ヤクルト本社中央研究所、「健腸長寿」受け継ぎ腸内細菌・免疫研究を深化

腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」の解析工程を説明する金子特別研究員。384穴のプレートを使い、多数の検体を処理する
腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」の解析工程を説明する中央研究所研究管理センターの金子公幸特別研究員。384穴のプレートを使い、多数の検体を処理する

ヤクルト本社は9月11日、東京都国立市の中央研究所で食品専門紙向け見学会を開き、研究施設や代田記念館を公開した。創始者・代田稔博士が掲げた「予防医学」「健腸長寿」「誰もが手に入れられる価格で」という「代田イズム」を原点に、乳酸菌 シロタ株や腸内細菌、免疫などの研究を進めている。

中央研究所長の長岡正人常務執行役員は冒頭、「代田博士が掲げた『健腸長寿』という考え方は、90年以上経った今もヤクルトグループの根幹にある」と説明した。

代田博士は、感染症で多くの人が命を落としていた時代に予防医学の考えから微生物研究に取り組み、良い菌の働きで悪い菌を抑えることに着目した。1930年に現在の乳酸菌 シロタ株につながる菌の強化培養に成功し、1935年に「ヤクルト」が誕生した。

中央研究所の前身となる代田研究所は1955年に京都市で設立され、1967年に研究拠点を国立市に移転し、現在の中央研究所となった。現在の施設は「森と水に囲まれた研究所」をコンセプトに整備され、2016年に完成した。基盤研究所、微生物研究所、食品研究所、医薬品研究所、化粧品研究所、安全性研究所、分析試験研究所の7研究所などで構成する。

〈代田記念館、創業の歩みを紹介〉

代田記念館では、写真や当時の資料を通じて「ヤクルト」誕生からヤクルト本社・研究所設立までの歩みを紹介している
代田記念館では、写真や当時の資料を通じて「ヤクルト」誕生からヤクルト本社・研究所設立までの歩みを紹介している

中央研究所内の代田記念館では、中央研究所研究管理センターの金子公幸特別研究員が案内し、代田博士の幼少期から乳酸菌研究、「ヤクルト」誕生までの歩みを、映像や写真、当時の資料などを交えて紹介した。

代田記念館で紹介された、微分干渉顕微鏡で観察した生きた乳酸菌 シロタ株の映像。菌が分裂しようとする様子を確認できる
代田記念館で紹介された、微分干渉顕微鏡で観察した生きた乳酸菌 シロタ株の映像。菌が分裂しようとする様子を確認できる

代田博士は大学で微生物学を研究し、乳酸菌の研究を始めてから約5年、胃液や胆汁への耐性試験を重ね、生きて腸に届く菌の強化培養に成功した。

1935年には福岡で「ヤクルト」の事業を開始。各地域の販売組織が広がった後、商品の味や量などの規格を統一するため1955年にヤクルト本社が設立された。

〈YIF-SCANで腸内フローラを解析〉

代田記念館の展示で紹介された腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」。多数の検体を自動で処理できる
代田記念館の展示で紹介された腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」。多数の検体を自動で処理できる

基礎研究では、独自の腸内フローラ解析システム「YIF-SCAN」を活用している。金子氏によると、便検体から抽出したRNAを指標に、腸内にどのような菌がどの程度存在するかを解析する。384穴のプレートを使い、多数の検体を自動で処理できる。

従来、シャーレを用いた培養では30検体の解析に2~3カ月かかる場合もあったが、現在は同程度の検体を2、3日で解析できるという。金子氏は「数をこなせるこの機械が頼れる」と説明した。特定の菌を高精度に検出するための「プライマー」も独自に開発している。

一方、金子氏は「遺伝子だけで、どんな菌がいるか、良い効果がありそうかという予測はできるが、培養しないとその菌の性格が分からない」と説明。培養が難しい「難培養性細菌」の分離・培養にも力を入れている。

微分干渉顕微鏡では、染色せず生きた乳酸菌 シロタ株を観察。菌がまさに分裂しようとしている様子を撮影した映像も紹介した。

〈ヒトの免疫細胞を解析〉

免疫研究を行う研究室では、中央研究所基盤研究所の堀徹治上席研究員と、同研究所免疫制御研究室の槙郁風副指導研究員が、ヒトの血液から免疫細胞を分離し、細胞の種類や活性化状態を解析する研究について説明した。

機能性表示に関わる200人規模のヒト試験では、中央研究所で解析方法を検討し、外部の受託研究機関(CRO)に技術を移管した。

免疫研究について説明した中央研究所基盤研究所の堀徹治上席研究員(右)と、同研究所免疫制御研究室の槙郁風副指導研究員
免疫研究について説明した中央研究所基盤研究所の堀徹治上席研究員(右)と、同研究所免疫制御研究室の槙郁風副指導研究員

槙研究員は、「検体によって分布の広がり方が少しずつ違う。全部同じように処理すると、一人ひとりのわずかな差を見逃す可能性があるため、被験者ごとに一つずつ細かくチェックしている」と説明。さらに、「最終的には人の目で一つ一つ確認し、上司にもチェックしてもらう。チェック体制をしっかり取りながら解析している」と話した。

解析時には、どの被験者が乳酸菌 シロタ株摂取群か対照群か分からない状態で作業を進めたという。

〈上気道感染症の研究成果も紹介〉

見学会では、これまでに公表した研究成果の一例として、2025年7月に発表した乳酸菌 シロタ株の継続飲用と上気道感染症に関する研究も紹介した。中央研究所研究管理センター研究広報課の加地留美課長が研究内容を説明した。

乳酸菌 シロタ株の継続飲用と上気道感染症に関する試験。かぜをひきやすいと認識している内勤中心の健康成人200人を対象に実施した

かぜをひきやすいと認識している内勤中心の健康成人200人を対象に、乳酸菌 シロタ株400億個を含む乳飲料または乳酸菌 シロタ株を含まない対照乳飲料を1日1本、28日間飲用してもらった。評価項目は免疫細胞の活性と、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、せき、のどの痛み、たん、発熱、寒気、筋肉痛、関節痛、頭痛、疲労倦怠感の12項目を上気道感染症の自覚症状とした。

その結果、乳酸菌 シロタ株摂取群では、上気道感染症の自覚症状の発現率が対照群に比べ有意に低く、特に飲用15~28日目で差が認められた。

加地課長はこの日の説明で、ニュースリリースには記載していない解析結果として、上気道感染症の自覚症状の重症度についても紹介した。症状の程度を5段階で評価したところ、乳酸菌 シロタ株摂取群では対照群に比べ、28日間全体で重症度が有意に低く、飲用15~28日目でも有意差が認められたという。

研究では同時に、免疫応答の起点となる従来型樹状細胞(cDC)の活性化も確認している。

長岡所長は「90年以上にわたり積み重ねてきた研究の歩みが、『健腸長寿』という創始者の願いに科学的に近づいている」と話した。

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