【ダイショー 松本社長インタビュー】“共創”で新市場を拓く ファンを大切にする会社へ

ダイショー 松本 俊一 社長
ダイショー 松本 俊一 社長

福岡発祥のダイショーは、焼肉のたれや「味・塩こしょう」でおなじみの調味料メーカーだ。近年は人気ラーメン店とのコラボによる名店監修シリーズのヒットで、鍋つゆ市場に新ジャンルを創出。この好調をうけて増産体制を整え、今年8月から関東工場で新ラインが稼働している。第60期の節目を迎え、松本俊一社長に話を聞いた。

◆「ファンを大切にする会社」づくり

――入社以来、さまざまな部署を経験されていますね。

すべての業務を経験しつくしたとは言えませんが、部署ごとに抱えている課題や社員のみなさんが考えていることを感じとれたのは貴重な経験でした。それぞれの思いを束ねて、全社一体となって同じ方向を向けるよう10年後を見据えた長期ビジョンをつくりました。

営業や開発、マーケティング、生産、管理など部署の垣根を超えた横断型ブランディングプロジェクトとして、働き盛りの20~40代のメンバーで編成しました。このプロジェクトから生まれたビジョンは「“楽しい味”で世界にプラスを。」。そしてめざす姿は「ファン(FAN/FUN)を大切にする会社」です。

まずは当社で働いている社員のみなさんに会社を好きになってもらい、ダイショー商品のユーザーの方にもファンになっていただく。当社の商品を通して、楽しい時間を過ごしていただくこと、思い出をつくっていただくことをめざします。

――2024年4月の社長就任から1年経ちました。前期の業績を振り返って。

前期(25年3月期)の売上高は262億4100万円でした。増収という形で終われたのは良かったです。たれやソース類でいうと、有名中華シェフ監修シリーズが好調でした。焼肉のたれでは、通常品の5倍量のニンニクを入れた「秘伝 焼肉のたれ にんにく5倍」が売れました。鍋スープについては、今年で5年目を迎える名店監修シリーズが引き続き好調でした。昨年は飯田商店様に監修していただき、大変好評でした。業務用の惣菜向けスパイスも含め、総じて好調でした。

主力商品「味・塩こしょう」
主力商品「味・塩こしょう」

――利益面は厳しい状況でした。

為替や原材料価格をはじめ、仕入れ先の人件費、燃料や物流費も上がり影響をうけました。さまざまなコスト削減策に努めましたが、すべてを吸収することはできませんでした。

――どのような対策を進めますか。

まず当期の8月と9月にやむなく価格改定を行いました。収益の改善は今後の課題です。

原料の中でも、今期はコショウの価格高騰が響いています。砂糖は厳しい状況が続きました。一時に比べて油は少し落ち着きました。

原料事情は依然として不安定な状況が続いていることから、調達方法の見直しに取り組んでいます。

――年間300~400アイテムを展開し、構成比では業務用約4割、家庭用6割です。今後も方針は変わりませんか。

業務用と家庭用の比率でどちらかを意識的に増やすという考えはありません。商品数についても、現状より大きく増やす考えはありません。全体的な数量はここ数年、横ばいで推移しており、当面は現状を維持します。

家庭用・業務用共に、お客様のご要望は多様化しています。家庭用であれば、店ごとに売り場の特徴を出すことは必要だと思います。少量多品種の生産に対応できるのはわれわれの強みでもあるので、引き続き磨いていきます。

――それらの要望に応えるため、工夫していることは。

開発チームが専任で対応します。業務用であれば業務用チームが対応し、その中でもNBや特注品まで細分化しています。家庭用もNBと、PBを含む特注品に担当を分けています。取引先や市場のニーズをふまえて、すぐに商品化できるのは当社の強みです。

◆関東工場の製造能力は1.5倍に

――今年8月には関東工場の新ラインが操業しました。

東日本の生産拠点となっている関東工場に約50億円を投じ、好調な鍋スープのラインを増強しました。これによって従来比1.5倍へ製造能力が高まりました。

ここ数年は供給がひっ迫していたため、店頭に並び始める2カ月ほど前の6月頃から鍋スープを製造していました。今回のライン増設で既存品の生産を増やし、供給体制を整えます。

しかしながら近年は気候の変化が激しいことから、今後も鍋1本で事業を伸ばしていくのは難しそうです。鍋スープに次ぐ、新機軸の商品をつくることができるよう将来のために十分なスペースも確保しています。

――工場内の設備や生産過程などで、貴社ならではの特徴はありますか。

当社の工場は福岡県内に3つ、茨城県に1つの計4工場です。「食の安全」に向けた独自の取り組みとして、2010年ごろから食品安全マネジメントシステムに着目し、4工場でFSSC22000を取得しています。

この規格に対応できたのは、自社で「生産管理システム」を開発していた点が大きいです。原料の搬入から商品の製造、出荷に至るまで、既に一定のノウハウが社内にありましたが、審査機関による細かい技術仕様に対応する過程で、衛生管理に関するノウハウがさらに積みあがっていきました。現在ではFSSC22000に関する約200項目の対応事例集をデータベース化しています。

――鍋スープを筆頭に、貴社は人気外食店とのコラボ品の開発に長けています。なぜ可能なのでしょうか。

味の再現力の高さだと自負しています。もともと人気ラーメン店の監修シリーズは、鍋スープの販促を担当していた社員が、自分でも食べたくなるようなラーメン味の鍋をつくりたいというアイディアから生まれました。第1弾は当社の地元・福岡の一風堂様です。

「名店監修鍋スープ 一風堂博多とんこつ赤丸新味」 「同 らぁ麺飯田商店鶏だし醤油味」
「名店監修鍋スープ 一風堂博多とんこつ赤丸新味」 「同 らぁ麺飯田商店鶏だし醤油味」

――コロナ禍の2021年に発売されてヒットし、競合他社が追随して“監修鍋”という新ジャンルができました。

おかげさまでもつ鍋に匹敵する規模まで売り上げを伸ばすことができ、当社の鍋スープにおける二大巨頭になっています。監修鍋シリーズが突破口となって売り場が広がりました。

外出規制が続いて内食需要が高まり、外食店の味を家庭で楽しめるというコンセプトが多くの方に受け入れられたようです。従来品にはない切り口によって、普段は鍋を食べない人を取り込み、市場のすそ野が広がるきっかけになりました。

とはいえ、鮮度感も大切だと考えているため、今後はある程度、商品を改廃しながらシリーズを継続していきます。その過程では鍋スープだけでなく、たれやソースへの横展開も検討します。

◆リュウジ監修の鍋スープが好調

――今秋発売した料理研究家リュウジさん監修の鍋スープも売れています。

リュウジさん監修のもと、市場でも人気のキムチ鍋と和風鍋カテゴリーへ向けて「至高のキムチ鍋スープ」「至高の鶏山椒鍋スープ」の2品をつくりました。定番ながら家庭で作りにくい味わいで、「リュウジさんの監修品だったら食べてみよう」という方も多く、売れ行きは好調です。こちらの商品を起点に、当社の他商品も試していただきたいと考えています。

「料理研究家リュウジ監修 至高のキムチ鍋スープ」 「同 至高の鶏山椒鍋スープ」
「料理研究家リュウジ監修 至高のキムチ鍋スープ」 「同 至高の鶏山椒鍋スープ」

――今期は第60期という節目で、新中期経営計画の初年度にあたります。今後の方針を。

2028年3月期までの3カ年を対象とする新中計では「Challenge2028~世界に誇れる企業へ~」をテーマに掲げ、引き続きブランディングに力を入れます。営業、生産、開発、管理のさまざまな角度で、このテーマを体現していきます。

営業でいえば、国内にはまだ伸びしろがあるので、集中的に資本を投下します。当社の場合、西日本は比較的強いのですが、本州より東の大都市圏では配荷が広がりそうです。東京とその近郊や関西圏を攻めていきたいです。

――その秘策は。

当社の場合、地域によって味を変えることはなく、全体的に日本人好みのスタンダードな味づくりを意識しています。このため、エリアごとの特色の出し方として、地域限定品に対応しています。例えば山形の「芋煮のつゆ」や仙台の「せり鍋スープ」などの地場の鍋を提案しています。

◆海外事業売上高を早期に1割へ

――海外については。

海外も成長しています。現在は輸出型ビジネスを展開しており、台湾を中心に、中国や北米、オセアニアなどへ進出しています。インフルエンサーとのコラボで話題となり、売り上げが大きく伸びているものもあります。中国と北米も急成長しています。オセアニアも順調です。

今後はヨーロッパにも広げたいと考えており、海外営業部のメンバーが現地の展示会へ参加しています。そう遠くないうちに、海外事業の売上高は売り上げ全体の1割に到達する見込みです。

――ほかに中計の柱となるのは。

食品の安全性を担保しつつ、需要拡大に対応した生産体制の強化を意識します。主力製品の生産能力の増強、安定供給、生産性向上に継続して取り組みます。

これに加えて、適正利益を得るための経営基盤の構築をめざし、ITを活用して全社的な仕組みや業務の最適化、効率化につなげます。

人材育成にも力を注ぎます。評価制度の改革を検討していくほか、健康経営を推し進めます。ビジョンの社内浸透を促すような組織風土の醸成を図るとともに、ジョブローテーションを推進したいと考えています。

――今後に向けて。

初代は焼肉のたれや「味・塩こしょう」、二代目は鍋スープを手がけ、当社の礎を築きました。先代に続くような商品を世の中に送り出したいです。

来春にはブランディングプロジェクトのメンバーと共に開発してきた商品を発売します。われわれの長期ビジョンの象徴として、息の長い商品になるよう大切に育てていきます。

◆プロフィール
松本 俊一(まつもと・しゅんいち)1987年5月3日生まれの38歳。福岡大経済卒。新卒で双日九州に入社し、食料部門や食品の輸出入業務を経験した。2014年3月ダイショー入社。18年4月営業本部営業管理部部長代理、19年4月生産本部部長、同年6月取締役、19年10月管理本部長兼総務人事部長、2020年6月常務取締役に就任。21年6月専務取締役、22年6月取締役副社長を経て24年4月より現職。アイディアを気軽に発案できる自由闊達な会社をめざす。趣味はゴルフ、スポーツ観戦。

媒体情報

食品産業新聞

時代をリードする食品の総合紙

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食品・食料に関する事件、事故が発生するたびに、消費者の食品及び食品業界に対する安心・安全への関心が高っています。また、日本の人口減少が現実のものとなる一方、食品企業や食料制度のグローバル化は急ピッチで進んでいます。さらに環境問題は食料の生産、流通、加工、消費に密接に関連していくことでしょう。食品産業新聞ではこうした日々変化する食品業界の動きや、業界が直面する問題をタイムリーに取り上げ、詳細に報道するとともに、解説、提言を行っております。

創刊:
昭和26年(1951年)3月1日
発行:
昭和26年(1951年)3月1日
体裁:
ブランケット版 8~16ページ
主な読者:
食品メーカー、食品卸、食品量販店(スーパー、コンビニエンスストアなど)、商社、外食、行政機関など
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