イトーヨーカ堂 酒類担当・髙橋洸貴氏「商品の魅力を伝えることが大事、価格に勝る価値を突き詰める」

イトーヨーカ堂 酒類担当・髙橋洸貴グロサリー部加工食品担当マーチャンダイザー
イトーヨーカ堂 酒類担当・髙橋洸貴グロサリー部加工食品担当マーチャンダイザー

〈大手スーパーに10月酒類大規模値上げへの対応を聞く〉

酒類の“過去に類を見ない”品目数での値上げが10月1日に行われた。

ことしは世界的な原材料、エネルギーの高騰に加え、円安による輸入価格の上昇などを要因として、様々な商品の製造コスト、流通コストが上昇し、値上げが相次いだ。

酒類では、値上げを前に9月にビール類を中心に買い置き需要が発生、10月にはその反動による出荷数量減が見られた。酒類業界全体にとって、緊急事態宣言が繰り返されたコロナ禍の最も厳しい時期は抜けたが、値上げの中でもう一段の消費刺激策が必要となる。こうした中で、10月の値上げで最前線に立ち、消費者の反応を知る大手スーパー酒類担当者に9月、10月の動向や酒類販売の考え方を聞いた。

セブン&アイ・ホールディングスでは、情勢から価格は上がっていくものの、単純に価格だけを上げるのではなく、いかに付加価値をつけた売り方をしていくかを追求する。価格訴求を第一とせず、消費者のニーズと向かい合うことを重視しているという。同グループのイトーヨーカ堂髙橋洸貴(たかはしひろき)グロサリー部加工食品担当マーチャンダイザーにインタビューを行った。

同氏は、「買ってもらえるような売場の努力、商品の魅力をきちっと伝えていくことが一番大事。安さも価値の要素としては非常に重要だが。そこに勝るような、それ以外の要素を突き詰めていくことが小売としての究極」と、値上げの中で、安売り競争ではなく消費者の購買意欲を引き出す施策を重視する考えを語ってくれた。

〈9月告知は過度に実施せず誠実に、10月は思わず飲みたくなる商品に注力〉

――10月1日の値上げ前後の酒類販売の動向について、値上げ前の状況や値上げ後には安価な商品への流出などはありましたか

9月は、メーカーの値上げ起因による、需要の増加は大きなものがあった。やはり、ビール類などで、一缶10円くらいの値上げがある中で、ケース商材が非常に伸びた。9月の数値の増にもつながった。

10月の影響は、まだ完全にデータは出きっていないが、9月に買われたお客様が大体どれくらいの量を買われたかというと、3週間分ほど、約一カ月弱くらいとみている。これが響いて10月に関しての数値は前年割れとなった。買い控えのような消費者のマインドは相当高かったと考えられ、売上への影響はあった。

その分、RTDなどの安価なカテゴリへの流入が見られたかと言うと、影響が大きく出ていたカテゴリはそれほどないと思う。清酒、焼酎の和酒関係は季節需要もあるが、対前年は比較的プラスだった。

そういった中で、9月の段階でビール、RTD、和酒、洋酒とも買われた中で全体的に厳しい10月だった。11月に入り、復調の兆しは出てきている。ここから年末に向けてどうしていくかが一番大事と考えている。

――貴社の9、10月の酒類販売での取組は

9月の値上げ前の取組としては、当社の企業として掲げている、安全・安心といった考え方、お客様に不満を与えてはいけない、不便を与えてはいけないということを念頭においた。値上げ前の告知をどう行うか、過度に実施せずあくまで、ケースがお買い得などのニュアンスで伝える取り組みを行った。

メーカーで上げる商品、上げない商品が様々にまたがっており、聞かれれば私すら答えられないこともある。店舗の従業員がいつから、いくらに変わるのかとお客様に聞かれても答えられないことが多々あると思う。ならきちんと、誠実に対応していって、お買い得などの案内をしていった。

そうした中で値上げの報道が増え、お客様の認知度が上がるにつれ、過度に告知せずとも、進んで買いに来てくださる方は多くいらっしゃった。今回告知の仕方はすごく難しかった。

10月は、イトーヨーカ堂計の来客は減っていないが、酒類を購入するお客様は減った。9月に多く買われた方が多いため、厳しいのは承知の上で、思った計画通りの推移をしていた。

10月は、取組としては、基本的に新商品などを販売することで、消費者のニーズに刺さるような刺激を与えることに注力した。10月に価格を打ち出したところで、多くのお客さまには刺さらない。酒類の消費を支えてくれている方は、消費量の多いヘビーユーザーの方々だ。そういった方は、9月に多めに買っている。どちらかと言うと、多くを飲まないけれど、「たまには」というような方や、ヘビーユーザーでも「これ飲んでみたい」というような、刺激を与えられる商材の販売に取り組んだ。お客様に向けた商売を10月は心掛けた。

〈コロナ禍は、総飲酒量減をもたらした一方、消費者は多様な酒類に触れた、健康軸の新商品やノンアルコールなど、新しいニーズが生まれた〉

――話は変わりますが、コロナ禍中の酒類販売を振り返って

最初の2020年に顕著に出ていたのは、外で飲んでいたもの、いわゆるちょっといいものが売れている傾向は強かった。「家飲み」を楽しむ為なのか、いろんな酒類が売れていった。逆に、外出できないことで健康面について、動かないためコロナ太りや、外に行かないから普段の飲酒量が減り、酔いやすくなったなどのワードを聞いた。コロナ禍がもたらしたことは、総飲酒量、胃袋が小さくなってしまったなということを販売者として感じた。

コロナ禍を、ポジティブに言えば、お客様がいろんなお酒に触れ、経験したということ。「家飲み」を継続してもらえるような施策を行っていくことが大事だ。

健康面に関しては、食品もそうだが、健康をうたった商材が大きく伸びている傾向が強かった。メーカーも、糖質ゼロビールなど、直近で非常に多く新機軸の商品を出してきている。そうした商品が伸長し、お客様もいろいろ試してみて味を評価していると思う。メーカーが中長期的にやろうとしていた施策がすこし早まったのかなという印象はあった。

また、可能性を感じたのは、ノンアルコール飲料。コロナ禍で見直されるきっかけになったと感じる。健康軸とノンアルコール。ノンアルコールも健康軸と捉え、アサヒビールの「スマートドリンキング」のような考え方をコロナ禍で“いいね”と見直されたお客様は多数いたと思う。ノンアルコールはコロナ禍の新しい販売や消費者ニーズが生まれたのかなと思っている。外食の制限がなくなり、小売での酒類販売の数字が下がっているのは、みんな外で飲みたかったんだろうなということだと思う。

酒類業界の未来の為にも、酒類業界に携わる小売側として、今後はもっと外飲み(飲食用)と家飲み(家庭用)で分けるのではなく、お酒全体でやっていくんだというような、いがみ合うことなくやっていくことが大事なんじゃないかなと思っている。

――10月の値上げ以降の酒類販売に変化は、PBの強化など何かお考えがあれば

セブンプレミアムの「ザ・ブリュー」についてはNB(ナショナルブランド)商品に対して価格優位性が出て来ており、店頭でも積極的に販売を強化している。一方で、PBの強化だけでは、お客様のニーズは満たせない。お客様が本当に求めている商品をしっかりと売っていきたい。NB 商品も良い商品は多数ある。

これだけ各社が値上げを行っている中で、やはり小売も厳しく、CVS も厳しく、店舗を運営している者も厳しい。電気代の高騰、水道ガスなど光熱費が高騰している中で、やはり運営をしていくことが辛い。メーカーも非常に厳しい。卸も非常に厳しい状況。

こうした中で、メーカー、卸と一緒にお勧めするものをきちんと消費者に伝えていくということを、もう一度しっかりとやっていかないとならない。生産者が倒れてしまったら、そもそも我々小売は商品をつくれない。

我々小売がお客様に売り出した商品を手に取って、「いいね」「また来たくなるね」といったお店作りと品揃え、またお客様が少しでも値ごろを感じてもらえるような価格の設定を実施していこうと思っている。

NB商品の安売りだけに軸を置くだけでなくやれることと、やれないことを見極めていく。その中で、再度PB商品に頼ることも行っていきながら、お客様をきちんと見ながらお客様の満足度向上に対応していこうと思っている。

〈売場づくりでは、瓶商材、ハードリカーを伸ばす、お酒の売場拡大、お酒のある食卓シーンの創出に取り組む〉

――売場づくりの変化、今後やりたいことは瓶商材、ハードリカーを伸ばしていこうということを2~3年前から掲げている。ようやく効果が見えてきたと感じている。

コロナ禍では、2020年だとワインやウイスキー、日本酒の一部商品が伸びた。「家飲み」を楽しむ中で、缶一辺倒では飽きてしまう。そうした中で、瓶商材が伸びた。瓶商材をきちんと育てていくのが大事だ。“価格”より“価値”を伝えていけばお客様に刺さる商材がまだまだ世の中に眠っていると見ている。

そういった中で、瓶商材をきちんと売っていこう、売上のウエイトを上げていこうということに取り組んでいる。

現在イトーヨーカ堂は年に約10店舗ほど食品全体や館全体の売り場の改修、改装作業を行っている。実施した店舗はきちんと数値効果が出ている。

酒類はそもそも目的買いの商材であると考え、集客を上げて行くべく、酒類の売場を拡大しようという動きをコロナとは関係なく直近数年間で実施している。お酒の利用がコロナ禍で広がり、瓶商材の売上が大きく上がる中で、お客様からの評価、支持を多数いただいている。

また、酒類売場と惣菜売場を隣接させシーンを創出する取組みも行っている。セブン-イレブンで言うと、リーチインにワインを冷蔵できちんと並べて、隣には惣菜を並べて、食卓のシーンの創出に取り組んでいる。グループとして、惣菜の近くにお酒もきちんとある売場づくりに取り組んでいる。イトーヨーカ堂は缶商材だけに頼らない売場を作り上げていきたいと考えている。

経済の動向が厳しい状況下において、生産者の中には、今後商品が売れないと廃業になってしまう取引先もあると思う。そうしたことにならないよう、業界を盛り上げていく、できることをやっていくというのが私の考えるイトーヨーカ堂の考え。グループとしては国内外に企業を抱えている中で、グローバルな取り組みをより増やしていきたいと考えている。そうしたところに目を向けると、この先の打ち手も見えてくると考えている。

儲けを取ろうという考え方は当たり前だが、お客様に見放されてはいけない。お客様は来ていただけない、お客様は買っていただけない。だからこそ、買ってもらえるような努力、商品の魅力、そこをきちっと伝えていくことが一番大事だ。安さも価値の要素としては非常に重要だが。そこに勝るような、それ以外の要素を突き詰めていくことが小売としての究極なのかなと考えている。

小売業界としては、安売合戦は止めて、酒類の胃袋、飲酒量を増やしていくことが重要だ。

〈酒類飲料日報2022年11月22日付〉

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2006年9月に酒販免許が実質自由化されたことはご存知でしょうか。お酒を購入する場所は「酒屋」からスーパーやコンビニに変わりました。いま、売場だけでなくメーカーや卸売業者など酒類業界にも変革の波が一気におしよせています。ビールメーカーはオープンプライスを導入したり、同業他社にM&Aを仕掛けたりと「横並び」と言われた業界構造が音を立てて崩れています。末端小売6兆円という巨大な飲酒市場をめぐってビジネスに勝ち抜くためには日々の新鮮な情報が欠かせません。情報力が企業の業績に直結する時代に、酒類業界のスタンダード紙である酒類飲料日報の購読を是非お奨めいたします。

創刊:
昭和42年(1967年)8月
発行:
昭和42年(1967年)8月
体裁:
A4判 7~11ページ
主な読者:
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