スーパーの“安さの象徴”もやし、値上げ実施で市場規模は500億円に、もやし生産者協会の林正二理事長にきく

緑豆もやし(写真はイメージ)
緑豆もやし(写真はイメージ)

もやしは、スーパーの売り場戦略の要になっている。ただ、コストアップ要因が多くなっており、撤退する業者も増えている。市場は500億円規模まで拡大しているが、持続的な成長に向けては課題もある。

「スーパーの野菜売り場で、一番買い上げ点数が高いのはもやし」と、工業組合もやし生産者協会の林正二理事長は強調する。「スーパーもそれだけ売れるもやしを1円でも安く売りたい。お客様を呼ぶために、この店の商品は全体的に安いとイメージをつけるには、もやしを安く売ることが一番手っ取り早いとされている」とも話す。もやしの価格は、スーパーのトップが判断するケースがあるという。それだけ価格戦略の中で重要な位置づけの商品なのだ。

しかし、最近は原料価格、水道・光熱費、包装資材など生産コストが上がってきていることから、生き残っていくためには、値上げをせざるを得ない状況が迫っている。

林理事長に、現在のもやし市場の動向や課題について聞いた。

工業組合もやし生産者協会 林正二理事長
工業組合もやし生産者協会 林正二理事長

──現在の市場規模について

長期的にみると、市場規模は拡大しており、500億円を確保している。工場で生産するので、天候に左右されない。生産キャパという観点からみても、まだ余裕がある状況だ。もやしは一年中安定した価格が最大の売り。しかし最近は、生産コストが上昇し、値上げに踏み切らざるを得ない状況になりつつある。

──大豆もやしの市場規模について

全体の5%が大豆もやしで、ほとんどは緑豆もやしだ。よく韓国で食べられている。それは食文化によるもの。日本にはもやしに対する食文化はない。緑豆もやしは食べやすく、調理しやすく値段も安い。大豆もやしは栄養価は高いが、調理が面倒で、値段も高いことから浸透はしていない。

◆4~5年で1割の値上げを実施、販売数量は5~10%減も「消費者は戻ってきてくれている」

──値上げ動向について

ここ4~5年で1割の値上げを実施している。一袋200g31円だったもやしが、34円くらいまで上がってきた。これによって、販売数量は5~10%減った。もやしは安さで売れている部分がある。それが3円でも値上がりになると、買い控えが発生する。

しかし、周りの食品の値上げ幅が大きいので、安さを求めて消費者は戻ってきてくれているのが現状だ。しかし、コスト削減ができなければ、撤退に追い込まれる。50年ほど前は全国に1000社を超えるもやし生産者がいた。今はもう100社を切っている。毎年のように生産者は減っている。

──原料高について
原料は中国が主流だったが、値上げにより、ウズベキスタン、ミャンマー、マダガスカルから、一部原料を輸入している状況だ。日本で原料の緑豆を生産するにはコストが合わない。品質的にも良くない。世界で一番品質がいいのは中国産の緑豆だ。しかし、中国での生産は極端に減っている。昔は60万tの生産量があったが、現在は10万tまで下がってきた。それは輸入した方が安いからだ。

中国の場合、6月に緑豆を播種し、9月に収穫する。最近は収穫時期に雨が降り、成熟した豆は雨に当たって品質劣化を起こす。そのため、それなりの価格で売れないと農家はダメージを受ける。緑豆の栽培意欲が低下してしまう。現在、緑豆の生産は、切羽詰まった状況での経営が強いられているようだ。

──値上げは今後も続くのか

勝手に値上げをするわけにはいかない。大手メーカーよりも高い値段を出してしまったらそれで取引は終わってしまう。我慢するしかない。小売りは1円でも安く仕入れたい。市場は値上げを許してくれない。

──商品の差別化について

最近は品質が安定してきた。味で差別化は難しい。消費期限が短いのが欠点なので、1週間に伸ばすことができれば、とりあえず買っておこうかといった需要は引き出せるかもしれない。

冬から春にかけての野菜が高値になる時期はもやしが良く売れる。ある調査では、「キャベツが買えないから今日はもやし」という人が多くいた。もやしは、野菜が高いときの救世主の位置づけ。安い野菜の代名詞としてもやしの存在感は間違いなく維持できると思っている。

家計に優しい野菜の代表格であるもやしは、各社の製造コストを抑える努力により、これからも身近な存在であり続けそうだ。

〈大豆油糧日報 6月25日付〉

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