【昭和産業】山口龍也取締役常務執行役員「厳しい製油環境、丁寧かつ粘り強い説明を続ける」【製油メーカー役員に聞く】

昭和産業 山口常務
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――上期を振り返って

油脂の販売量は前年をやや上回って進捗している。業務用はインバウンド需要の拡大や外食・観光需要の回復などがある一方、油脂価格上昇による節約志向の高まりが販売増加の足かせになっている。家庭用はその傾向が更に顕著で、食品全般の物価上昇により消費者の財布の紐が硬くなっており苦戦している。

環境面では原料コストが高止まり、円安基調も継続している。一方、全く下がらないのは諸経費の上昇だ。これらに加え、世界的なオイル高、ミール安で油脂コストは上昇している。
コストに見合った適正価格で販売するため、昨年10月に続き、4、9月に2回にわたって価格改定を発表した。顧客に対して丁寧な説明をしたことで、ある程度の理解は得られたものの、要求水準まで改定できたとは言い難い。油脂事業全般で見ると減収減益となった。ただ、当社全体では、糖質や製粉事業、グループ会社の各事業もあり、今後の油脂事業の回復も見込み、通期業績予想は修正していない。

――足元のコスト環境は

為替は現在も円安基調で原料価格の高止まりの要因となっている。更にあらゆる経費の上昇が続いている。さまざまな要因で変動する原料コストと異なり、人件費やそれを伴う物流費が下がることは考えにくく、右肩上がりが続くと捉えている。
一番苦しいのは、ミールバリューの低下だ。食用需要に加えて、エネルギー需要が加わることで、国際的に油脂需要が高まっている。そこに米国環境保護庁(EPA)のバイオ燃料混合比率引き上げ検討により、大豆油が高騰し、大豆ミールはダブつき懸念から下落した。原料におけるオイルとミールのバランスが崩れたことにより、ミールバリューは一時50%を下回る異常値となった。国内のミール価格は国際相場に連動するため、大豆ミール、菜種ミールの価格は下がり、油脂コストの更なる上昇の要因となっている。

製油を取り巻く環境はさらに厳しくなっているが、顧客に対し、現在のコスト環境の丁寧かつ粘り強い説明を続け、一刻も早い価格改定の実現を図っていく。かつてミールバリューが50%を下回ったのは記憶にない。経験したことのない搾油環境で、そういった背景を説明し、ようやく理解いただき、歩み寄ってもらえている段階だ。

〈価格改定の早期実現が急務、組織改編3年目、更にブラッシュアップし販路拡大〉

――下期の施策について

さまざまな経費を含めたコストが上がっている中で、適正マージンを得られる価格までの改定を実現することが急務だ。日常の生活に欠かすことができず、かつ世界的に見ても高品質な日本の油脂を消費者に安定的に届けるために、企業努力は継続するものの、コストに見合った価格をユーザーと消費者に認めてもらうことが必要であることを再度説明し、理解してもらう。
そして、価格に見合った、あるいは価格を超える価値をユーザーに提供できる付加価値の高い商品開発を行うとともに、プレミアム性の高い油脂とレベルの高いソリューションの提供を、グループ全社一丸となって取り組んでいきたい。

油脂だけでなく、当社の取り扱う他の事業やグループ企業との連携をこれまで以上に深め、当社独自の切り口で、市場拡大や新たな価値の創出を目指していく。

――業務用の販売施策について

食品価格全般の上昇で、コスパ重視の志向が高まってきている。一方で、それを上回る価値のある商品は、価格が高くても購入してもらえる二極化の傾向が強まっている。
当社の販売数量も、機能性油脂と呼ばれる油脂に特定の機能や特徴を加えた付加価値品の販売数量は伸びている。油脂の使用サイクルを伸ばした長寿命油や、最終製品の品位を向上させる炊飯油や炒め油、高機能フライ油など用途特化油脂、物性に変化を与え最終製品の食感改良をもたらす半流動性油脂などが該当する。このような商品と、油脂だけではない当社の持つ様々な商品や技術を活かして課題を解決する営業手法は今後も変わらない。
組織改編から今年で3年目となるが、更にブラッシュアップして販路を増やしていきたい。特に製菓や製パンなど主に小麦粉の取引先で新たな油脂製品の採用事例が出てきている。販売活動の中で提案した商品が、想定していなかった使い方で採用に繋がった例もある。麺のほぐし油や炊飯油が生地の練り込みで食感改良につながる例があったが、油だけを販売していたのでは、生地に練り込むという感覚はなかった。
ユーザーに寄り添い、課題や求める品質に対してワンストップで最適な解決策を提案するソリューション営業が、当社側にも気付きを与え、商品の進化にもつながるという手応えを感じた。今後もマーケットから生まれてきたニーズや不満の声を大切にし、商品や提案をブラッシュアップしながら、課題解決力や技術力に更に磨きをかけていきたい。

営業社員が知識を高め、例えば製油部隊の社員が製粉や糖質の専門的な話ができるようになるには、当初年数がかかると見ていたが、予定よりも早く進捗している。意欲がある若い人ほど習得は早く、ベテラン社員もリスキリングにより提案の幅が広がっている。社員の成長を実感し、大いに手応えを感じている。今後の弊社の更なる成長に期待していただきたい。

〈大豆油糧日報 2025年12月9日付〉

媒体情報

大豆油糧日報

大豆と油脂・大豆加工食品の動向を伝える日刊専門紙

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大豆から作られる食用油や、豆腐、納豆、みそ、しょうゆを始めとした日本の伝統食品は、毎日の食卓に欠かせないものです。「大豆油糧日報」では、発刊からおよそ半世紀にわたり、国内外の原料大豆の需給動向、また大豆加工食品の最新情報を伝え続けております。昨今の大豆を巡る情勢は、世界的な人口増大と経済成長、バイオ燃料の需要増大により、大きな変化を続けております。一方で、大豆に関する健康機能の研究も進み、国際的な関心も集めています。そうした情勢変化を読み解く、業界にとっての道標となることを、「大豆油糧日報」は目指しています。

創刊:
昭和33年(1958年)1月
発行:
昭和33年(1958年)1月
体裁:
A4判 7~11ページ
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