味の素冷凍食品「ギョーザ」ラインアップの拡充に注力、イベントやSNS活用も〈ブランドの創りかた〉

味の素冷凍食品「ギョーザ」、2021年秋にパッケージリニューアル
発売から今年で50周年を迎えた、味の素冷凍食品の看板商品「ギョーザ」。

これまでに50回以上の改良を行い、今では水と油を使わずに、誰でも簡単に羽根つき餃子を作ることができる。冷凍餃子のシェアトップを誇る。時代と共に変化するニーズに応える形で「永久改良」を続けると共に、ラインアップの拡充にも力を注いでいる。また、イベントやSNSを活用したアピールにも取り組んでいる。

【前回記事】味の素冷凍食品「ギョーザ」改良重ねて50周年 いち早く油と水を使わず作れる餃子を開発〈ブランドの創りかた〉

〈安心安全面にいち早く対応 イメージ向上にも貢献〉
順調に推移する「ギョーザ」の勢いを大きく失速させる出来事が2008年1月に起こった。中国の天洋食品製の輸入冷凍餃子を食べた日本の消費者が食中毒を発症したという「天洋食品事件」だ。この事件をきっかけに、日本では消費者の冷凍食品離れが進んだ。

冷凍餃子を販売している同社も批判の目にさらされた。主力製品の「ギョーザ」の売上は大きく落ちこんだという。当時の食品業界で食品偽装が多発していたことも、影響をより大きくした。

事件発生後、全社員が一丸となり信頼回復に向けて動いた。2008年4月、同社は「2008-2010中期事業計画」をスタートさせ、特に、事件により冷凍食品業界全体が受けた“安心・安全”への悪影響を払拭すべく、「新・安心品質」の取り組みを開始した。

取り組みの一つとして、豚肉や野菜などの「ギョーザ」の原料は指定農場産に切り替えた。また、今まで取り組んできた安心・安全への取り組みを知ってもらうべく、パッケージやホームページに原料の原産地を表示することを決めた。なお、原産地表示が完全に義務化されたのは今年4月1日のことだ。他にも、独自に指定農場などの任意表示も記載した。さらに、新聞広告で安心・安全へのこだわりを伝える連載も実施した。店頭でも様々な活動を行い、売上は少しずつ回復した。
 
〈広がる「ギョーザ」 イベントやSNSでも話題〉

2012年には油・水なしでパリっと焼ける「ギョーザ」へ進化した。独自開発した「羽根の素」が加熱されることで溶け出し、水分が蒸発した後に餃子の底面に「羽根の素」が留まることで、パリパリの羽根を簡単に作れる。この改良により利便性を飛躍的に高め、生活者が手に取る機会が格段に増え、売上は回復した。

近年ではバリエーションの拡充にも力を注いでいる。18年には「しょうがギョーザ」を投入した。「箸が止まらぬ 生姜のうまさ」というキャッチコピーを掲げ、今では定番品の一つとして支持されている。

他にも「レンジで焼ギョーザ」、「水餃子」、「黒豚大餃子」、「米粉でつくったギョーザ」や、2022年2月に発売した「黒胡椒にんにく餃子」、「シャキシャキやさい餃子」など、様々な「ギョーザ」を充実させている。製品戦略部の谷隆治さんは「コロナ禍でのライフスタイルの変化もあり、『こんな餃子があったら』に応えて、より食卓を盛り上げるために商品を増やしています」と説明する。

「ギョーザ」をより広めるための活動も多岐にわたる。ユニークな取り組みとしては、2017~19年まで実施した「ギョーザステーション」だ。「ギョーザ」の発売45周年を記念したイベントで、東京・両国駅にある、普段は入れない3番線ホームで餃子を自分たちで焼きながらお酒を楽しめるというイベントだ。

「ギョーザステーション」の様子

「ギョーザステーション」の様子

製品戦略部の谷隆治さんは「冷凍食品になじみのない方でも、誰でも簡単かつキレイに焼けて盛り上がれる。しかもおいしいということを1度体験してもらえれば、もっとたくさんの方に手に取ってもらえるのでは、と考えてスタートしました」と話す。

味の素冷凍食品 製品戦略部・谷隆治さん

味の素冷凍食品 製品戦略部・谷隆治さん

非日常のような雰囲気も支持され、連日多くの人でにぎわった。20年は新型コロナウイルスの影響で、オンラインでのイベントに切り替えた。「リアルの場合、その場所に行かないと楽しめないが、ネットの場合、誰でも気軽に楽しめたため、どちらにも良さがあると思っています」と振り返る。
 
SNSの活用も進めている。特に2020年8月に投稿された「旦那から冷凍餃子は手抜きと言われた」との投稿に対して、味の素冷凍食品は公式ツイッターアカウントで「冷凍餃子を使うことは『手抜き』ではなく『手“間”抜き』」と返答したことは大きな話題を集めた。その投稿には、40万以上のいいね!がつき、後に投稿された動画は90万回以上も再生された。
 
2021年夏に開催された東京オリンピックでも「ギョーザ」は話題になる。選手村の食堂で提供された「ギョーザ」を食べた選手から「世界一美味しいギョーザ」など、その味を絶賛する投稿が相次いだ。
 
谷さんは「個人的にも本当に嬉しかった。長年品質を磨いてきたことが純粋に評価され、より商品に自信を持てました」と話す。「それ以上に、SNS 等で『ギョーザ』のファンの方が自分のことのように喜んでくださって、身近に感じもらえてるんだなと思いました」と振り返る。多くの人から支持され、冷凍餃子のトップブランドであり続ける「ギョーザ」。今後について、谷さんは「国民食と言われるぐらいにしたい」と意気込む。
 
「ギョーザ」を知らない人はまだ多くいるようだ。同社の調査によると、「ギョーザ」は冷凍食品を扱うほとんどの小売店で導入されているという。しかし、「認知率は約50%、年間の購入率は20%強しかないんです。まだまだ知られておらず、買ったことも無い人が多いのが現状です」(谷さん)と明かす。その上で「本当に自信を持っている商品なので、一人でも多くの方に『ギョーザ』を通じて幸せな気持ちになって欲しいと思っています。そのために、誰にも負けないギョーザ愛でこれからも全力を尽くします」と力を込めた。
 
〈冷食日報2022年4月15日付〉