湖池屋・佐藤章社長に聞く、ポテチ老舗企業の独自戦略とは

湖池屋 佐藤社長
湖池屋 佐藤社長

〈付加価値化でリブランディングに成功、2030年に海外事業売上高200億円めざす〉

湖池屋の佐藤章社長は2016年の就任以来、付加価値経営を推し進めている。2025年3月期売上高は前年比8.3%増の約593億円となり、過去最高を更新した。これは2017年度比で2倍近い伸長だ。かつて価格競争に苦しんでいた同社の業績はV字回復を遂げた。同社は次なる成長へ向け、湖池屋ファームプロジェクトと海外事業に注力している。佐藤社長は「われわれはチャレンジャー。二番手には二番手なりの闘い方がある」と語る。

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――前職のキリン時代にはFIRE、生茶、世界のKitchenから、氷結など、数多くのヒット商品を手がけました。なかでもキリン フリーはノンアルコールビールの草分け的な存在です。

すべての商品の背景には、出るべくして出るストーリーがあると考えています。アルコール0.00%を実現したキリン フリーの誕生によって、飲酒運転を無くすという社会的な課題に貢献できました。そして今、若者のアルコール離れという文脈もあいまってノンアル市場が活性化しています。携わった商品が売れることはもちろんですが、それ以上に、新しい食文化のトレンドを創り出せたことが嬉しいです。

――2016年に湖池屋の社長に転身しました。

飲料とスナックでカテゴリーは異なりますが、どちらも嗜好品で、心の栄養に欠かせない点では同じです。食べる前から楽しみにさせる、知覚品質を大切にしています。湖池屋で重視しているのは、トップメーカーができないことを思い切ってやる姿勢です。二番手だからできることがあります。

かつてのスナック市場は、価格競争が常態化していて、ゆるやかな縮小傾向がみられていました。当社も赤字経営が続き、利益率1%程度の非常に苦しい時期がありました。本来、価格を下げるのなら売り上げが伸びなければいけないのに、メーカーのひとりよがりになっていて、お客さんがついてきていないことが課題でした。

◆日本産じゃがいも100%にこだわる

――どのようにして、その課題に向き合いましたか。

本当に食べたいと思うポテトチップスを作ろうと考えました。当時のポテトチップス市場では、ボリュームゾーンの男性・大人向けの定番品が伸び悩んでいました。一方では、付加価値的な商品は伸びていました。そこで目を付けたのは、付加価値的で女性や子ども向けのポジションです。少し贅沢な感じがして、センスがいいもの。ライバルの商品も少なかったので、このポジションに付加価値商品を提案し続けようと思いました。

まずは、社名をフレンテから湖池屋に変えました。圧倒的に湖池屋の知名度の方が高く、将来的な海外展開を見据えると、「湖池屋がつくるスナック」というストーリーでなければ復活はないと考えました。

湖池屋にはポテトチップスやカラムーチョ、スコーンなどの人気ブランドがあります。マーケティングの手法として、これらを個別に強化するブランド戦略もありますが、当社の場合は、湖池屋の屋号の価値をためていく、企業ブランド戦略に戻る方がいいと判断しました。そして新生・湖池屋を象徴するロゴをつくりました。日本の伝統や老舗の雰囲気が伝わる亀甲マークに「湖」の文字を入れたデザインです。

企業ブランド戦略で最も大切なのは、企業のストーリーです。そこで創業者の思いや湖池屋の原点に立ち返ろうと思い、会社に残る資料を読みあさり、創業者の肉声の音声データを何度も繰り返し聞きました。すると、日本産じゃがいも100%にこだわっているのは湖池屋だけだということが分かりました。これは湖池屋再生の骨子になると思いました。素材自体がおいしいことも付加価値になると考え、これをライバルに対する対抗軸として打ち出すことを決めました。

構造的にうまみ成分が残るから、じゃがいもの皮を少し残したままポテトチップスを作っている。天ぷらを揚げるように繊細に揚げるので、塩にキレが出ておいしくなる。創業当時から貫いてきたこれらのこだわりが、付加価値につながると考え、湖池屋をリブランディングしていきました。

――その際、社会的な背景として注目したことはありますか。

1日の総カロリー量は変わらないのに、若い人は1日3食ではなく5食、6食と分食していることが分かりました。そうすると、1回で食べる量が少なくなり軽食にチャンスが出てくるので、スナックにも商機があると考えました。ランチの代わりでもいいし、残業のお供でもいいし、今日一日のご褒美でもいい。とりあえず、定番のラインアップはおいておき、湖池屋が変わった証として、付加価値型のプレミアム商品を新たな見せ方で提案しようと考えました。

◆新生・湖池屋のヒット商品が誕生

「プライドポテト 神のり塩」「ピュアポテト オホーツクの塩と岩塩」「湖池屋ストロング サワークリームオニオン」
「プライドポテト 神のり塩」「ピュアポテト オホーツクの塩と岩塩」「湖池屋ストロング サワークリームオニオン」

――そうした一連のリブランディングを具現化した商品が、湖池屋プライドポテト(旧KOIKEYA PRIDE POTATO)ですね。

当時のスナック市場にはないような斬新なデザインにこだわりました。棚に並べた時、「なんだ、これは」という驚きがほしかったのです。スナック市場の“未常識”に挑みました。

おいしさはもちろん、そうしたパッケージの目新しさもあって、初年度の売り上げは約40億円を達成しました。菓子市場では年間20億円でヒット商品と言われますが、それを大きく上回ることができました。

それからピュアポテト(旧じゃがいも心地)をリニューアルし、湖池屋ストロングを発売し、2ブランドとも付加価値品として定着しました。このあたりから湖池屋に対するお客様の印象が変わってきたという手ごたえがあり、発売60周年の節目にロングセラーの湖池屋ポテトチップスのリニューアルに着手し、こちらも成功させることができました。

◆スナック大国アメリカで本格展開に乗り出す

――2025年4月に海外マーケティング部を新設しました。今後の展開は。

海外事業の売り上げは100億円に近づいてきました。ここ数年で特にカバー率が上がっているのがベトナムとタイです。ヨーロッパについても配荷が広がり始めています。

最近は中東やアフリカからも売ってほしいと問い合わせがあります。将来の大きな考え方としては、子会社のある台湾、ベトナム、タイを中心に東南アジアで売り上げの束をつくります。

その次に大事だと考えているのが、スナック大国のアメリカです。現状はベトナムや台湾、日本などから輸出して販売しています。和食やアジア食のプレゼンス向上を背景に、主に日系やアジア系スーパーで順調に事業を拡大しています。25年度からは本格的にアメリカへ進出します。まずは日系の流通企業などとタッグを組み、アメリカの人々に湖池屋のスナックを食べてもらいたいと思います。その後、現地の大手スーパーにもアプローチしていきます。展開が多岐にわたることから、現地法人をつくろうと今まさに動いているところです。(KOIKEYA AMERICA INC.を6月に設立予定)

台湾「スコーン BBQ味」「カラムーチョチップスホットチリ味」、タイ「カラムーチョチップスホットチリ味」
台湾「スコーン BBQ味」「カラムーチョチップスホットチリ味」、タイ「カラムーチョチップスホットチリ味」
欧州「カラムーチョチップスRidge Cutホットチリ味」「ポテチてりやき味」、米国「カラムーチョチップスホットチリ味」
欧州「カラムーチョチップスRidge Cutホットチリ味」「ポテチてりやき味」、米国「カラムーチョチップスホットチリ味」

――アメリカでもカラムーチョを売りますか。

カラムーチョの他に、もう1品考えています。詳細は明かせませんが、アメリカ人が求めるアジアのスナックを提案したいと考えています。

ヨーロッパではカラムーチョの他に、てりやき味とわさび味のポテトチップスが売れています。ポテチ(湖池屋の商標)という名称で展開している商品です。ゆくゆくはアメリカでもヨーロッパと同じような状況をつくりたいと考えています。

そして海外事業売上高は、現状の100億円から2030年には200億円規模にしたいと考えています。これは湖池屋の売り上げ全体の2割にあたります。われわれにはまだ国内で深掘りできることがあるので、チャレンジャーとして、これからも成長していきたいです。

◆世界一うまいポテトチップスをつくりたい

――国内では付加価値化の先に、どのような戦略を描いていますか。

やはりトップメーカーができないことに思い切って取り組んでいきます。湖池屋に移ってから、さまざまな芋について調べるなかで、「世界一うまいポテトチップスを作りたい」と思いました。そして、世界一高級といわれるじゃがいもがヨーロッパの離島にあり、1kg7万円で販売されることもあると知り、居ても立っても居られず現地へと向かいました。

この体験をもとに立ち上げたのが、湖池屋ファームプロジェクトです。国内に一般流通していないじゃがいもの種芋を日本の土壌に合わせて育て、湖池屋オリジナルのじゃがいもを育成します。

まずはヨーロッパ産のじゃがいもを10種ほど、北海道をはじめとした全国の協力農家さんの畑で作付してもらい、研究と改良を重ねてきました。あれから6年ほど経ち、湖池屋オリジナルのじゃがいもを原料にしたポテトチップス(黄金の果肉)を創業70周年にあわせてECで販売しました。2023年12月に湖池屋オンラインショップで先行販売し、おかげさまで即日完売となりました。2024年10月からは通年展開しています。じゃがいもの栽培からポテトチップスまでを一貫してプロデュースするのは、湖池屋として初めての取り組みです。

湖池屋ファーム「黄金の果肉 焼き塩」「旨味こぼれ すじ青のり」
湖池屋ファーム「黄金の果肉 焼き塩」「旨味こぼれ すじ青のり」

――オリジナルのじゃがいもをつくるにあたって、意識したことはありますか。

コメは品種で選ぶ時代です。野菜もフルーツトマトなどは品種で選びます。ゆくゆくはじゃがいもも品種で選ばれるようになると考えています。

先般、プロジェクトのきっかけになった世界一高級とされるじゃがいもが手に入りました。そして、これを日本で育てて作ったポテトチップスを発売できる準備が整ってきました。数量に限りがあるため、ECで販売を始めることになりそうです。種芋を植えて1年目は、どんなに頑張っても収量が10倍程度にしかなりません。時間のかかる取り組みになりますが、世界一うまいポテトチップスの実現に向けて邁進していきたいと思います。

――湖池屋ファームの取り組みが普及することで、どのような影響が見込まれますか。

日本中のじゃがいもがもっとおいしくなるでしょう。水の硬度が異なるように、海外と日本では土壌も異なります。ワインではこれをテロワールと呼びますが、土壌の中のミネラル分、例えばリンや窒素、カルシウムなどの割合が違います。そのような違いがあっても、海外原産のじゃがいもを日本の土壌で育て、それでいて現地よりもおいしくしたい。そう考えて、じゃがいもの専門会社や大学教授の方々に協力していただき、分析と栽培を行ってきました。

例えば、じゃがいも原産地の栽培方法を参考に、海藻を土の中に入れる実験を行っています。将来的には全国のさまざまな地域の農家の方に協力していただき、収量を増やしていきたいと考えています。

◆「地域ブロック」を見据えた取り組みに

――じゃがいもの付加価値化につながりますね。

その通りです。湖池屋ファームプロジェクトは、単にスナックを売るのではなく、その先を見据えた中長期的な取り組みです。今、世界では戦争が発生し、それによって各地で物流トラブルが起きています。この様子を見ていると、今、当たり前になっているグローバルな物流網も、これからどうなるかは分かりません。ヨーロッパはヨーロッパ、アジアはアジアというように、地域ブロックの中で協力し、食をうまく供給しあうような時代がくるかもしれません。

戦争が長期化すると、ものが無いことにより相場が乱高下すると世界中の人々が気づきました。こと食領域においては、おいしいものを品種改良し、ブロック内で自給率を上げていく時代がくるように思います。そうなった時、例えば、北海道はアジアにおける食の中心産地になるのではないでしょうか。

――最後に、佐藤社長にとって嗜好品とは。

心のために、なくてはならないものです。心の栄養は嗜好品から得られます。世の中に、お菓子が嫌いな人はほとんどいません。これほど恵まれているカテゴリーはありません。

これからは世界的なカルチャー、特にフードカルチャーをめぐる知識や実体験を日本のみなさんに提供していきたいです。日本の寿司のように、世界には世界のうまいものがあります。これを日本人の口に合うようにつくり、日本でヒットした商品を世界へ輸出する。その繰り返しをしばらく続けたいと考えています。

湖池屋 佐藤社長
湖池屋 佐藤社長

【プロフィール】

(さとう・あきら)1959年東京生まれ。82年早稲田大法学部を卒業後、キリンビールに入社。営業職を経て、90年商品企画部に異動。97年キリンビバレッジ商品企画部に出向後、キリンビール営業本部マーケティング部部長、九州統括本部長、キリンビバレッジ社長などを歴任。2016年フレンテ(現・湖池屋)執行役員兼日清食品ホールディングス執行役員に転じ、同年9月より現職。

媒体情報

食品産業新聞

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創刊:
昭和26年(1951年)3月1日
発行:
昭和26年(1951年)3月1日
体裁:
ブランケット版 8~16ページ
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食品メーカー、食品卸、食品量販店(スーパー、コンビニエンスストアなど)、商社、外食、行政機関など
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