【トップインタビュー】かどや製油・北川淳一代表取締役社長 世界の残る75億人に、おいしさと健康を兼ね備えた当社のごま油を

日本と米国でシェアナンバーワンのごま油メーカーでありながら、「世界には約80億人がいる中で、当社のごま油を味わっていただいているのは、約5億人に過ぎない。残る75億人の皆さまにも、当社が誇るおいしさと健康を兼ね備えたごま油を、一生に一度は試していただきたい」とのビジョンを語る。
三菱商事時代には、大豆や菜種、ごまの原料調達に携わり、米国ではスタートアップのCEOを務めた。さらに、シンガポールの大手商社とのパートナーシップ構築を主導し、英国のコーヒーメーカーではブランド開発に携わるなど、海外経験も豊富だ。帰国後は海外でコーヒーや菓子事業を展開する出資先の経営陣と連携し、企業価値向上を目指したポートフォリオの最適化に取り組んだ。
「農家から消費者までサプライチェーン全体を俯瞰し、最適化する力が30年のキャリアの中で培われた」と振り返る。
社長に就任後、方針として掲げるファンベース経営を展開するためブランドマーケティング部を新設した。ファンベース経営とは、同社への熱量の高いファンを増やし、中長期的に企業価値を共に高めていく考え方だという。
「情報が溢れる現代では、マスマーケティングが難しくなっている。購買のきっかけとなる最大の要素は、信頼する人、例えば親や兄弟、親友からの推薦であり、それが最も有効な手段だと気づいた。熱量の高いファンから厳しい意見もいただきながら、『かどやの商品、いいね』『いい会社だね』と言ってもらえるようにしたい。各事業部とも連携し、高いコミュニケーション能力と実行力を持つ人材の集合体にしたい」と強調する。
〈今期の目標は米国での拠点設置、存在意義は「ごまを極める」〉
研究開発本部も新設した。同社は年間2万8,000tのごま油を生産しているが、ごまの油分は50%のため、同量の搾りかすが生じ、主に飼料として販売している。
「遺伝子組み換えでない原料を使用し、焙煎しているため風味もある。たん白質も含まれていることから、現久米会長が社長時代に、食品素材として活用できるとの考えを引継ぎ、商品化・事業化を加速するべく組織を設置した」と狙いを語る。
「飼料は現在キロ50円で販売しているが、キロ500円で販売できれば、2万tで約100億円の価値がある。潜在性は高く、サステナビリティの観点からも取り組む価値がある」と話す。
今期の目標は米国での拠点設置だ。同社のごま油事業の売上高の約3割は海外で、そのうち9割が北米市場となる。「60年前から輸出しており、今後も人口が増える魅力的な市場として、日本と並ぶマザーマーケットと位置付けている」と語る。
「われわれが存在する意義は『ごまを極める』ことにある。新たな事業開発も『ごまのスペシャリスト集団』としての枠内で進めていく。例えば、ごまの搾りかすを使ったチョコレートの開発など、ごまの価値を新たな形で表現することにも積極的に挑戦したい。中華や韓国料理に合うという常識に挑み、洋食にも合うオリーブ油のようなごま油の開発にも取り組みたい」と意気込む。
【プロフィール】きたがわ・じゅんいち 1972年2月生まれ。東京都出身。94年慶応義塾大学法学部卒業後、三菱商事入社。11年Sesaco Corporation社長、13年 経営企画部、17年Olam事業部長、19年UCC Europe Ltd.副社長、22年グローバル消費財部長。24年三菱商事退社、かどや製油取締役執行役員。25年4月から現職。
【大豆油糧日報 7月23日付】