――かつて入札があった頃は明確な価格形成がありましたが、今は手探り状態。JA系統の生産者概算金→相対基準価格という今の価格形成については、どう考えておられますか。

〈前回記事〉シンポジウム「需給を反映したコメの価格形成を考える」(1)消費減と米価上げ、アクセルとブレーキを同時に踏み続ける米政策=https://www.ssnp.co.jp/news/rice/2019/06/2019-0619-1156-14.html

小林 播種前に数量や面積を先に決めて、価格は出来秋にならないと分からないというのは、米の商取引の習慣になっています。
大潟村農協(秋田) 小林肇組合長

大潟村農協(秋田) 小林肇組合長

しかし担い手は、いつでも高米価を願っているわけではなく、安定価格での安定取引を願っています。そのなかで、来年産の作付に関しては(当年産の)収穫前の8月には種を注文しなくてはなりません。米価も分からないうちに来年産の作付面積を決めなくてはいけない、価格が見えないなかで経営判断しなくてはならないことは、とても大きなリスクです。仮に米価が下がれば、別の作物に切り替えると動くかもしれませんが、出来秋にならないと価格が分からない商習慣では、対応が難しいのが現状です。先物取引では1年先の価格が見えますので、経営判断の重要な指標になってくれていると感じています。
 
先物市場の価格を利用すれば(現物契約でも)価格を含めた契約が可能で、担い手の経営の安定感に繋がりますので、こうしたものが理想の形の契約ではないかと感じているところです。
 
――佐藤さん、平石さんは、大手実需者と複数年契約を結んでいるそうですが、価格決定はどうやっているのでしょうか。
 
佐藤
私は(先物)市場を見て、です。東京コメは、いわゆる業務用米市場です。

新潟ゆうき 佐藤正志代表

新潟ゆうき 佐藤正志代表

業務用の契約をするにあたって、私は確実にそこの値動きを参考にしています。それを参考値として、取引先との交渉に入るわけです。全く情報がない交渉というのはあり得ませんので、我々自身もそこをしっかり見据えながら、少しでも有利な方法を考えていかなくてはなりませんし、逆に自分の主張ばかりして高く相手に求めてしまうと、取引は成立しません。そこはお互い譲り合うことも必要だと考えています。
 
平石
農協出荷の場合でも、基本的には醸造用玄米と加工用もち玄米は契約しています。私が事業者と直接契約しても良いのですが、そこは農協の強みというか、農協を通じて販売している状況です。それと直接お客さんにお届けする米の値段は、消費税が上がらない限り、10年は価格変動せずに販売しています。

全国稲作経営者会議 平石博会長

全国稲作経営者会議 平石博会長

ただ通信販売の会社と契約する場合は、5円でも10円でもkg単価を下げるような、もの凄く苦しい戦いを強いられています。しかし、先物取引との兼ね合いから言いますと、私ども農家は先物取引という名前を聞いた瞬間に――新潟コシが上場される時期に私は初めて先物に興味を持ったのですが――コメ先物取引というと投機的な、投資目的のものと捉えていました。しかしよく聞いてみて勉強会にも参加してみると、生産者にとって本当に販路の一つとして考えることが出来る、売る人と買う人がうまく繋がって価格も決定しているので、あったほうが良いなという思いになりました。ただ、まだまだ生産者側の認識は低い気がしています。
 
――価格形成を見直すとすればポイントは?
 
青山
まず、米の価格がどうやって決まっているかを知っている消費者はほとんどいないでしょう。

農業ジャーナリスト 青山浩子氏

農業ジャーナリスト 青山浩子氏

3年後にならないと本当の価格が分からない(本誌「米麦日報」註=JA系統の共同計算方式を指している)ということは、ほとんどの消費者にとって「えっ!?」という話だと思います。それだけ米の世界は複雑で、消費者からすると暗闇の世界にいるようなものです。遠回りかもしれませんが、私はもう少し「見える化」していく必要があると思っています。
 
例えば、ちょっと乱暴な計算ですが、現在、「水田活用の直接支払交付金」の予算は3,304億円ありますが、これを主食用米需要量750万tで割ってみると、kgあたり45円弱になります。それで農地を守っていることになります。このkg 45円、「ああ、それで(農地を)守れるのか」という消費者もいれば、「えっ、45円も上乗せされたら米は食べないわ」という消費者もいるでしょう。受け止め方はそれぞれです。
 
また、中山間地域ではもっと沢山の費用をかけないと農地は守れないでしょう。ただ、米の生産コスト、価格がどういう構造になっているのか、(表面的には)分からないまま概算金や補助金の議論になっているので、消費者にとっては(末端価格が)高ければ買わないし安ければ買うということにしかなりません。農家を通じて農地を守ってもらっているという意識が全くそこでは形成されないことが問題だと思います。もしも3,304億円を消費者が直接負担するようなことになれば、需給を反映した補助金に頼らない価格形成になるので、そうすれば先物取引も有効に働いてくるのではないでしょうか。とにかく、ちょっと見えにくい今の状況をもう少し消費者に分かりやすくすることが大事ではないかなと思います。
 
――価格形成のあり方を考える時に、かつての入札のようなものが必要なのでしょうか。
 
中嶋 そもそもの話になってしまいますが、消費者にとっても需要に応じた生産が実現するのはとても良いことで、そのためには生産者がどう生産するかを決めるための情報が必要だと思います。先ほど、小林さんから種を注文する時に値段が分からないと困るというお話がありましたが、本当にもっともなことだと思います。

東京大学大学院農学生命科学研究科 中嶋康博教授

東京大学大学院農学生命科学研究科 中嶋康博教授

ちょっと話が変わってしまいますが、畜産物に関してはかなり価格変動があって、それに合わせて生産も変動する「蜘蛛の巣モデル」というものがあります。あまり望ましくはなかったのですが、徐々に契約取引が一般的になってきたので、補填的な価格変動はそこまでなくなってきました。また、青果物は需要がもの凄く変化したり、天候不順で生産量が変化することによって、需給のバランスが簡単に崩れてしまうわけです。
 
そのために、適切な方に商品を提供するため、価格を適宜変えていかなくてはならないのです。結果、もの凄い変動があれば消費者にかなりのご迷惑をおかけすることになりますが、需給調整のためにはどうしても必要なところがあります。米に関してはどちらとも異なります。1年に1回作って1年かけて販売していくわけですが、どのくらいの値段なのかは出来秋の段階である程度予想できるわけですよね。ただ、出来秋の相場はマクロのレベルだと大体わかるしれないけれども、春の段階では思っていなかったような値段になることはあります。
 
その後の問題として、マクロではなく、今は産地や品種によってマーケットで分断されていて、そのなかでの急激な需要の増加や地域の生産が不調のような価格のバラつきみたいなものが、なかなか実需者の取引に大きな問題を発生させているのではないかと。どうしても取引先からの要望に応じて玉を確保する必要があると、無理な取引をして値段が上がってしまうような状況をしっかり把握して、適正な値段がいくらかを考えるならば、値段ごとの現物市場があっても良いとは思います。
 
ただ、それは青果物の市場で考えているようなマーケットとは少し違うと思いますし、いま言ったようなことでも、1年で極端に需要が動くことは私の知っている限りではありません。生産に関しては秋の段階で分かっていますので、ある程度納めるところに納められるような情報提供をして、価格の安定は出来るのではないかと思います。
 
――コメ先物は、最初の試験上場から8年が経ちました。実際に活用した経験からどのように評価されていますか。
 
小林 大潟村農協管内は組合員500名弱、9,000ha の水田がありますが、農協としては米の販売事業がない特殊な農協ですので、私は自身の米で先物をやっています。
 
最初は先物取引が始まった年(2011年)の10月に3月限で売りました。その時は東京コメ(当時の東京穀物商品取引所)しかありませんでしたし、標準品が関東コシで、秋田あきたこまちは(価格調整表で)▲1,000円。そこから持ち込んで東京の倉庫までいくらかかるかというと、経費はだいたい1,000円。そうした計算をしながら、じゃあこれくらいの値段なら良いよね、ということで、2枚200俵、トラック1台に積んで売りました。
 
それ以前の話になりますが、全中(全国農業協同組合中央会)が先物市場には否定的で、「投機筋が入り込んで価格が乱高下するんだ、身ぐるみ剥がされる市場だぞ」と不安を煽っていたんです。ただ私は、どう考えても現物を持っている農家が先物市場で売れば所得が確定できるんじゃないかなあ、とずっと思っていました。コメ先物は8月に始まりましたが、実はその年の9月に全中の冨士(重夫)専務(当時)にお会いする機会がありました。その時に「どうしてダメなんでしょうか?」と訊くと、やはり同じ答が返ってきたので、私の思いをぶつけてみました。「農家の所得が確定できるのだから、良い市場じゃないですか。何でやらないんですか」と。すると「だったらアンタがやれよ」と言われましたので、私は全中“公認”で先物をスタートしたことになります(笑)。
 
その取引自体は先ほどお話したとおり、経費がいくらかかるかなどを農家に分かりやすく、取引ごとに「組合長ブログ」で紹介してやってみたのです。最終的に12月、置場価格が上がりましたので、買い取った(買い戻した)のです。その時に「ああ、買い取ることもできるんだ」と分かりました。全中が先物市場に積極的な理解を示さない限り、なかなか農協組合員が理解することは難しいと思います。
 
私がやってみて分かったことは4つあります。1つは農家の意思で所得を確定できる機能があること。もう1つは確実に代金回収ができること。3つ目は買い戻しもできること。普通、商取引で「やっぱりやーめた!」と言ったら相手方は困りますよね。というのも、先物では「やっぱりやーめた!」と言って買い戻しても誰も困らないのです。ある意味ですごくドライな市場です。4つ目は価格が先に分かりますので、経営指標として「この価格だったら売っても良いよね」という風に活用できることです。
 
こうしたことが1年目で分かり、その後、東京コメの値段や制度設計が変わったりして少し休んでいたのですが、最近、秋田こまちが上場されました(2018年10月)ので、その時、14,700円で売りました。そして売れました。そうしたことを1枚でもいいのでやることで、かなり理解は深まります。大阪堂島商品取引所も色々と工夫していまして、新潟コシや秋田こまちなどを作っています。こうしたことをやることによって、自分たちの米の価格がいくらなのか身近に感じられましたので、これから価値が高まる市場だと思います。
 
佐藤 私は平成28年(2016年)、この年は新潟コシヒカリが過剰で異常に売れなかった年でした。余りました。私はいわゆる生産者でもありつつ、参加農家から契約を受けて委託販売する、つまり集荷・販売業者でもあります。
 
前年度までは順調に売れていたのですが、28年だけは米が穫れていて皆さんかなりの量を持ってくる。まあ毎年売れるから大丈夫かなと安易に考えていたのですが、待てど暮らせど注文が入ってこない。我々もあまり資本力があるわけではありませんから、そこまで持って(在庫して)いられない。困った。ちょうど私は先物市場の様々なところに関わらせていただいておりましたので、先物の中身は知っていました。私のいる村上市で作られるコシヒカリは、新潟産の中でも岩船産と呼ばれるものです。岩船産を新潟産として売ってしまうとちょっと価格が下がってしまう可能性がありましたので、産地が分かる売り方ということで、合意早受渡という手法でお願いしました。これくらいのボリュームがあって希望価格はこれくらいですという依頼を出しました。当然、そのボリュームによっては証拠金が必要です。
 
ところが残念ながら、その年は市場が安かったために思ったような値段では売れませんでした。でも売れなくてもその米は営業倉庫に預けてありますので、その費用負担を考えた時にどうすれば良いのか。じゃあ負担し続けて上がるのを待っていれば良いのか。当時は上がる見込みがなかったので、合意早受渡を通じて1回売らせてもらって、価格合意をしてまた2回目も売らせてもらって、合計で確か40tくらい売りました。一番良かったことは、売って代金回収の心配が全くないこと。これはもう最高です。実は私、過去に直売で60万円くらいの“授業料”を払った経験があります(笑)。それを考えれば、この市場は非常に安全であると実感しました。
 
我々大規模生産者こそが必要です。小さい農家ならば農協に出せばそれで良いのですが、規模が大きくなれば、売り先は複数なくては経営上困ることになります。ですから、今後ますます必要になってくる市場なのではないかと思います。
 
平石 大規模農家の面積が増えるなか、春先になって5ha 急に作ってくれという依頼も来ます。麦や大豆を急には作れない状況のなか、そこで収穫する米のヘッジができるのが先物市場ですし、もちろん、販売先の一つとしても確保できます。先物取引での確定された値段での取引は、私にとって安心材料の一つになっています。私は地元で法人10社と農協のCE(カントリーエレベータ)サイロ2本を借りて、そこに自分たちの米を数千俵蓄えています。生産される年によっては、必要数量が3,000俵で集荷数量が5,000俵ということもあります。その時、残り2,000俵のうち、自分たちの必要数量を除いた分の価格を決定しておく必要があります。
 
年によっては収量も変動するなかでのリスクヘッジができることは、本当に私としてはありがたいと思って、今も利用させていただいております。その代わり、昨年の出来秋に200俵分の(売り)札を入れましたが、その時16,000円弱だった米は、今年の6月に20,000円になっていましたので、何か4,000円損した気分にはなりましたが、私自身は出来秋に生産費と利益を足したなかで、16,000円弱は十分採算が合うと判断したことですので(笑)。本当に私としては有意義に活用させていただいております。〈続きを読む〉
 
〈米麦日報 2019年6月20日付〉