【米穀VIEW980】漂流する米政策 Ⅵ 平成30年産に向けて⑪ 髙木勇樹氏に訊く① 総選挙後も変わらない「官邸主導」

髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)
毎度お馴染み「ご意見番」の一人である農林水産アナリストの髙木勇樹氏(元・農林水産事務次官、元・農林公庫総裁、現・日本プロ農業総合支援機構理事長)に訊くシリーズ。去る11月21日にインタビューしたもの。

――まず先般の総選挙です。農政問題は争点ではありませんでしたが、結果として選挙の前と後とで、変化はあるのでしょうか。

髙木 選挙公約というものがある。その公約を見る限り、また公約通り臨んでいくのだとすれば、選挙の前と後とで基本的な政策の方向性に変化が生じることはないでしょうね。ただ選挙後の状況変化というものもあります。例えばTPP11の大筋合意や、日欧EPAの2019年発効といった、まだまだ紆余曲折あるとは思いますが、少なくとも選挙前より明確になってきた状況変化というものもあります。だから、そこはこの状況変化に応じた対応になってくるであろうことは指摘できます。もっとも、これらも公約のなかに書いてあることですから、基本的な方向性を変えるまでには至らないでしょう。

――世間的には自公連立政権の「信任」が得られたと評価されています。これによって「官邸主導」の強弱が変化したりは? 政策の方向性は変わらずともスピード感が変わることもあるのではありませんか。

髙木 そのあたりは、今の与党で農林の政治を動かしているメンバー(いわゆる農林インナー、あるいは農林幹部)が、選挙結果をどのように考えていくか、に尽きるのではないでしょうか。ごく常識的に考えて基本的な方向を変えるはずがありませんし、変わるはずもありませんが、確かにスピード感というと、農林幹部それぞれの考えが反映されてくる場面もあり得るでしょう。

――農林インナーには兼任者が多く、“純粋”には3人まで激減しました。それこそ官邸主導が強まった結果にも見えますが。

髙木 いや、もともと農林幹部のメンバーがどうあれ、政策決定のプロセスが「官邸主導」という今までの流れから変わることはありえませんし、少なくとも官邸側には変えるつもりもないでしょう。特に、選挙前まで党側から官邸主導を経験してきた西川(公也)さんが内閣官房参与に就いた点は象徴的です。

――落選して、いち民間人に過ぎませんが?

髙木 もちろんそうです。しかし、自民党農林・食料戦略調査会の前会長であったという立場は、いち民間人といっても、全くの素人よりは遙かに意味あいが異なります。結局のところ兼任者が増えたといったことはあるにせよ、選挙の前と後とで、メンバーにも実はほとんど変化が生じているとは言い難いわけです。

――では、決まっていることは決まっていることとして、粛々と進んでいくとして、まずは目前に迫った平成30年産米からの「いわゆる減反廃止」ですが、どうやら結局なにも変わらないようですね。

髙木 その通り。今までの政治・行政の発言その他を見聞きしている限りにおいては、変わらないですよね。変えるつもりもないでしょうが。

――唯一の違いは、「国が」「生産数量目標の」「配分を」やめるという点だけです。

髙木 確かにそうです。今後は何かしらの「全国組織」を作って対処するわけですが、その全国組織なるものが、実質的に何をどう取り組むものとなるのか、そこのところを見極める必要があるでしょう。

――つまり「全国組織が」、名称は違うかもしれませんが「生産数量目標らしきものを」「配分する」というのでは、今までと何ら変わるものではありませんが、その全国組織が何かもっと違ったことに取り組むものであるならば、また違ってくると?

髙木 そうです。要するに全国組織を作る意味が何なのかということでしょう。「情報」を流す、それによって生産者が自らの経営判断で何を作るか決めることができる――これが原点だったはずで、そこを忘れてはならない。全国組織の役割とは、だからこの原点に立脚しているのか否かのモノサシで見るべきものではないでしょうか。仮に、原点に立脚していない全国組織になってしまったとすれば、長い目でこの政策を見て、恐らくなかなか難しい局面に至ってしまうのではないかと。

また、ちょっと表現が似ていますが「生産者・生産者団体が主体的に取り組む」組織ということであれば、2002(平成14)年に決まった「米政策改革大綱」に登場するわけですから、大綱はその後ポシャッてしまいましたが、10年以上かかって戻ってきたという意味で結構なことだとは思いますが、どうもそうでもなさそうですよね。

何度でも言いますが、市場というものを介した需要と供給の関係、これが情報で、それに基づき、生産者が自ら経営判断する枠組みを作ること、これが原点です。そもそも、この枠組みがないと出来ないはず。そうではなく、全国組織が、各県に数量を配分し、都道府県も市町村まで割り当てる、場合によっては農家まで割り当てる、だけ。これでは「平成30年産以降」をめざしてきた原点の方向性は一体何だったんでしょうね、ということになりかねません。単に理念の問題だけを言っているのではなく、仮にそのような全国組織だった場合、それは需要と供給の不均衡を結果する恐れがさらに強まってしまいます。

今でもすでに強まっていて、それを何とか解消しようと、事前契約の拡大などを推奨しているわけですが、政策全体で見ると、なかなかそういう生産者自身が経営判断できる環境には至っていないのではないでしょうか。

――つまり全国組織の中身以前に、原点たる「主体的判断」の基となる情報を発信する「市場」が、まずは整備されていないと?

髙木 そう。どういう市場かはともかく、要するに需要と供給をきちんと映し出す場が存在しません。

――物理的な「市場」なら、大阪堂島商品取引所が開設している先物市場が代表例ですが。

髙木 でも未だ試験上場のままで、「需要と供給をきちんと映し出す場」とは言い難い。この点、ちょっと申し上げておくと、先日、公の場ではないものの、大勢の関係者が集ったなかで、全中の幹部が「堂島は一度も説明に来なかった。だから(先物の)善し悪しなど判断しようがない」と述べていました。つまり全中の側から「説明に来てくれ」というメッセージを発信しているんです。私はこの点、大いなる誤解をしていました。堂島側が生産者団体に何度も説明した上で、全中が反対しているのだと思い込んでいたんです。そりゃあ昔は門前払いを喰ったこともあったかもしれませんが、何度だってトライすべきでしょう。その点、堂島はややだらしないなと言わざるを得ません。

説得できるかどうかは別にして、仮に全中がOKとなれば、少なくとも単協が動きやすくなることは確かでしょう。そうして「市場」がマトモに機能するようになれば、「経営判断」できる根拠になるでしょう。これこそ30年産に向けた環境整備ですよ。

〈米麦日報2017年12月4日付より〉

 

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