、19年比ではまだ3%減にとどまる。買い物の回数が減っている中、売れ筋が寿司や冷惣菜など即食というよりも少し保存がきくものに移っている。当社がターゲットとしている温惣菜は伸び悩んだ。

当社の業務用調理品全体の売上高は、前年比6.6%増、19年比では9」%ほど下回る着地となった。業態別の状況もマーケット並みの動きだった。

――前期から今期にかけて値上げを実施した

他社に先駆ける形になったが、当社では昨年11月に価格改定を実施した。原材料の高騰によって、4月の期首から利益面での影響を受けていたが、7~8月からもう一段階上昇したためだ。当時の状況に照らした改定幅で実施したが、おおむね受け入れてもらえた。

今年4月にもチキンなど輸入品を中心に価格改定した。為替の影響も加わり内部で努力を続けたものの、利益面での改善が見られず厳しい状況があった。タイ産のチキンは供給が不安定だったため11月の値上げを見送っていたが、4月で中国産を含めて価格改定を実施した。

もっとも、価格改定を実施したものの、更なる為替変動を背景に原材料価格の高騰が続き、この4月は去年よりも利益は悪化している。そのため9月の価格改定を発表したところだ。

これまで店頭においては、商品の中身を変えるなどして販売価格を据え置いていたが、この9月は同業他社も含めてほぼ全社が価格改定する。いよいよ売価を変えないと厳しくなるのではないか。総合的に価値を付加して実質売価を上げられる提案をしていきたい。

学校給食では、価格高騰への早い対応を実施している。学校給食関連三団体協議会が、地方創生臨時交付金を活用して物価高騰に伴う学校給食費の負担を軽減する制度の活用を地方自治体に促すように、岸田首相に陳情した。給食は子どもの成長に重要なので、交付金の活用が進んでほしい。

――22年度の計画について

業務用市場は回復していくと見ている。5月単月で当社業績は19年を上回った。マーケットも大きく回復していると考えている。外食もイベントや宴会はまだまだだが、今後、入国制限の緩和に伴い、インバウンドについては円安もあって期待できる。

業務用事業部の22年度売上高は前年比5%増前後を見込む。価格改定を進めつつ、商品カテゴリーごとにグレードを再構築するなど選択肢を広げる取り組みをしていく。

戦略カテゴリーのチキン、農産、春巻、ハンバーグ、米飯――の5カテゴリーの強化にも引き続き取り組むが、大きなミッションとして、ハンバーグや唐揚げを磨き上げて、いま手作りしているものや冷凍ではないものを、冷凍に置き換え、業務用冷食の市場を底上げしていきたい。

業務用冷凍食品の市場規模はこの10年大きく変わっていないと見ており、固定したマーケット内のシェア争いから脱却する必要がある。冷凍だから出来ることをつくり上げるため、必要な価値や技術を探っているところだ。例えば、生IQF 唐揚げがその一つ。春巻にも新たな技術を導入していく。伸長市場である冷凍野菜では今春、新製法を使った中華ポテトを発売した。米飯は家庭用に比べてまだ売上げが小さい。使用シーンを想定しながら開発していきたい。

今春はリニューアルした「點心春巻」が販売を底上げした。さらに品質を磨き上げたい。

季節商品の衣付きのおつまみ天類も非常に売れている。衣付きで揚げ時間も短いため、現場の人手不足の助けにもなり、小麦粉と油の値上げ環境が追い風になった。

〈パーソナルユースを福祉・惣菜向けに〉
――新中計で実現したいことについてマーケットを創造する企業に変わっていくことだ。これはニチレイだから出来ることといえると思う。

同質化競争を脱却し、付加価値を上げて冷凍食品の品質をユーザー、生活者に認めて頂ければ、今回のような価格改定が必要な環境になったときにも苦しむことは少なくなる。圧倒的な差別化を目指したい。

パーソナルユース商品を業務用では今後発売する予定だ。メインが福祉給食と惣菜向けと考えている。

例えば20~30床の小規模な福祉施設で、スチームコンベクションを使って一度に調理し、そのまま提供出来るような商品、惣菜ならこれまで店舗で盛り付けをしていたような商品をそのまま完成品のおかずとしてお届けするイメージだ。当社の冷凍技術の高さが前面に出ている商品づくりが必要だと思う。これも品質・価格が受け入れられれば、冷凍であるが故のフードロス削減にもつながり、冷凍食品によるマーケットの創造といえる。

今までにないものを投入して、マーケットが広がるかどうかを見ていくことが重要だ。

〈冷食日報2022年7月6日付〉