不二製油グループ本社「グローバル企業としてブランド力を高める」/清水洋史社長・2021新年インタビュー

不二製油グループ本社・清水洋史社長
――コロナを契機とした変化について

コロナを契機としたニューノーマルにより、世の中が否応なく変わろうとしている。同様に、当社もさまざまな意味で変わらなくてはならない。速やかな企業変革が必要だ。

当社の歴史を振り返ると、製油業界で後発だったため、さまざまな新事業に取り組み、失敗しても学びながら成長してきた。日本の人口が減少する中、日本だけでは限界があり、海外で大きく発展するため、グローバル化を進めている。

中期経営計画「Towards a Further Leap 2020」(2017〜2020年度)では、事業ポートフォリオの最適化を図り、業務用チョコレート事業を強化してきた。ブラマー社(米国)、ハラルド社(ブラジル)など、海外のグループ会社が思うような利益を上げるのは簡単なことではない。その最中に、コロナ禍が起こり、世界中で影響を受けている。

コロナを機に、メーカーの本質、働き方を考える上で大事なのは製品をつくる現場であり、売る現場であると、改めて認識した。

ESG(環境、社会、ガバナンス)経営の「社会」の中心は、従業員である。当社の創業者にはESG経営の概念と合致する考えがあり、2015年に制定した「不二製油グループ憲法」に「人のために働く」という項目を入れた。

全てのステークホルダーとつながっているのは従業員であり、従業員が安心して働ける仕組みが大事だ。環境問題への対応を含め、ESG経営が一段と重要になってきている。その考えの原点は「人のために働く」、という「人間本来の願望の本業で実現」することにある。

2020年6月には主要原料であるパーム、カカオ、大豆のサステナブル調達コミットメントとKPIを公表。その結果、2020年末にはCDPで世界初のトリプルAという評価をいただいた。

〈「フォアキャスト」と「バックキャスト」を交差させる〉
――経営戦略への影響は

現在から考えて手を打つ「フォアキャスト」と、未来の姿から考えてロードマップを描く「バックキャスト」を交差させるのが私の考え方。フォアキャストから、チョコレート事業を強化している。

将来どのようなお客様のどのような困りごとを解決するのか、バックキャストを明確にしなければならない。コロナにより、バックキャストが10年、20年早まったと感じている。

DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速し、人々の考え方、価値基準が変化した。その基準として幸福感が重視され、「私が」「私だけ」といったパーソナル対応が求められてくる。例えば、健康状態に応じて「○○様にはこの大豆メニューがおすすめです」といったことが、DXで実現できるようになる。

欧米を中心に世界で、食とテクノロジーの融合によるイノベーションで食分野の課題解決を図る「フードテック」が注目されている。有名な植物肉のスタートアップであるインポッシブル・フーズが躍進している。2020年秋には日本でもフードテックに取り組むプロジェクトが立ち上がり、不二製油も参画した。

――2019年9月に大丸心斎橋本館に直営店「アップグレードプラントベースドキッチン」を出店し、2020年秋には東京・有楽町にポップアップショップ「アップグレードトーキョー」を期間限定出店した。手応えはいかがですか

有楽町のポップアップショップは、多くの感度の高い方にご来店いただき、好評だった。大豆は栄養価が高く、環境負荷が低い。アップグレードでは大豆を使った、新感覚のプラントベースドフード(PBF、植物性食)メニューを提供している。豆乳クリーム、豆乳チーズ、大豆ミートを使ったラザニアや、ウニ様素材「ソイウニ」のグラタンなどが人気を集めた。

自然環境と人間にやさしく、おいしいことが支持された。これが5年前であれば、違っていただろう。大豆ミートと聞いて、今は「食べてみたい」という声をいただける。時代とともに価値観が変わっているところに、不二製油はコミットできて手ごたえを感じている。

欧米では、コロナ禍が環境意識を一層高め、環境負荷の高い肉中心の食生活からフレキシタリアン(ゆるい菜食主義)が増えている。日本でもそのようなことが起こってくる可能性がある。

〈「食のインテル」として存在感を、次世代の大豆ミートを開発中〉
――BtoCビジネスへの感触は

不二製油はBtoBが中心の食品素材メーカーである。一方、消費者を見ると、今や家庭では、スーパーだけでなく、EC(Eコマース)で産地直送などを利用し、食材を直接購入できる。コロナでDXが加速し、流通の経路依存性が少なくなった。BtoCというプラスアルファの業態への可能性も視野に入れたい。

既存ビジネスを粘り強く維持発展する上でも、業態の可能性を広げる上でも、ブランド力、企業価値の向上が欠かせない。「インテル入ってる(Intel Inside)」のインテルはBtoB企業だが、世界中の誰もが知っている。ブランド力を高め、「食のインテル」としての存在感を出していきたい。

――豆乳クリームバター「ソイレブール」が好調だ。今後のPBF新製品は

ソイレブールは、「USS製法」で作られた豆乳クリームを使用し、独自の乳化・発酵技術により開発した。「バターではないが、かえってあっさりしておいしい」といった感想をいただく。おいしさに加えて、サステナブルな素材としての関心も高まり、採用が広がっている。

大豆ミートなどの素材である粒状大豆たん白の需要増に対応するため、生産能力を昨夏増強した。圧倒的においしい次世代の大豆ミートの開発を進めている。不二製油は、油脂とたん白の技術に強みを持つ。いわゆる肉がおいしいのは脂があるから。油脂とたん白の技術を生かし、次世代の大豆ミートを実現したい。 

新製品ではないが、プロテインブームの中、大豆たん白を吸収しやすくさせた大豆ペプチドが再びブームになると見ている。

〈大豆油糧日報2021年1月14日付〉