――以上のような実例を踏まえて、コメ先物をどのように評価されますか。

〈前回記事〉シンポジウム「需給を反映したコメの価格形成を考える」(2)米の価格がどう決まっているかを知っている消費者ほとんどいない=https://www.ssnp.co.jp/news/rice/2019/06/2019-0620-1027-14.html

青山 今の3名の方のお話を聞いていると、保険としての役割を果たすのかなと思います。先物市場が始まる前の平成15~16年頃だったと思いますが、各団体がどういった期待や懸念を持っているかという資料を見てみたところ、現在とそこまで変わっていませんでした。ただ変わっていたこともありまして、例えば、「先物取引を認めると米の生産の自由化に繋がってしまう」とか、「価格がヘッジできるようになると生産調整に参加しない生産者が出てくるのではないか」という懸念の声もありました。
農業ジャーナリスト 青山浩子氏

農業ジャーナリスト 青山浩子氏

ただ、時代としては自由化の方向に向かっていることを考えれば、先物市場を受け容れる土壌、度量が大きくなっていると思います。ただ一方で疑問もあります。参加する当業者は年々増えていますが、今年は少し出来高が減少していたり、こういったシンポジウムで出てくる生産者は必ずこのお3方で、他の方々が出てこないのは何故なんだろうという疑問もあります(笑)。
 
メンツがいつも同じで、少し広がりがないのは何故なのか。またJA系統が心配する価格の乱高下は「本当にないのか」も、私自身は先物取引とは距離がある立場ですので、情報に接しないと分からないところだと思います。
 
中嶋 先ほどから色々な声を伺っていて感じたのは、やっぱり安心して受渡できる場、そして価格も望んだ価格でというところが評価されているのだと思いますが、ある種それは現物市場の不完全性を補完するような役割を担保しているのではないかと思います。それから規模としては、差金決済は先物市場の機能ではなく、先渡契約として値段を確定するという使い方で、今の用意されている標準品を自分で使いこなせる方でないと、こうしたメリットを発揮できないんじゃないかなという気がしています。

東京大学大学院農学生命科学研究科 中嶋康博教授

東京大学大学院農学生命科学研究科 中嶋康博教授

一般論として、先物市場というのは、マーケット全体の動向を将来予想するために一つの情報をかなり作り込んでいると思います。それが故に、逆に標準品を設定して需給動向の将来予測へと繋がっていくと思います。それはマクロ全体のマーケットの動向を考える際の一つの大事な指標になっていくと思います。ただ取引が薄い場合は、それがどれくらいしっかりした指標になっているのか、人々が相当に突っ込んで取引をすることが活発に行えなければ、期待した成果は出てこないでしょう。
 
その標準品の価格動向に合わせて、あとは先ほど言ったマーケットの価格が分かれているなかで、自分の玉がどういう需給バランスになっているのかを付け加えることで、価格情報を利用できるようになるんじゃないかなと思っています。私自身はもともと、農家の方はもちろんのこと、実需者全体にとって選択肢を広げることが非常に重要だと思っています。先物市場は選択肢の一つであり、現物市場のほうが使いやすく、それによって自分の経営を十分に安定させられる取引が出来るということならば、それはそれで全く問題ないと思っているのですが、両方使える、メリットのある制度設計をしていくべきだと思いますし、例えば、小麦やトウモロコシのシカゴで立っているマーケットは、日本のコメ市場と現段階では違うと思いますので、日本ならではの仕組みを考えていただきたいなと思います。
 
――JA系統がコメ先物に反対しているのは何故なのでしょうか。
 
小林 試験上場が始まってからかなりの時間が経っているので、私の知っている組合長たちも理解は深まったかと思っていましたが、なかなか深まっていないのが現状です。ほんの数人が興味を持っているだけで、実際にやろうと声をかけてもやるという環境にはありません。

大潟村農協(秋田) 小林肇組合長

大潟村農協(秋田) 小林肇組合長

そのため、自分が売らなくても先物で売ってくれる業者が値段を提示できると、扱い勝手が出てくるかなと思いますが、農業界全体の考え方を大きく判断していくのは全中です。平成28年(2016年)に東北・北海道組合長会議というのがありまして、当時の全中の比嘉(政浩)専務に「なぜ先物取引を農家に理解させないのか」と質問しました。
 
その時は「国民の主食である米を、投機的な資金が入る先物市場に出すのは如何なものか。時期尚早である」という答でした。当時、平成30年産(いわゆる減反廃止)を迎えるにあたり、これからどんどん米の契約を進めなければいけない状況のなかで、先物取引は積極的に勉強すべきだと私は言いましたが、「時期尚早だ」と。もう30年産が瀬戸際まで来ているのにまだ時期尚早と言っているのかと思いましたが、やはり全中が「勉強しようじゃないか」と言わない限り、なかなか広まらないんじゃないかなと思っています。
 
実際のところ、米の現物が先物市場に出てしまうと、農協に米が集まらなくなる、全農の集荷率も落ちる心配もあるでしょう。ですが、1年先の価格が分かれば、作付面積や作付品種を判断する一つの材料になりますし、農家は先物市場の仕組みをしっかり理解して経営判断に利用すべきだと思います。

今まで価格変動リスクは農家と(流通)業者が負担してきた構造だと思います。単協や全農は手数料さえ入れば良いので、そこにリスクはありませんでした。先物市場で全量売るのではなく、播種前契約などのなかに、数量だけでなく先物市場の価格を利用した契約もできるはずです。特に地域の担い手には、こうした先物市場の機能を周知していく必要があるでしょう。そのなかで農協が「選ばれる」ためにはどうしたら良いのか。そうした考えをすべきであって、最初から情報を出さないというのはちょっと如何なものかと思います。さらに、利用する・しないも、農家の判断に任せることこそが経営判断です。シカゴにも穀物の市場が建っていて、有能な市場だと世界の農家が利用しているわけですから、そういった機能を知らない全中は農家への“背任行為”を行っているのでは――今日、農協関係者がいたら困りますが(笑)――それくらい、やはり情報というものはしっかりと組合員に出して、最終判断は組合員に任せることを訓練していかないと、力強い経営者、農家が残っていかないと思いますので、是非とも全中の理解も前に進めていただきたいです。
 
――生産者が先物取引に参加、あるいは先物取引を活用するためには、何が必要でしょうか。
 
佐藤
以前から(大阪堂島商品取引所のコメ試験上場)検証特別委員会に参加させていただくなかで、私は色々な意見を述べさせていただいてきました。

新潟ゆうき 佐藤正志代表

新潟ゆうき 佐藤正志代表

そのなかで、私は先物市場が輸出に対応できないのかと提案しています。というのも、中国や様々な国がコメ先物市場に入ってきているわけです。だったら日本も、海外に需要があるならば、受渡場所を海外にできるようなスキームだと、生産・上場する我々は輸出に対する知識がなくても輸出が出来ます。そうしたこともご検討いただければ、もう少し現場の利用が広がるのかなと。もう一つ、これは先ほどの繰り返しなのですが、規模拡大が進んだ時に、必ずしも日本市場だけでは物事が出来ません。そうした時に我々現場で困るのが、米を作る必要がある圃場、汎用化できない圃場に関しては、農地を守る意味でどうしても作付を維持する必要があります。すると、売れないものを作って市場に出しておかしくなるよりは、やはり海外に市場を求めることが自然なんだろうと考えています。是非そうしたことも工夫いただければありがたいです。
 
平石 青山さんからもご指摘があった通り、先物取引の目的も含め、農家にとって良いこと、売り手にとって良いこと、買い手にとって良いこと、このなかで、生産者にとって一番良いことというか、私が希望するのは、今、証拠金、口座開設などの手続きが必要で、それをやらずに済む、そこに入ってくれる先物会社のほうで、全責任を負ってもらう契約を農家と紙1枚ですることによって、通常、近所の業者に「今年、米50俵売ってくれ」というような、商系業者から田植直後に「これで買います」というような値段がFAXで届きます。

全国稲作経営者会議 平石博会長

全国稲作経営者会議 平石博会長

それと同じような感覚で先物取引により農家が販路と販売価格を獲得できるような仕組みも、出来ないことはないのではないかなと。騙して逃げるような農家は恐らくいませんので、契約書を1枚交わすことによって、そこの自由度が増せば、生産者として色々な形での販売先の候補に格段となると思うので、そこをご検討いただければありがたいです。
 
――最後に、望ましい価格形成のあり方、その方向性とは。
 
青山
先物取引は本上場の瀬戸際だと思いますが、先物が上場されることで米の価格形成が全て透明になるかというとそうではなく、今日議論された全体についても見直して、両輪というかセットにしていかなくてはならないので、先物が上場されて全てが解決されるとは思わないです。ただ、試験上場を何度も繰り返すのは望ましくないと思います。やはり何回も延長されたということは、当業者にとっても投機筋にとっても、そこまで支障がないから試験上場を繰り返しているという受け取り方もできてしまうわけです。あまり知らない人間からすると、なくても大丈夫だから試験上場が続いているのかな、とも受け止められかねないので、ここは農水省にも決断を求めたい――と偉そうなことは言えませんが。
 
お聞きすると、そもそも試験上場が認められた時が民主党政権下で、今は自民党政権だから認められないというような政争の道具にしてしまうのは一番望ましくないですし、それこそ主食を政争の道具にしてしまうのはマズいと思いますので、どちらにせよ、決断するタイミングに来ているのかなと思います。
 
中嶋 価格形成の問題の一つは、あるべき価格の水準はどれくらいかという問題があるとは思いますが、もう一つは、それはあまり大きく上下させず、ある程度安定した枠のなかに収め、また、それはその時の豊凶変動によって変わらざるを得ない面はあるかと思います。ただ、やたら増幅させるような仕組みになっていないことはとても大事だと思っています。この議論のステークホルダーというのは、農業生産者だけではなく、流通・実需者も入っていますし、さらに言えば消費者も入っています。そういう方々が価格リスクに曝されないようにするための安定機構として、機能するかどうか。生産者にとって売りヘッジ、実需者にとって買いヘッジがかけられるようなものが必要だと思っています。
 
食糧部会の議論で私がとても気にしているのは、やはり農家が経営判断に迷って、生産が不安定になってしまうことが心配です。安定した収入が確保できる仕組みが、当然必要だと思っています。国は、今後、契約をもっと増やしていきましょうと言っていて、実際にそうした実績が積み上がっているわけですが、量的な契約はあったとしても、価格面ではその場では決められないというのがほとんどだと思います。すると、事後的に価格がどうなのかが分からないならば、やはり心配なことです。
 
もちろん、収入保険に入っていれば、そのリスクは多少ヘッジできますが、ナラシ(収入減少影響緩和対策)だと不充分な場合があります。私は先ほどから申し上げている通り、選択肢の一つとして先物を使える可能性を持っておいても良いのではないかと思っています。そのなかで、価格がある程度見通せるような経営計画が立てられるようなものに使えるような余地を残しておいてもらいたいです。
 
ただ、逆に先物があるがために価格が暴落暴騰するんじゃないかというご懸念があることも承知しているので、サーキットブレーカーをちゃんと用意しながら、そもそも期待されているような機能を果たすような制度設計をしっかり用意した上で、選択肢の一つとしてご用意いただくというのは、今後の検討の一つのポイントではないかと思っている次第です。〈この項、了〉
 
〈米麦日報 2019年6月21日付〉