アサヒ飲料・岸上克彦代表取締役社長インタビュー 販売数量15年連続増へ、「財務的価値と社会的価値の両輪回す」

アサヒ飲料・岸上克彦代表取締役社長
アサヒ飲料は、重点6ブランドと健康領域の強化で17年も成長を続け、15年連続で販売数量が増加する見込みとなった。ESG(環境、社会、ガバナンス)の取り組みにも積極的で、来年はさらに注力する。同社の岸上克彦社長に今年1年の取り組みを聞いた。

――市場を取り巻く環境について。

雇用や所得の環境は改善が進んだが、肌感覚では一般消費財に対するお客様の根強い節約志向はまだあり、夏場の天候不順もあって個人消費は一進一退だったと言えるだろう。一方で訪日外国人は過去最高を記録し、日本文化の海外への発信力が高まると同時に、インバウンド需要への取り組みが重要になる。政府が掲げる「未来投資戦略2017」は、人やモノの移動に関わる無人自動倉庫やドローンなど、様々な技術開発がスピードアップしており、社会課題解決に向けた取り組みが強化されている。また、ESG投資の存在感が増し、経営者にとって非常に重要だという認識がある。

清涼飲料市場は、各社が主要ブランドでマーケティング強化や小型PET に注力した。今年は天候がジェットコースターのようで、7月は猛暑、8月は関東地区で冷夏や長雨などがあり、同市場は前年並みのもよう。

当社は、「ブランドを磨き、ブランドで挑む」をテーマに、主要重点6ブランドに集中投資を行うとともに、健康領域で商品開発に取り組んできた。その結果、年間で業界平均を1ポイント上回る前年比1%増で着地する見込みで、15年連続の販売増を達成できそうだ。

アサヒ飲料 商品

――ブランド別の活動について

「三ツ矢」ブランドでは、「三ツ矢サイダー」本体の価値を高めて、安心と信頼の国民的炭酸飲料ブランドになることを目指し、「三ツ矢サイダー」本体のデザインリニューアルと、透明価値を高める新製品として、透明果汁炭酸の「三ツ矢新搾り」シリーズを発売した。また、産地や品種を指定した日本の特産果実を使用した「特産三ツ矢」シリーズでは、愛媛県産の“清見”をはじめ全4品を展開した。自治体や地域の方々と一緒に様々な場面で発信できた。

「カルピス」ブランドは、大人からお子様まで楽しめる国民的飲料として、全ての人を笑顔にするというテーマに向けて、ブランドの価値向上に取り組むとともに、主力ブランドの強化や新商品「カラダカルピス」の発売など、ブランドのアクティビティを高める活動を行った。各種のキャンペーンをはじめ、SNS など双方向のコミュニケーションやテレビや流通企業とタイアップした「カルピス 夏休み自由研究 発酵のチカラ・親子教室」も実施した。ブランド価値向上に向けた施策を幅広く展開した。

「ワンダ」ブランドは、明るく前向きなコーヒーというブランドのコンセプトのもとに、統一感をもったコミュニケーションとして、「がんばるお父さんを応援」をテーマに広告展開し、マーケットでの存在感向上に努めた。SOT 缶は、主力の「モーニングショット」と「金の微糖」が、SOT 缶コーヒー市場のマイナスの流れを最小限に食い止めた。ボトル缶は、「ワンダ 極」シリーズの微糖とブラックのパッケージを刷新し、本格感と嗜好性を訴求して昨年実績を大きく上回った。

アサヒ飲料 十六茶

「十六茶」ブランドは、16種類のブレンドならではのブランドが持つ健康価値の徹底的な強化により、健康的ブレンド茶のナンバーワンを目指した。店頭を活用したマイブランド体験や「十六茶 ご当地素材ブレンド」の数量限定発売を通して、価値向上に取り組んだ。しかし、今年は競合各社が緑茶へ投資を活発化した結果、存在感が十分に発揮出来なかった。来年度は巻き返しを図る。

「ウィルキンソン」ブランドは、炭酸水のナンバーワンブランドであり、最高の炭酸水の価値をお伝えするため「刺激、強め。」をキーワードにブランド価値向上を図った。最盛期には、総計100万人へのサンプリングも実施。1~11月累計で当初の年間目標の1,800万箱を突破している。

「おいしい水プラス 『カルピス』の乳酸菌スパークリング」など

「アサヒおいしい水」ブランドは、健康にこだわった新商品として天然水仕立てのスパークリングウォーターに「カルピス」の乳酸菌を加えた「おいしい水プラス 『カルピス』の乳酸菌スパークリング」を発売した。また、本年は健康を軸とした商品開発にも注力した。トクホでは、食後の血中中性脂肪と血糖値の上昇をおだやかにする「三ツ矢サイダーW」がある。機能面の伝達強化を図り、パッケージの刷新も行って前年実績を上回って推移している。機能性表示食品では、長年の基礎研究の成果とブランド力を結集した乳酸菌で体脂肪を減らす「カラダカルピス」を4月に発売した。10月には当初の年間目標の150万箱を突破し一定の成果が出て手応えを感じているが、まだやり残したことはある。主力ブランドの強化とともに、健康を強みや価値とするブランドの展開を今後も進めていく。

――設備投資や自販機について。

設備投資では、1月に製造子会社だった富士山仙水を吸収合併して、アサヒ飲料富士吉田工場とした。設備投資も行い、水に加えてウィルキンソンの製造も開始している。カルピスの群馬工場では、生産能力の増強による自社製造比率の向上とPET ボトル内製化による効率化、あるいは環境付加低減に向けてPET ボトルのラインを増設して3月より運転している。さらに、北陸工場では、伸長するボトル缶コーヒーの自社生産能力を向上させるため、設備投資を行って11月下旬からボトル缶工場として本格稼働している。

自販機は、5月から夏場にかけて“強冷自販機”(庫内温度を4℃低くし約1℃で提供)を全国で5,600台設置した。来期も自販機チャネルの魅力を高める活動とともに差別化したサービスの開発を行う。

――ESG の活動について。

17年は「カルピス」こども乳酸菌研究所や「三ツ矢サイダー」ジュニア環境授業、あるいは工場におけるお客様との交流など、さまざまな取り組みを拡大してきた。ただ、当社としては、来期に向けてもっともっと強化していく。財務的価値と社会的価値の両輪を、自分達の事業の特性の中できちっと回していきたい。これは来期の大きな目標だ。

――乳性飲料「守る働く乳酸菌」などを社内全社員にサンプリングされたねらいは。

健康価値向上の実現を目的に、社員自らが健康意識を高めることと、自分の会社が健康的な商品を作っていることを意識することが大事だと考えた。その効果はあったと考えている。

――2018年に向けて。

来年は、企業の設備投資に明るい兆しがある中で、個人消費の動きはまだ鈍い。我々の業界ではいっそうメリハリのあるマーケティング活動が求められるだろう。

18年の清涼飲料市場は17年並み、もしくは天候要因の期待も含め前年比1%増と推察している。当社は基本的に「ブランドを磨き、ブランドで挑む」の方針のもと、重点6ブランドを引き続き強く太くしていく。また、ESG 領域の取り組みを強化し、長期的視野でお客様に新たな価値を提供できるよう取り組んでいきたい。

〈酒類飲料日報2017年12月26日付より〉