クローズアップ 輸入ウイスキーNo.1ブランド「ジムビーム」〈上〉

“角瓶派”と並ぶ“ジムビーム派”、2層の育成へサントリーがバーボンで世界No.1ブランドである「ジムビーム」の取り扱いを開始したのは2013年。そしていま、日本国内でも「ジムビーム」は、輸入ウイスキーNo.1の販売数量となり、炭酸で割った「ビームハイボール」の取扱店舗は6万店に達する勢いだ。18年、「ジムビーム」は新たなステージを駆け上がる。米国の広大な自然から生まれたスケール感のあるバーボンという世界観を提示し、“角瓶派”と並ぶ“ジムビーム派”のウイスキーファンを大きく増やす考えだ。しかし、そのマーケティング施策は、導入時から順風満帆に進んできたわけではない。現段階のマーケティングと、それに至る軌跡を、サントリースピリッツのウイスキー部・秋山信之課長に聞いた。
サントリースピリッツ ウイスキー部・秋山信之課長

サントリースピリッツ ウイスキー部・秋山信之課長

まずは「ジムビーム」の到達した地平を確認しよう。1~10月の数字になるが、ブランド計の販売実績は前年同期比117%の57万箱(8.4L換算。瓶・ハイボール缶計。ハイボール缶はスタンダード瓶に含まれるアルコール量を標準単位として換算)。うち瓶は前年比110%、ハイボール缶は309%だ。

業務用の「ハイボール」取扱店は、16年1月は2万5,500店だったのが、17年9月段階で5万5,000店を超えた。年内には6万店に達する見込みだ。

家庭用の「ジムビーム ハイボール」缶は、6月27日にデザイン・中味・価格全てを刷新し、リニューアル発売した。同社調査によると、これで、瓶を含めて初めて「ジムビームを購入した」という方が91%にのぼり、新たなユーザーを獲得している。

また、最盛期の夏には「角瓶」「トリス」ともに初めての統合マーケティング〈夏ハイ〉を実施し、認知を拡大した。

次に18年のマーケティング方針だ。数量的には、「ジムビーム」ブランド計で、前年比110%程度の約80万箱を目指し、輸入ウイスキーNo.1の位置を盤石のものとする。

秋山課長は「業務用チャネルでも家庭用チャネルでも、土台はしっかり整ってきた。18年は“角瓶”と並ぶくらいに、“ジムビーム”のファンを増やしていきたい」と語る。そして“原点回帰”が一つのキーワードになるという。11月21日から放映しているTVCM はすでにお馴染みだろう。そこに「ジムビーム」の世界観は凝縮されている。女優・タレントのローラが広大な自然のなかで「ジムビーム」のルーツを全身で体感しながら、「ジムビーム」のおいしさの中心である“香り”を訴求する、というものだ。

「ジムビームの根幹にある本質は何だろうか。やっぱり、米国・ケンタッキーの壮大な自然であり、白いボトルデザインに示されているように、抜けのある、明るい世界だ。旧来の“伝統”“男臭さ”“西部劇”といったバーボンのイメージとは異なった、オープンな世界だ」。18年には、もっとその世界観を伝えるために、広告にとどまらず、ビームハイボールを気軽に楽しめるイベントなどを実施する考えだ。「次のステージを目指す。そして3年後、5年後、角瓶と並んで“ジムビームがおいしい”“世界観が好き”“ジムビームでなければ”というファンを育てていく。その結果として、100万箱、120万箱という規模になるだろう」。

秋山課長は「角ハイボールのときもそうだったが、1日に10杯を販売する店を10店つくるよりも、100杯出るお店を1店つくったほうが、ダイナミックな動きが出る。そういう量販の店舗に対して、メニューや機材を集中することで、新しい飲むシーンを創造し、インフルエンサーを動かすことが出来る」と強調する。

後述するが、活動の前提にあるのが、サントリーが最も重視している“飲用時品質”だ。最初の一杯がおいしくなければ、その後の飲用をシャットアウトすることになる。おいしいハイボールをつくるのは、そう簡単ではない。飲食店での提供品質の指導にはこれまで以上に力を入れていく。

〈#2008年「ジムビーム」前史〉
ウイスキー市場が低迷するなか、サントリーが「角瓶」で「ハイボール」という飲み方を改めて提案したのは08年末。その後、一大ムーブメントが起き、ウイスキー復活の立役者となったことは言を俟たない。そして、その復活劇の知見が生かされて花開いているのが「ジムビーム」だ。

「角ハイボール」は、ウイスキーのダウントレンドを脱して、安定成長を成し遂げる起爆剤となった。そして、いまは「角瓶」だけではなく、もっとウイスキーカテゴリー全体で幅の広い提案を行ってウイスキーファンを拡大する時期だ。そして、そこに「ジムビーム」は大きな役割を果たせると考えている。

しかし、国内で80年の歴史がある「角瓶」と、「ジムビーム」とはおのずから違う。「角瓶」は、TVCM ひとつとっても小雪、菅野美穂、そして現在の井川遥と女優の顔ぶれこそ変わっているが、キャッチコピーや音楽は変えていない。連綿としたイメージがある。それに対して「ジムビーム」は、強いど真ん中を最初からつくるというよりは、いろんな施策を積み上げながら、ブランドを強化してきた。そして、その成果として輸入ウイスキーNo.1のボリュームを獲得している。

〈#2013年“クールバーボン”訴求〉
取り扱い開始の13年。ハイボールからウイスキーそのものにスポットが当たり始めていた。しかし、バーボンというと「古い」「強い酒」「男性」「西部劇」といったイメージが強く、限られたコアなファンに支えられているイメージだった。そこで、もっと気軽に楽しめるんだよ、というコンセプトをとった。インパクトある登場の仕方として、ハリウッド俳優のレオナルド・ディカプリオをTVCM に起用し、“クールバーボン始まる。”とのキャッチコピーを配した。そして、世界No.1バーボンであることを訴求した。これで20万箱の規模にまで成長させた。

クローズアップ 輸入ウイスキーNo.1ブランド「ジムビーム」

〈#2015~16年「シトラス」提案〉
15~16年上期あたりまで。「角瓶」は、若いママのいる新橋のバーをTVCM に登場させているように、男性のサラリーマンのイメージだ。「ジムビーム」は、次のステージとして、女性・若者にそのウイングを広げることを狙った。CMには女性・若者のトレンドセッターとして実力のある、ローラを起用。また、新たに飲み方の訴求を行い、柑橘系の果実あるいはオランジーナなどで割る「シトラスハイボール」を提案した。同時に「ジムビーム シトラスハイボール缶」も発売。これで50万箱くらいの規模になった。

次に目指すのは、ど真ん中の王道だ。サントリーが目指すのは“角瓶派”と“ジムビーム派”という、スタンダードの価格帯でのすみ分けだ。そのために、しっかり「ジムビーム」のブランドイメージをつくる。これが16年以降の取り組みの柱となった。価格も改定してエコノミー価格から「角瓶」と同じスタンダード価格に引き上げた。飲み方も柑橘フレーバーではなく、バーボン本来の味わいを楽しむシンプルな「ビームハイボール」を訴求した。居酒屋でも、輸入酒・バーボンということを押し出すのではなく、角ハイボールと同様、日常生活で飲める、食との訴求を強調した。

これらの取り組みを一つずつ重ねることによって、最終的に100万箱規模を目指して取り組む、という状況が見えてきた。ブランドの認知が上り、角瓶と並んでファンが増えてきていた。

〈酒類飲料日報2017年12月15日付より〉

 

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