農水省、新たな食料・農業・農村基本計画「骨子案」提出、食料自給率指標「倍増」に「分かりにくい」の声

農林水産省は2月21日、食料・農業・農村基本法に基づく新たな食料・農業・農村基本計画の「骨子(案)」を明らかにした。同日の自民党・農業基本政策検討委員会、食料・農業・農村基本政策審議会企画部会にそれぞれ提出したもの。この段階では個別の数値は空欄のままで、
〈1〉基本的考え方
〈2〉食料自給率
〈3〉具体的施策
〈4〉施策の推進
――からなる枠組みを包括的に示したにすぎない。

最も注目を集めたというか話題にのぼったのは、当然のことながら「食料自給率」。現行基本計画では「カロリー(供給熱量)ベース」と「生産額ベース」の2パターンで示している食料自給率目標に、新たに「産出段階ベース」(飼料自給率を反映しない)を加えるところまではすでに明らかになっていたが、今回の骨子案で明らかになったのは、「産出食料自給率」も「生産額ベース」と「カロリーベース」で示すということ(加えて飼料自給率も示す)。

つまり掲げる食料自給率目標が2パターンから4パターンに「倍増」するわけで、自民党でも企画部会でも「分かりにくい!」との反応の大合唱になった。これに対し、農水省側は大臣官房の浅川京子総括審議官が「適切なメッセージを込め、組み合わせを変えるなど工夫し、丁寧な説明に努める」と応じている。

ただ「産出食料自給率は置いておいて、その前に現行基本計画では、カロリー自給率がまずあって、その後に生産額自給率が来ていたが、今回の骨子案では生産額ベースが先に来ている」(企画部会・柚木茂夫委員=全国農業会議所専務)との指摘には、明言を避けている。

また最終的に食料自給率目標を弾き出す際の品目別生産努力目標に「飼料用米が抜けている」(企画部会・中家徹委員=全中会長)、あるいは「飼料用米の生産努力目標は、現行基本計画のように“浮き世離れ”したものとならないように」(企画部会・三輪泰史委員=(株)日本総合研究所エクスパート)との指摘があがり、天羽隆政策統括官が「今回は骨子なので。もちろん飼料用米も生産努力目標に含まれている。実際の数値設定にあたっては“浮き世離れ”したものとならないよう詰めていく」と応じている。なお食料自給力指標に「現在」(基本計画策定時)だけでなく「10年後」(基本計画の目標年次)も示すとした改良点には、評価の声があがっている。

情けないことに最大の特徴は、基本計画にサブタイトルが付いたこと。「人口減少時代の農業・農村と食料供給」という「包括的な」(農水省)サブタイトルは、「これまでの農政改革の“成果”や国内外の情勢変化を踏まえ、人口減少が本格化する社会にあっても、食料・農業・農村の持続性を高めながら、農業の成長産業化を進める『産業政策』と、多面的機能の発揮をはかる『地域政策』を車の両輪として進め、国民生活に不可欠な食を安定的に供給していく」という長い“説明”が付属する。

自民党論議では、この件りを説明したのが小野寺五典委員長(衆・宮城6区)であったためか、むしろ賛成の声すらあがっていたが、企画部会では「陳腐にすぎる」(企画部会・大山泰委員=(株)オウケイウェイヴ社長室長兼オウケイウェイヴ総研所長)と、にべもない。「人口減少なんて実際に実現する10年も前から予測されていたことだし、食料・農業・農村の持続性なんて百万回も聴いた。単に法律の名前を持ってきて列挙しただけ。せっかくサブタイトルを設けるなら新しさ、売り、狙いは何かをズバリ指摘すべき」。この指摘に、農水省側は直接的に言及していない。

また骨子の「具体的施策」を構成するのは、
〈1〉《食料》の安定供給の確保に関する施策(6施策)
〈2〉《農業》の持続的な発展に関する施策(9施策)
〈3〉《農村》の振興に関する施策(4施策)
までは“例年”通り。ここに

〈4〉東日本大震災からの復旧・復興と大規模自然災害への対応に関する施策(東日本大震災からの復旧・復興、大規模自然災害への備え、大規模自然災害からの復旧の3施策)
〈5〉団体に対する施策
――が加わった点も特徴的。3月上旬とみられる次回会合で、いよいよ食料・農業・農村基本計画の原案が登場する運び。

〈米麦日報2020年2月25日付〉