人手不足が深刻になり、新卒採用で好条件を出す企業が増えてきている。給食業態の中でも、年中無休事業所で早朝勤務もあるなどの理由から人が集まりにくい病院給食部門の採用は特にその傾向が強く、ある企業の採用条件をみると、首都圏及び関西における管理栄養士資格取得者の月給は235,000 円(215,000 円+資格手当20,000 円)だ。全国平均が、勤務地にもよるが200,000 円程度と言われる中、突出した金額をたたき出している。この金額は同社の昨年(2017年)実績と比べて2 万円も高く、この1 年間でいかに採用が難しくなっているか、好条件を出さなくては人が来なくなっている現状を色濃く反映している。

各社の採用ホームページ(HP)をみると、採用にかける並々ならぬ力の入れようがよく分かる。自社の強みを具体化して他社と差別化を図る企業は多い。先輩社員のインタビューを通して採用後の状況を細かく紹介し学生が抱く不安を払拭する企業や、入社後の手厚いフォロー体制、福利厚生の厚みなどを強調する企業もある。

中には、総合職・栄養士・調理師の先輩社員の対談を通してチームワークの大切と風通しの良さを、年齢の異なる女性社員の対談を通して、ワークライフバランスに配慮のあるところをアピールする企業や、採用HPのデザインを若者が好むオシャレなものに工夫し、SNSと連携させる企業もあった。

労働集約型産業である給食・外食業界では、従来の食事提供システムの見直しやマニュアルの整備、組織体制の再検討し柔軟に対応できる人員を確保するなどして生産性向上を図るほか、加工度の高い完調品・半完調品を導入するなど様々な方策を打ち出して人手不足に対応してきたが、それらの取組みとともに、金銭面を厚遇して他社と差別化を図るところまで人手不足が顕在化しているようだ。

本誌が2016年冬に給食・外食企業50社に実施した『人手不足アンケート』調査では、9割以上の企業が「採用は難しい」と回答。これまでどおりの採用活動だけでは人材確保が難しいため「募集内容の変更」「ターゲット層の変更、拡大」「募集回数の増加」など様々なアプローチを展開していることが伺えたが、金銭面の優遇処置は多くは挙がらず、ここまでの金額提示も無かった。

〈人材雇用よりも定着率向上〉
上記のように条件を手厚くして、採用HPを強化するのも大事なことだが、お金をかければ良いというものでもない。そもそも社員満足度が高く離職率が低ければ、一定の人員補充で済むのであり、日頃から定着率向上に取り組むことが何より重要である。採用コストがかさ張ることもなく、新入社員の教育コストも必要以上にかからない。

中部地方の中堅給食企業メーキュー㈱は職場環境改善に積極的に取組み、定着率向上をめざす。具体的な目標値は、2019年4月30日までに入社5年以内の社員定着率を95%以上にすることだ。業界の離職率の平均が2・3割と言われる中、ものすごい目標値である。メーキュー㈱本社を訪問し山本貴廣常務に詳しい話を聞くと、定着率向上に駆ける思いは計り知れないものがあり、矢継ぎ早にでる数々の取組みは記者を大いに瞠目させた。
メーキュー・山本貴廣常務

メーキュー・山本貴廣常務

まず、挙げたいのが「未来をつくるメーキュープロジェクト5!5!GO!」。これは全国で1000社以上の導入実績がある、ハワード・ゴールドマン氏らが考案した「すごい会議(マネジメント・コーチング)の手順に沿って進められる新次長プロジェクトである。山本常務と5人の次長、11名のオブザーバーで、“定着率向上”という目的を共有し、役割を明確に分担して1年かがりで目標達成を目指す。具体的には、従業員同士の横のつながりを広げられるようなイベントや研修を開催する。

チームワークを高める取組みはまだある。社員向け研修合宿を年4 回開催しており、1 泊2日で密度の濃いコミュニケーションを取り合う。1回当たり12 人程度、足かけ3 年を目途に計120 人の社員と膝を突き合わせた会合を行う計画だ。様々なケーススタディについて学び、ディスカッションを通して意識改革を進め現場力を高める。あえて業態の違う事業所の社員を組み合わせることで社内ダイバーシティを推進する。

目に見えない仕掛けもある。社内SNS「トークノート」を導入し、日々、経営者の思いや業界ニュースを社員600人に一斉配信。「全社員が瞬時に情報を共有できる状態が理想」と意気込む。トークノート上には「みんなでお悩み解決室」(料理バージョン)を開設しており、提供メニューの課題を自由に相談できる。さらには、将来への不安や職場の人間関係、部署異動願いなど、直接上司に伝えにくい悩みを山本常務や直属の上司ではない部長クラスに直接相談することも可能だ。社員と経営者との距離を近づけ、離職率低下も期待できるという。

また、「パッションリーダー」の認定制度という取組みもある。社員600人の中からメーキュー愛にあふれる人間を100名認定するもの。自薦・他薦含め60名が認められており、いずれは社員だけでなく従業員にも拡大させるという。

そして、昨年は給食事業の意義を明確にし、各業態のビジョンを定義したコンセプトブックを作成し、全従業員に配布した。「給食業界は発信力が少ない。社会的に意義のある仕事をしていることを社員が誇りにできる環境づくりに努めたい」と意気込む。

各業態のビジョンを定義したコンセプトブック

各業態のビジョンを定義したコンセプトブック

〈職場環境改善で業務効率向上〉
上記のとおりソフト面の取組みとともに、同社はハード面の充実も図る。本社には広々としたオフィスに社員間コミュニケーションを促進する様々な工夫が施されている。「働いているスタッフが笑顔で仕事ができない限り、お客様を笑顔にすることはできない。だからこそ、我々はやりがいを持って仕事ができる環境づくりにこだわっている」。山本常務は職場環境改善にかける理由をこう語り、オフィス&CK の充実した設備を紹介してくれた。

まず、オフィスに入った時に目を奪われたのが机のレイアウトの斬新さだ。オフィス中央に取締役4 名の机が配置され、それを取り囲む形で各部署の“しま”が築かれている。「取締役を別々の“ しま” に入れてしまうと意思疎通のスピードが鈍る。一カ所に集めることで情報伝達が促進され、思いも共有できる」と山本常務は理由を語る。意思決定のスピードを速め業務効率を高める効果が期待できそうだ。

そして、取締役エリアの横にあるのが「立ち会議室」である。起立したままミーティングをすることで、必要な要件についてざっくばらんに情報の伝達・共有、相談、意思疎通を図ることができる。議題によっては、会議室を利用するよりも短時間で終了し意見交換も活性化する効果があるそうだ。オフィスの中央にあるので使いやすい。また、社員の健康に配慮し、長時間デスクワークをしても腰の負担が少ない椅子も導入。社員の方は「座りやすく快適です」と笑顔で座り心地を語ってくれた。あと…ちょっとしたことだが、案外嬉しいのが自販機の飲み物の安さだ。カップ自販機のコーヒーなどの飲料が、なんと50 円で飲むことができる。

オフィス中央に取締役4名の机を配置(上)、「立ち会議室」(下)

オフィス中央に取締役4名の机を配置(上)、「立ち会議室」(下)

〈人手不足だからこそ強く固い組織の構築を〉
山本常務は「社員満足度向上に終わりはない。様々な施策を積極的に導入し、メーキューは給食業界で社員満足度No.1になることを本気で目指している」と目標を語る。定着率向上は一筋縄ではいかない。複数の対策を講じ、コツコツ積み重ねることが必要だ。人手不足だからこそ、社内の仕組みを見直し、足下を固め、強く固い組織を構築することが求められている。


取材:三浦。給食専門誌「月刊メニューアイディア」担当。給食とアートをこよなく愛する敏腕記者(自称)。奈良出身の愛犬家。

〈給食雑誌 月刊メニューアイディア2018年7月号より、一部改稿〉