先日、静岡・富士宮地区にある肉用牛農家を訪問した。肉牛(交雑種)350頭を日夜、今年62歳になる牧場オーナー夫妻と娘さん、わずか数人の従業員で切り盛りする小規模経営だ。富士山麓にある4haの牧草地に繁殖雌牛を放牧しているのが特長で、自身の名前をブランド名に使うなど、牛に対する自信とこだわりが伺える。

この牧場の牛肉は、主に地元の食肉卸を通じて首都圏のホテル・レストランなどで販売されている。小売りは牧場内に設けた直売所のみで、スーパーや電話注文、ネット販売は一切行わない方針だ。その理由を「私の思いが伝わり難いから」と強調する。

生産者のこだわりや思いを消費者に伝えることは難しい。最近はSNSなどを通じて農家と消費者が直接つながって伝えるケースも増えているが、その思いを商品価値として消費者に橋渡しするのは中間流通だ。

そこで件の牧場のオーナーは「ぜひ一度牧場に来てほしい」と訴える。その牧場では、たとえ遠方のレストランでも、必ずオーナーシェフに訪問してもらい、牛たちに触れ、お互いに思いを語り合い、価値を共有し合う、それが取引の大前提というのだ。「ネットで注文できる時代だからこそ、お互いの顔を合わせ、誠意をみせてゆくこと大切にしたい」とそのオーナーは強調する。

まさに直接相対することに勝るものなしということか。

〈食品産業新聞 2017年10月26日付より〉