ニューヨークで今、最も活気があるエリアといえば、ブルックリンだ。アーティストやデザイナーが移り住み、「マンハッタンより、クールでおしゃれなトレンド発信地」というイメージがすっかり定着。「Made in Brooklyn」ブランドを世界に発信している。ブルックリンの中でも、マンハッタンからアクセスしやすいウイリアムズバーグにある「ブルックリンブルワリー」は、88年からアメリカのクラフトビールシーンをけん引してきた元祖ブルックリンブランドだ。

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醸造所の壁に大きく描かれたロゴは、「I♡NY」のデザインで知られるミルトン・グレイザーが手がけたもの。ブルックリンにある同ブルワリーを訪れ、カリスマ的人気を誇るヘッドブルワー ギャレット・オリバーさんに話を聞いた。
「ブルックリンブルワリー」ヘッドブルワー ギャレット・オリバー氏

「ブルックリンブルワリー」ヘッドブルワー ギャレット・オリバー氏

―ニューヨークのクラフトビール事情について

市場は急速に拡大し、ニューヨーク市内だけで30以上のブルワリーができた。大手ビール会社の参入も増えているが、ポジティブにとらえているよ。日本でもキリンが大きな流れを起こしているだろう? クラフトビールは既に「メインストリームの一部」なんだ。

10年前は、IPA なんて誰も知らなかったが、今ではクラフトの代名詞。これは大きな進歩だ。醸造家の意欲をそそるサワービールも、今では多くの人が関心を持ってくれている。アメリカ人はレモネードを飲んで育つから、苦いビールより酸っぱいビールのほうが受けるんだ。ナチュラルワインの流行も、サワービールの追い風になっている。

―クラフトビールの定義とは?

規模の大小が問題ではなく、醸造家がそれぞれのビジョンを持っているかどうかだ。自分が一番飲みたいビールを造る。おいしいと思ってくれたらうれしいが、そうでない人もいる。クラフトである以上、大手のように「万人に受ける」ことを考える必要はない。

クラフトであるかどうかを知る一番簡単な方法は、醸造家の名前を訊ねることだね。うちよりずっと大きな「シエラネバダ」にしても「サミュエル・アダムス」にしても、醸造家が尊敬されている。そのブランドのビジョンを体現する醸造家がいれば、間違いなくクラフトだ。

―なぜビール醸造家になろうと思ったのですか

もともと映像・音響関係の仕事をしていてイギリスに渡り、チェコやドイツ、ベルギーなどを回るうちにビールの魅力に取りつかれた。でも、アメリカに帰ってみたら、つまらないビールしかないから自家醸造を始め、共同創業者と知り合った。「ブルックリンラガー」は88年に誕生したが、当時はブルックリンでなく、市の北部で造られていた。1800年代までさかのぼれば、ブルックリンには48ものブルワリーがあり、国内シェア15%を占めるほどのビール産業で賑わっていたんだけどね。

―ブルックリンブルワリーに入社して変化は

94年入社当時の生産量はわずか1万hlだったが、今では36万hlを製造する。仕込みも一日1回だったのが、24時間体制で8~9回にまで拡大した。

でも、規模の拡大よりずっと面白いのは、ビールがより複雑で興味深い方向に進化していること。この10年で、クラフトビールは一気に変わった。たとえば、樽熟成でも、バーボン樽からワイン樽、シェリー樽まで、バリエーションが広がった。ライウイスキー樽熟成ビールで作る「進化したオールドファッション」なんてビアカクテルも生まれたよ。

―主力商品は「ブルックリンラガー」ですね

ラガーは生産量の5割を占める主力商品だが、5割でしかないともいえる。ビールも「シングル」だけでなく、「アルバム」として楽しんでほしいんだ。野球場で、ビーチで、フレンチレストランで、音楽と同じように求められるビールは違うはず。それぞれのシチュエーションにふさわしいビールを造っていきたい。

「ブルックリンブルワリー」

―今後のクラフトビール市場はどうなりますか

クラフトビールはさらに多様化するだろう。野生酵母を使ったファンキーな味わいのサワービールも人気を集めると思う。樽熟成も増えるだろうね。

クラフトビールのバリエーションが広がると、食事とのペアリングもしやすくなる。食事との相性を提案することは、クラフトビール定着の助けになるはずだ。レストランではワインリストだけでなく、ビールリストを置いてほしい。―食事とのペアリングも提案されていますね「フレンチランドリー」(全米一予約の取れない3つ星レストラン)のシェフとのコラボをはじめ、「ビールディナー」を1000回以上も開催してきた。日本の日常的な食事にもうちのビールは良く合うよ。

今、仕事で世界中を回ることができて、すごく刺激を受けているんだ。さまざまな国の食文化を知ることで、新たな発想を得る。

日本で出会った素材もすごく面白かったよ!酒粕を使ったサワービール、紫蘇を使ったセゾン、山椒入りのスタウト、ふきのとうの香りを活かしたIPAなど、アイディアがどんどん出てきた。

―日本のクラフトビールについてどう思われますか

作り手の意識も技術も高く、情報量もはるかに多い。クラフト先進国のアメリカンスタイルを模倣するビールメーカーも多いが、今後は日本独自のスタイルが誕生すると確信している。今、アメリカでとても人気があるブルックリンソラチエースも、もともとは日本オリジンのホップだしね。

〈週末限定のビアバーも大人気、行くたびに異なるビールが楽しめる〉
「ブルックリンブルワリー」の従業員は、自分でオリジナルのビールを造ることができ、醸造所隣接のタップバーでも提供される。醸造所を訪れた8月には、メンテナンスを担当するメキシコ系アメリカ人ペドロ・エスコバール氏による新作ビールのお披露目会が行われた。

メンテナンス担当 ペドロ・エスコバール氏

メンテナンス担当 ペドロ・エスコバール氏

その名も「テクニコ・ルード」=悪役(男臭い)技術者。メキシコのプロレス「ルチャリブレ」がモチーフのアメリカン・ストロングエールだ。ショーアップされたお披露目会には家族総出でお祝いに来ていたのも微笑ましい。ブルックリンブルワリーはビッグブランドではあるが、こういう感覚がクラフトっぽいなと思う。

醸造所に隣接されたビアバーは、週末限定オープンながら、毎週約2000人が訪れるブルックリンの人気スポットだ。16タップを揃え、ここでしか飲めない限定ビールも多々。この日は、赤ワイン樽熟成のスタウトや、キウイを使ったサワービールをいただけた。月曜から木曜まではテイスティングつきのツアー(18ドル)も開催している。

〈酒類飲料日報 2018年1月16日付より〉

 「ブルックリンブルワリー」

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