東京八王子酒造、八王子市中町に日本酒醸造復活を実現、“八王子の米で、八王子の酒蔵で”

東京八王子酒造・醸造所玄関
東京八王子酒造・醸造所玄関

東京八王子酒造は、JR八王子駅から徒歩5分の八王子市中町に醸造所を設置し、6月から製造をスタートしている。東京都では10番目となる日本酒の醸造所となる。

コンパクトでありながら、充実の設備を取り揃えた都市型の醸造所。少量生産かつ年間醸造が可能なマイクロブルワリーとして、1年を通して常にフレッシュで付加価値の高い酒造りを実現する。また、「酒造りは農業の延長線上にある」という考えのもと、地域の人たちと共創して酒米づくりを行うなど、同社にしかできない新たな酒造りに挑戦していく。なお、今後はショップも併設するとのこと。

東京八王子酒造によれば「八王子市には酒蔵が20軒ほどあり、日本酒造りが盛んに行われていたが、2000年代に入ると徐々に酒蔵が減少。2012年には残っていた酒蔵醸造も全て幕を閉じた。そこで、途絶えてしまった日本酒醸造を復活させるため、2014年から“八王子の米で、八王子の酒蔵で”という理念をもとに準備をしてきた。そして八王子という地での日本酒造りへ踏み出すために、新醸造所“東京八王子酒造”を計画した」としている。

「もともとは、田園の隣接地に“農のテーマパーク構想”という酒造りを通じて地域の農業とコミュニティを活性化することを目的とした酒蔵を拠点としたコミュニティ施設計画が発端となる。その後、コロナ禍の数年を経て、改めて計画を見直し、都市型の醸造所と伝統文化のコラボレーションを軸に新たなコミュニティづくりを実施し、日本酒やCRAFT SAKE の可能性を広げるチャレンジとして生まれ変わり誕生したのが“東京八王子酒造”だ」と設立の経緯を説明する。

西仲鎌司社長は「これまで日本酒を飲んだことがない、新しいユーザーの関心を集められるような日本酒を造っていきたい。そのため、計画の一環で同会社の舞姫(長野県諏訪市)で製造している、八王子市髙月町産米を使った“高尾の天狗”とも全く違う味わいになる。東京八王子酒造のファーストロットは早ければ8月の頭、遅くてもイベントが多くなる秋にはリリースできるのではないかと思う。すでに試験醸造を開始しているので楽しみに待っていてほしい」と述べた。

西仲鎌司社長
西仲鎌司社長

〈料亭の厨房だった場所を醸造所に、「麹室」も室内に備える〉

磯崎邦宏杜氏によると「いまも営業している料亭の、厨房だった場所を醸造所とした。38平方メートルとかなりコンパクトなサイズだ。面積に加えて市街地にあるということで様々な規制もあるが、それをクリアするため普通の酒蔵では見られない工夫を凝らした」とのこと。

洗米は小型の「酒造用MJP方式洗米機」を採用しているほか、こしきは1回の蒸しで最大でも300kgとかなり小さめだ。また、最近ではボイラーがいらない電気式のこしきも人気だが、器具の洗浄など他の用途にも熱湯を用いるため、環境に配慮し排煙が少ない小型のボイラーを導入している。排気については「当初はダクトにファンも設置することを検討したが、騒音の問題で断念した」という。その代わりに米を蒸している最中は耐熱性のビニールで周囲をカバーし、長い煙突で蒸気が上に逃げるようにしているという。

東京八王子酒造・醸造所
東京八王子酒造・醸造所

醸造所内は常時5~8℃を保持。タンクは1300Lが5基(うち1基はサーマルタンク)、700L、500L、200Lがそれぞれ1基ずつあるほか、酒母用のタンクとして50Lの寸胴鍋のようなタンクを用意。圧搾機は一般的に用いられる「薮田式」ではなく、布製の酒袋にもろみを入れて搾る「佐瀬式」の槽搾り機を採用している。

また、酒造りの要である麹室は5~8℃の仕込み室内に設置しているため、断熱にはかなり気を使ったという。「麹室内の温度や湿度、造り方も長野・諏訪の“舞姫”の蔵と同じに設定しているが、違う特徴を持った麹に仕上がる。“舞姫”のものよりもすっきりと上品な味わいが印象的だ」としたほか、「設計段階では麹室を無くし、“舞姫”の蔵元で造られる麹を使って日本酒を醸す案も出ていたが、“舞姫”は春から秋は日本酒を製造しない。その一方で“東京八王子酒造”は四季醸造のため、春から秋にかけて麹が供給できないという問題が発生する。加えて、“一貫して八王子で日本酒を造り上げる”という考えを重視し、限られた空間の中でも麹室を造ることとなった」と話した。

東京八王子酒造・麹室内部
東京八王子酒造・麹室内部

貯蔵はマイナス5度で運転している冷蔵庫を使用しており、720ml瓶で5,000本を保管することができるが、西仲社長は「できれば在庫をほとんど持たず、お酒が出来上がる度に出荷できる状況が理想。あくまでも一時保管の場として考えている」と話す。

磯崎杜氏は「ここまで紹介した設備や製造方法は、他の蔵であれば鑑評会に出品するための大吟醸を造るような、手間暇かけたこだわったもので、当社では大吟醸でも純米でも全て同じ造りのものとなる。丁寧に丹精込めて造られたお酒を幅広い方に堪能してほしい」と語る。

営業担当者は今後の商品展開について「スペックが決まった通年商品を造るのか、はたまた全てが1回限りの限定品になるのかも検討中。お客様の反応や当社の製造能力に合わせた最適な形をとっていく」としたほか、「製造設備・規模が非常に小型であることを活かし、お客様のリクエスト通りのお酒を造ることも予定している。最も小さな規模で造るのであれば4合瓶で200本ほどが1ロットとなる。一般的な酒蔵だと1ロット概ね5000~2万本であることを考えると、非常にとっつきやすいのではないかと思う。価格については都度ご相談いただきたい」と計画を明かした。

また、オリジナル商品の企画について西仲社長は「“東京で栽培された米から、東京の酒蔵が造る日本酒”というコンセプトに興味を持っていただいたのか、すでに数社から問い合わせをいただいており、オリジナル商品の製造に前向きな方もいらっしゃる。生産計画にもよるが、最短で3カ月ほどあれば計画から出荷までできるのではないだろうか」とのこと。

今後の計画について西仲社長は「販売形態としてはECや近日オープンするショップでの量り売りといった、DtoCルートが中心となる予定。醸造所の中に入っての酒蔵見学はを実施するかは検討中だが、料亭と醸造所が接する壁をガラス張りにし、そこから見られるようにしている。出来立てのお酒を飲みつつ、お酒を造っている様子を見てもらう計画もある」と話した。

〈酒類飲料日報2023年7月6日付〉

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