日欧EPA発効で欧州産ワインに広がり、「スパークリング」「オーガニック」が好調

大手流通では値下げセールも(画像は今年2月、イオンスタイル幕張新都心店)
2018年のワイン課税移出数量(出荷数量)は、国産・輸入計で前年比4%減。今年も2月までの累計で1割減と、厳しい状況が続く。ただし、2月に発効された日欧EPAの効果で、輸入ワインは2月単月で12%増となった。2015年にはワインの消費数量が過去最高を記録したが、それを支えたのは、低価格のチリワインだった。しかし今年は、そのチリワインがふるわない。

ワインからRTD(Ready To Drink=チューハイ・サワー等のふたを開けてすぐ飲める低アルコール飲料)やハイボールへの流出に加え、今年2月の日欧EPA発効を受け、欧州産ワインに注力する売場が増えたことも要因のひとつ。1~4月の輸入通関数量を見ても、フランスは12%増、イタリアも15%増だが、チリは16%減だった。

「チリワイン一辺倒だった売場のバラエティが広がったのは良い傾向」と見る向きも多く、1000円以下の欧州産ワインが大きく伸びたのは事実だ。ワインの持つ魅力のひとつ「多様性」がより身近になった。

ただ、数量だけを見ると、低価格チリワインのマイナスを欧州産がカバーできているわけではない。結局のところ、「安いワインが飽きられている。RTDに流れるか、少し価格帯が上のワインに進むか」(関係者)だ。

実際、今年の市場について業界関係者の多くは「数量は減でも、金額は伸長する」とみる。「500円台のワインには限界がある。800円以上で味わいの違いがわかるものが、復活するのではないか」。

海外ではミレニアム世代にロゼワインやプロセッコが人気だが、日本では安価でバリエーションも幅広いRTDが若年層の需要を取り込んでいる。ワインの飲み手が育たない限り、今後も流出は避けられない。では、エントリー層をどう取り込むか。

たとえばEPAによる関税撤廃の恩恵が大きな「スパークリング」は好調で、輸入通関の1~4月累計でも18%増。日酒販がEPA発効を機に導入した新商品「レ・ダムリエール ヴァン・ムスー」も初動から好調な動きを見せている。

また、スパークリングワインを使ったカクテルを商品化したスマイルの「アストール ベリーニ」も、RTDからワンランク上の需要を取り込み、大きく伸長。

「ドイツワインが好調」との声もある。「ドイツワイン全盛期を知らない若年層にとって、ドイツは新しい産地で、逆に新鮮」。確かに、低アルコールでさわやかな甘さを持つワインが多いドイツワインは若年層の嗜好にもあいそうだ。

昨年から広がりを見せている「オーガニック」も訴求ポイントのひとつ。消費者ニーズが高まる中、農産物であるワインは、オーガニックという付加価値を打ち出しやすい。オーガニックワイン数量で日本最大規模を誇る「コノスル」では、「プレミアムオーガニックライン」の拡充も予定する。

飲み方提案では、サッポロがチリワイン「サンタ・リタ120」にオンパックした「スワリングラス」が面白い。ただのロゴ付きグラスではなく、名前通り「スワリング」(グラスを回す)することでワインの香りや味わいを引き出すことを訴求する。いわば「体験提案型」プロモーションだ。

サッポロ「サンタ・リタ120」の「スワリング」提案

サッポロ「サンタ・リタ120」の「スワリング」提案

愛好家の需要に支えられたファインワイン(中~高価格帯のワイン)は、今年も好調に推移する。今春には、ビール会社系列のファインワイン3社(エノテカ、ファインズ、日本リカー)で社長交代もあった。価格競争から脱却し、ファインワインへのシフトを進めたいと願う気持ちは共通だ。
 
エントリー層(初心者層)の拡大はワイン業界として必須の課題だが、それ以上にワインの価値、そして楽しさを魅力的に伝える活動が求められる。
 
〈酒類飲料日報 2019年6月11日付〉