「久保田」。ある程度日本酒を知っている人ならどういうものか、想像はたやすい商品だ。口に含めばふくよかなうまみと極上のキレ、香りも穏やかで和食を中心とした食事に良くあう。

発売は1985年(昭和60年)、日本中がバブルで浮ついていたころ「久保田」は産声をあげた。開発ネームは「東京Ⅹ」。この名前からわかるように首都圏を中心とした都市部の消費者に向けて設計された商品だ。

商品名は創業時の屋号を冠したもので、朝日酒造の公式サイトには「品質本位の酒造りに決意を込めた酒」とある。同社はそれまで地元を中心に「朝日山」を多く販売しており、県内では最多数量を誇っていた。しかしながら当時、灘や伏見の大手酒造メーカーが販売する安価な日本酒が全国を席巻しており、新潟県も例外ではなかった。危機感を感じた当時の社長である平澤亨は新潟県醸造試験場の嶋悌司場長を工場長として招聘。新商品の開発に乗り出した。これが発売の1年前である1984年の出来事だ。

1985年5月、現在でも広く名前が知られている「久保田 千寿」「同百寿」が発売。中味はもちろん、ラベルの質感や文字、販売方法までそれまでにないものが採用された。その翌年にはフラッグシップの「同萬寿」が発売となった。

2017年8月現在、8種の「久保田」が発売されており、バリエーションも豊かになった。発売20周年には生原酒の、30周年には純米大吟醸の記念酒が発売されたが、6月には「久保田」の特長を残しつつもこれまでにない華やかな香りが印象的な「久保田 純米大吟醸」を発売。同じく純米大吟醸の「萬寿」とは方向性の違う商品で、同商品発売に際し「“ 久保田”を愛飲して頂いているメインの世代は50代を中心とした世代だが、「久保田 純米大吟醸」は30~ 40代をターゲットにした商品。これまでにない華やかな香りが特長。“ 寿”の文字を入れなかったのは、既存の“ 久保田”とはコンセプトが異なる商品ということをアピールするため。化粧箱には読点(、)があしらわれており、30年続いた久保田に読点を打って、新たな久保田として進化させ継承していく姿勢を意図している」と細田康社長は話す。

〈「五百万石の魔術師」は、老舗ブランドにどのような魔法をかけるのか。〉
また、新潟県内のアウトドア用品メーカーであるスノーピーク社とコラボレーションした「久保田 雪峰」を昨年9月に発売した。久保田は、都市部の消費者に向けて開発されたが、「久保田 雪峰」は「アウトドアで日本酒を楽しむ。」ことがコンセプト。ちなみに他企業とのコラボレーションは同商品が初。スノーピーク社の山井太社長は「当社のメインユーザーである“野遊び”の愛好家は日本酒への関心が高い人も多く、企業としての姿勢や考え方が尊敬でき、元よりご縁を頂いていた朝日酒造にコラボレーションの依頼を行った」と話し、細田社長は「山井社長が当社の考え方にご理解を頂き、また当社としても新たなカテゴリーを創造するためにコラボレーションを進めていくこととなった」と話した。

こういった動きからも、今や“老舗”となったブランドからまた新しい次の世界へと動き出す様子が見て取れる。「純米大吟醸」発売時に細田社長が同社を「五百万石の魔術師として、久保田を進化させていく」と自信を持って発言したが、今後どのような魔法を「久保田」にかけていくのだろうか。
久保田ブランドの歴史年表と「久保田 雪峰」

久保田ブランドの歴史年表と「久保田 雪峰」

【関連記事】
25周年を迎えた「しそ焼酎 鍛高譚」、“地産全消”へのカギは“クチコミ”
日本人のための日本のワイン「赤玉」110年の歴史 時代に寄りそう“変化対応”
“業界初”ワンカップサイズのテキーラ 日本のカップ酒をヒントに開発
“ちょっとつまみたい”ニーズに応える 味の素冷凍食品「夜九時のひとり呑み」シリーズ