先物はコメ生産・流通円滑化に「必要かつ適当」か 塩川白良食料産業局長に訊く「本上場不認可と試験上場認可の狭間」

塩川白良食料産業局長
大阪堂島商品取引所(岡本安明理事長)が申請したコメ先物の本上場(7月16日)。監督官庁である農水省の事実上「不認可」判断(7月22日)を受けて、堂島商取は本上場申請を取り下げ試験上場の再々々延長を申請(7月29日)とスッタモンダした挙げ句、去る8月7日に試験上場を正式認可することで結着した。この間の数々の疑問を、所管部門のトップである食料産業局・塩川白良局長に真正面からぶつけてみた。インタビュー日は、奇しくも8年前に認可された8月8日である。

――商品先物取引法によれば、本上場を認可する要件は、「申請に係る上場商品の先物取引を公正かつ円滑にするために十分な取引量が見込まれることその他上場商品の取引の状況に照らし、当該先物取引をすることが当該上場商品の生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であること」。今回、本上場申請を「不認可」としたのは、この「十分な取引量」に達していなかったとの理由でした。その「十分な取引量」とは、「1日あたり平均出来高」なのは分かりますが、それは「枚数」ですか「重量ですか」。

塩川 「枚数」です。過去というか先物の世界では「枚数」で見るのが筋だそうです。8月5日の与党会合に提出したペーパーでも、「枚数」が過去最低だった点を指摘しており、「重量ベース」の指摘は「参考」に掲げているに過ぎません。まぁ、そちらも過去最低だったわけですが。

――「1日あたり平均出来高」(枚数)を、試験上場期間だから当たり前ではありますが、2年ごとで比較しています。しかし、昨年10月のザラバ移行の後は増加傾向にありますが?

塩川 ええ。確かにシステム変更以降、持ち直したことは承知しています。しかし、それでも1,217枚。2017年から直近までの2年弱885枚よりは多くなっていますが、第3期(2015~2017年)の1,548枚は下回っています。したがって「十分な取引量」に達していない点は同様です。

――もう一つの要件は如何ですか。

塩川 ああ、「生産及び流通を円滑にするため必要かつ適当であること」の箇所ですか。検討していないと言うと語弊がありますが、「十分な取引量」に達していない時点で、「不認可」判断に至らざるを得なかったので、今回の判断では勘案していません。「十分な取引量」と「必要かつ適当」は、両方ともクリアしなければならない並行要件なので、片方が引っかかった段階でもう片方を勘案する必要がなくなったという判断です。

――次に、試験上場を認可した理由です。本上場の場合に比べて消極要件なのは分かっていますが、それにしても全く同じ出来高を指して片や「不認可」片や「認可」とした根拠が、今ひとつ得心いかないのですが。

塩川 そこは法律に明記してある要件を素直に読むしかありません。本上場要件は「十分な取引量が見込まれること」。試験上場要件は、「十分な取引量が見込まれないこと(略)に該当しないこと」。つまり本上場には「十分な取引量」が必要ですが、試験上場の場合は、ものすごく少ない量でなければ良い、ということです。

――確かに試験上場要件の法解釈として内閣法制局との間で合意したメルクマールは「十分でなくとも一定程度当業者の利用の意向があるかどうか」だとは聞いています。しかし、具体的な数値はどこにも明記がありませんよね。

塩川 確かにそうですね。具体的な数字は書いていません。でも、まぁ、過去に他の先物商品の試験上場から本上場に至った枚数なら、一つの目安にはなるのではないでしょうか。もちろん、そこをクリアしさえすれば、絶対に認可できる、とまでは言いませんが、あくまでも一つの目安にはなるでしょう。

――試験上場のもう一つの認可要件「生産及び流通に著しい支障を及ぼし、又は及ぼすおそれがあることに該当しないこと」については如何ですか。

塩川 こちらも同じことです。少なくとも悪影響を与えているとは認められなかったわけです。

――“単体”で考えれば、試験上場を認可した理由はよく分かりました。しかし、4度目の延長という点は如何でしょうか。過去の試験上場品目の例では、最大でも3年×3回=9年が最大でした。ところが今回でコメは2年×5回=10年。異例の長さと言うべきでしょう。

塩川 確かにそうですが、制度上、回数や年数に明確な上限が設けられているわけではありません。

――そうですが、すでに4年前に「もうこれが最後」という旨の局長通知が出ていましたから、普通に考えたら今回、本上場を不認可にした段階で、試験上場の延長も認めず、上場廃止にするのが自然なのではないでしょうか。

塩川 随分と過激なことを言いますね(笑)。「上限破り」であったかどうかはともかく、今回、試験上場の延長を認めたのは、先ほどの2つ目の要件「著しい支障」の件りに対して、少なくとも悪影響を与えているとは認められなかったと申し上げました。内閣法制局との間で合意した法解釈では、この箇所「生産・流通・価格政策と整合的であるかどうか」となっています。で、この2年の間、大きな政策変更がありましたよね。端的に言えば平成30年産からの生産数量目標の配分廃止、一般に「いわゆる減反廃止」と呼ばれている政策変更です。これに「整合的であるか否か」、端的に「悪影響を与えているか否か」は、1年だけでは判断がつかなかったというのが正直なところです。そこは与党の申入れ書に「試験上場期間中に、平成30年産からの行政による生産数量目標の配分の廃止の影響を見定め」と出てくるでしょう。あそこと同じ思いです。もう2年、様子をみましょう、ということです。

――自民党の申入れ書には「これ以上の延長は試験上場制度の趣旨に沿わないことから行わないこと」とも明記されています。2年後に試験上場の延長はあり得ない?

塩川 基本的に、与党の申入れは重たいものだと受け止めています。普通に考えて2年後は、本上場申請していただくか、あるいは何もしないか、でしょうね。

――改めてお訊きしますが、2年後にまず「1日平均出来高(枚数)」が、1,548枚を相当大きく上回っていないといけない?

塩川 役人的で申し訳ありませんが、「十分な取引量」と言える水準であれば、です。

――最初に枚数ベースだって仰いましたよね。なら、取引単位を小さくすれば自動的に枚数が増えますけど?

塩川 考えてもみなかったなあ(笑)。ただ、今の各商品ごとの取引単位・受渡単位には、それぞれ意味があるんでしょう? 1車単位とかフレコンとか。そこを崩してしまうような商品設計にしては、当業者の利便性を削ぐことになりますから、かえって出来高を減らすことに繋がりませんかねえ。

――もう一つ、「必要かつ適当」の箇所、端的に言えば「いわゆる減反廃止」への影響については……。

塩川 昨日、試験上場を認可したばかりです。いくら何でも気が早すぎるでしょ。2年も先の話ですから、コメントのしようがありません。おかしな邪推や憶測を呼んでも困りますしね。

――どうもありがとうございました。
 
〈プロフィール〉
しおかわ・しらら 1984年(昭和59年)東大農卒、農林水産省入省。2003年(平成15年)大臣官房情報課調査官、経営局総務課調査官、2006年(平成18年)大臣官房企画評価課調査官、大臣官房参事官、2009年(平成21年)総合食料局食糧部食糧貿易課長、2011年(平成23年)経営局総務課長、2012年(平成24年)大臣官房地方課長、2014年(平成26年)東海農政局次長、2015年(平成27年)大臣官房政策評価審議官、2018年(平成30年)大臣官房政策立案総括審議官、農林水産政策研究所長、2019年(令和元年)4月1日から食料産業局長。神奈川県出身、58歳。

〈米麦日報 2019年8月13日付〉