農林水産省に7月1日付で誕生した「農産局」。その初代局長に就任した平形雄策氏は7月14日、食品産業新聞社の単独インタビューに応じた。所管分野が大きく拡大した中で、今後の米政策をどう進めていくのか訊いた。また、目下の緊急買入については改めて否定している。

――新・農産局の誕生と農産局長就任から2週間が経ちました。 

政策統括官時代から所管している米・麦・大豆・甘味資源だけではなく、旧生産局の領域だった野菜・果樹・施設園芸・花きが新たに加わりました。それぞれの市場や業界には一つひとつ背景があり、一定の合理性があり、そして課題があります。農産局長という立場上、品目ごとの状況がより俯瞰でき、実感できるようになりました。耕種農業という広い括りでの一貫した政策を考えられるようになった一方、引き受ける責任の重さを感じているところです。

「農産局=耕種農業」とはいえ、品目ごとの事情はよく考えていく必要があります。米は年1作ですが、野菜はものによって数か月のスパンで回っていますし、逆にお茶は一度植えたら数十年は収穫できます。単純に耕種で一括りに一本化するのではなく、できるだけ生産者の選択の自由度を高めつつ、それぞれの世界で合理性があるものは維持していかなくてはならないと思っています。ちなみに、今回の内示が出たとき、私の前任者(天羽隆前政策統括官=現林野庁長官)は、「(林業なので)半世紀も先のことを考える仕事をしなくてはならなくなった」と呟いていましたね(笑)。

――改めて農産局の狙いは。 

水田農業でも畑作でも、やはり共通しているのは需要に応じた生産の推進だと思っています。米の世界ではずっと申し上げてきたことですが、例えば麦ならば小麦があり、大麦の中でも二条と六条があり、さらにもち性の有無やひきの強弱、ビール適性まであるわけです。麦だけでも本当にこれだけある中で、実需が何を求めているのかを考えながら作らなくてはなりませんよね。かつては足りない時は作れば売れる、という時代があり、生産者の技術がどんどん向上していく時代がありました。実需が今まで求めていた以上の量が出てきた時に、それをどうやって外国産から置き換えて使ってもらおうかという点にあたるかと思います。

そこで、本当の意味で実需を捉えた生産の仕方がいま求められているのではないでしょうか。現在は水田の中でも野菜など他の作物にも取り組んでいただき始めたところですので、米だけではなく他の作物でも、水田であっても畑作であってもまさに需要に応じた生産をやっていくというところが、一番のポイントになるのではないでしょうか。

その意味では、従来の「米農家」というよりも「水田農業経営者」の時代に入ってくると思います。例えば、米が本当に足りない時は米に軸足を置いて作っていただき、米の需給が緩和している時には他の作物を作っていただく。数%ずつ作付を転換しながら経営を安定させ、その時の作物選択をできるだけ自由にやっていただけるような環境作りをこの農産局が担うという意識を持っています。

――足元の米の需給については。 

2020年来、在庫が例年よりも高い水準になっています。もちろん、外食を中心に新型コロナの影響があったと認識していますし、2020年の一年間は集荷・販売段階のいずれも在庫が増えていました。ようやくここ10か月ほどで、特に販売段階の在庫は徐々に軽くなってきたところです。一方、いまだ集荷段階の在庫は高水準にあります。関係者の方々が販売先に苦労されて、既存の実需者とも相談しながら、新規で様々なところに売り込んでいっていただいたおかげで、最近になって販売量が回復してきました。需要を見ながらの保管と流通に物凄く苦心していただいたことに、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

一方、徐々に光明が見え始めた矢先に、令和3年産主食用米を例年通り作ってしまうとまた在庫が増えることになりますから、2021年はいかに転換への意識を高めていただくかがポイントになっていると認識しています。もちろん、6月末で営農計画書はご提出いただき、新型コロナの影響で事務的な時間が必要な地域再生協とは、いま相談しながら調整しているところです。それがある程度落ち着けば、全体の姿が見えてくると思います。

――過去最大である6.7万haの転換が求められるなか、4月末で3.7万haの転換が見込まれています。焦点は5〜6月の上積みですが、感触は。 

現在、集計している最中であるため具体的な数字は申し上げられませんが、5〜6月の2か月間となると麦や大豆への転換は難しいですから、そうなると主食用米から例えば飼料用米など、産地キャラバンでは米の中での転換を中心にお願いしてまいりました。ここ数年の作柄が良くなかった西日本では転換が難しい産地もありますので、特に北海道・東北・関東・北陸を中心に進めましたが、2021年は例年に無く取り組んでいただいたという印象です。全国で見た場合の最終的な数字がどうなるかはまだ判りませんが、産地の方々にもご尽力いただいたことに感謝を申し上げたいです。

――一方で、一部からは政府備蓄米による緊急買入を求める声も挙がっています。 

改めて申し上げますが、現在、備蓄米の運用ルールは棚上備蓄です。主食用の需給に影響を与えないよう市場から隔離し、5年間保管して、その後も主食用には戻ってこない形で売却しています。主食用の需給そのものに備蓄制度が――需給のための調整弁になってしまっては、備蓄制度そのものの本旨とは異なってしまいます。この点については前任者からも一貫してルールをご説明申し上げてきたところです。

その中で産地の方々には、備蓄が需給調整を果たすものではない、ということを前提に、2021年の作付について考えていただき、取り組んでいただいたのではないかと思っています。仮に途中で緊急買入を行ってしまうと、「生産者自らの経営判断による需要に応じた生産」を柱にしたこれまでの米政策改革を反故にすることになりますし、何よりも、真剣に転換に取り組んでいただいてきた生産者への背任行為になると思います。

――国がより積極的に関与していた頃に戻すべきという意見もあります。 

「生産者自らの経営判断による需要に応じた生産」が徐々に定着し始めているなかで、元に戻してしまうような、意欲のある方々の努力を無にするようなことはしてはいけないと思っています。それは常に一貫しているつもりです。もちろん、我々も様々な工夫をしていく必要があります。

政策を考える上での軸は、最終的にどこにどれくらい売れるのか、それを踏まえてメインの作物を何にするのか、それ以外の土地では何を作付するのか、いま一番バランスの良い経営構成は何か――と常に考えていただき、円滑に経営を転換していただくということです。そのための政策は何か。それが全ての軸です。

――2021年7月下旬には食糧部会が控えていますが、需要見通しは現行通りの算出方法で臨まれる予定ですか。 

まずは統計的な話になりますが、2021年6月末在庫の確定値が出てきますので、そこから2020年7月〜2021年6月の需要実績(速報値)を算定し、2021年7月〜2022年6月の需要見通しをどう考えていくかというところです。もちろん、2020年も新型コロナの影響はある程度出ていましたし、実は省内でそれをどう反映させるかについて議論がありました。2020年は回帰式(トレンド)で導き出した1人あたり消費量に推計人口を乗じる従来の方法に加え、11月の指針では需要減少分のうちどれくらい新型コロナの影響があるのかを推計して加味しました。2021年は当初の見通し以上に緊急事態宣言やまん延防止等重点措置など新型コロナが長期化する一方、春先以降は2020年よりも外食の回復が見られるところです。重要なのはそれをどう組み込むかですので、可能な限り分析して、お諮りしたいと思っています。

――8月には来年度の概算要求がスタートします。 

まだ概算の玉も出てきていませんし、需給フレームが固まっていないので詳細は詰められていませんが、2020(令和2)年度第3次補正予算で前倒し的に実施した新市場開拓に向けた水田リノベーション事業や麦・大豆収益性・生産性向上プロジェクトの考え方は、来年度概算要求にも何らかの形で反映させていきたいです。

省全体としては「輸出・国際局」が誕生し、「みどりの食料システム戦略」がありますので、農産局としてもその切り口で何ができるのかは考えていかなくてはならないと思っています。

――局長は3年あまり経営局経営政策課長に就かれていましたが、経営所得安定対策については。 

現在は大きくナラシ(収入減少影響緩和交付金)のほか、ゲタ(畑作物の直接支払交付金)、収入保険といった様々な形のセーフティネットがあります。それぞれ加入要件が異なり、水稲や麦・大豆が主力ならばナラシはまさにフィットする形ですし、六次産業化に注力している場合や野菜・果樹なども含めた経営ですと、収入保険はバランスの取れた制度だと思っています。農家に選択の余地があるのは良いことだと思っていますし、それぞれの経営規模などに応じて要件が異なるので、その時々の農業構造に合ったセーフティネットを用意していくということも、長いスパンでの時間軸から考えていくと必要だと思います。

私が経営政策課長の時に最も懸念していたのは、高齢化が進むなか、ある程度スピードを上げて構造転換を進めていかないと、耕作放棄地が想像よりも遥かに出てくるのではないかということでした。もちろん、厳密には農地政策担当ではありませんでしたが、農業経営体としての法人化や集落営農といった組織化、現在の実質化以前の「人・農地プラン」、新規就農者確保など、やはり地域の中で核になっていただく方に対しての政策を充実させ、農業で伸るか反るかという方の経営をどうやって支えるかが、当時の私にとっての一番大きな課題でした。

その意味では、経営所得安定対策を考える上では、農業経営が担い手にある程度集中するなかで、経営規模など各段階にマッチした政策を用意するという意識が重要だと思っています。構造改革のスピードと今の政策がマッチしているかという意識は常に持って取り組んでいきたいと思っています。

先ほど少し触れた「みどりの食料システム戦略」に関連させると、ナラシやゲタと同様、第一義は良い産物をできるだけ多く生産していただくということですが、一方、多くの肥料や農薬を投入して最大限の所得をあげることを今後も突き詰めて、20年後、30年後もずっと売り続けられるか――それは少しずつ考えていかなくてはならないと思っています。仮に諸外国が持続的な農業へどんどんシフトしていくとすれば、外国から輸入する農産物は当然そうした方法で生産されたものになります。でも、国内の農産物が現在のように作られ続けていたら、国内の消費者は「あれ、日本の農業ってこういうものだっけ」となるでしょう。

単なる生産面に限らず、環境負荷のできるだけ低い形の産業というのも、一つの目指すべき軸としてあるのではないかと思っています。それを今のナラシやゲタ、あるいは水田活用の直接支払交付金の中にどう落とし込んでいくかですね。いえ、短期的にどうこうという話ではありませんが、もっと長いスパンで考えた場合にそういう意識を持ち、将来にわたっても外国に引けを取らない農業体制を作りたいというのが本音です。

――余談ですが、本紙の過去記事検索システムで局長のお名前を検索すると、一番最初に出てくるのは2009年4月の通称「石破シミュレーション」の記事です。

ああ、私が大臣官房参事官だった時ですね(笑)。よく覚えています。当時、私は「米政策シミュレーション担当」の責任者として、様々な状況を仮定した米価シミュレーションを作りました。生産調整を強化する、もしくは維持、ないしは緩和・廃止するとか、転作作物への助成や経営所得安定対策をどうするかとか、計9パターンの米価シミュレーションです。

当時は生産調整を廃止したら米価が急落する、という点に注目が集まってしまいました。たしかに、短期的には緩和・廃止関連の選択肢で米価は大きく下がる結果が出ましたが、その後、構造改革の進展とそれに応じた経営所得安定対策などを適切に講じることで、中長期的には安定した米価が実現するという側面もあり、そこが肝の一つでもあったのです。経営所得安定対策に限った話ではありませんが、その経験もあり、構造改革の進展をよく見極めながら政策を打たなければならないと常に意識しています。

――農産物検査の見直しはようやく一区切りを迎えました。 

意識したのは、なるべく従来の検査制度そのものも続けながら新しい方法も導入する、裏を返せば選択肢を増やすということです。従来の手続きのままで米流通が滞りなく進むということは、安心材料として担保する必要がありました。ただ、従来とは異なる方法――例えば機械を中心とした機器判定――などは、これから様々な広がりがあると見込んでいます。新たな方法が普及していけば、従来とは全く異なる消費者への訴求手段なども生まれる可能性がありますよね。

まあ、一区切りというよりも、さらに新しい話がたくさん出てきていて、思った以上に展開が早いとも感じています。JASを農産物検査代替にする、という当初の議論からすると、農協系統を始め、皆さんに当事者意識を持っていただいた中で検討会が進められたと思っています。そして本当に重要なのは、時が経っても皆さんに使っていただける仕組みにすることです。生産から始まり、出口がしっかりあり、ゆくゆくは「日本の米ってこういう売り方をしているんだ」と、世界に誇れる仕組みにしていきたいですね。

――では、最後に改めて新・農産局長としての抱負を。 

やはり生産者が作る農産物は「商品」ですので、実需者や消費者に喜ばれ、支持されるのが一番重要だと思っています。彼らをできるだけ繋いで、消費者から支持される農業・流通業・製造業を少しでも実現していきたいと思っています。10年後、20年後と言わず、50年後になっても、しっかり日本で生産された農産物が国内外の消費者に評価されて「欲しい!」と言われるような産業を実現できるよう、やはり行政としても後押しし、汗をかいていきたいと思っています。皆さんも同じ気持ちだと思いますので、一緒に意見を交換しながらそうした社会を作っていけるよう、お互いに頑張っていきましょう!

――どうもありがとうございました。 

【プロフィール】
ひらかた・ゆうさく 1964年4月生まれ、群馬県出身。1989年3月慶応義塾大学法学部卒、同年4月農林水産省入省(Ⅰ種・法律)。2005年4月大臣官房企画評価課調査官、2009年1月大臣官房参事官、同年10月経営局協同組織課長、2012年6月経営局経営政策課長、2015年10月食料産業局総務課長、2017年7月大臣官房予算課長、2018年7月政策統括官付農産部長などを歴任。2021年7月から農産局長。