「日本にプレミアムビール根付かせる」/世界No.1ビール企業・ABインベブ 日本における方針

左から「コロナビール」「ヒューガルデン」「グースアイランド」
近年、欧米のトレンドを追うように、日本でもクラフトビールが20~40代を中心にブームが起きている。これまでの喉ごし爽やかなピルスナーは、どんな食事にも合う万能ビールだが、それだけではなく、やや重たいが味わい豊かなペールエールや、ベルギータイプの白ビールなどが徐々に日本人の喉にも浸透してきた。

国内ビール大手もピルスナー一辺倒からの脱却を掲げるなど、日本のビール市場は転換期を迎えているともいえる。海外大手も、これまで日本市場はあまりにもドメスティックであるとして、投資を控えていたが、近年、日本市場への投資を本格化させている。世界No.1ビール企業であるアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABInbev)の日本における方針について伺った。

〈CMディレクター 榎本岳也氏インタビュー〉
――2015年に日本法人を設立した背景は。

榎本 2015年5月に日本法人を設立した。その背景にあるのは、まず日本がビール大国ということだ。世界のビールマーケットをみると、日本が数量ベースで7番目、価値ベースだともっと上にくる。また日本はアジアのなかでも非常に洗練されたマーケットで、アジアに対する情報の発信源でもある。

次に、日本におけるプレミアムビール(クラフトビール)の可能性だ。ビール類全体はシュリンクしていても、プレミアムだけは伸びている。米国市場の変遷をみると興味深いことが分かる。1995年、米国でプレミアムビールのシェアは5%くらいだった。

それが2020年には25%に到達する勢いだ。これは誰も想像していなかったことだ。そして1995年当時、(日本では発泡酒・第3のビールに相当する)バリュービール、スタンダード価格のメインストリームビール、そしてプレミアムビールの割合が今の日本と非常に似ている。日本の現在のプレミアムビールのシェアは9%程度。米国を含むグローバルでは18%になる。

そして、それまでの経緯もそっくりだ。もともと「バドワイザー」など、メインストリームラガービールの市場が大きかったが、徐々にライトビール、バリュービールが伸びていった。しかしラガー一辺倒に飽きたというのもあるし、違う楽しみやストーリー性といったものを求めるトレンドが起きて、その後、プレミアムビールが一気に拡大した。このトレンドは日本も追従するとみている。

しかも、1995年当時に比べて、SNS などで情報拡散のスピードは比較にならないくらい圧倒的に早くなっている。米国が20~25年かかったところが、日本はもっと早くなる。米国の変化を誰も予測できなかったように、日本でも予測を超えるスピードになる可能性が高い。

――2015年の設立からの歩みは。

榎本 2015年から2年程は販売代理店を通してプレミアムビールの流通を行っていた。しかし、事業環境の変化と、販売代理店とのポートフォリオ最適化の取り組みの中で、弊社自ら日本国内の流通をすることとなった。

2017年7月のメキシコのプレミアムビール「コロナビール」の販売移管を契機に、ブランディング、マーケティングからセールスまで、一気通貫で取り組みを開始した。18年からはベルギービール「ヒューガルデン」などを取扱い開始しており、この1年弱で大きく変わってきた。

〈米国市場の変遷、日本は追従の可能性高い 市場の変革は予測を超えるスピードに〉
――商品戦略はいかがですか。

榎本 今期だけではなく、当社の最終的なゴールは、プレミアムビールカテゴリーのマーケットを、日本できちんと根付かせ、拡大するということだ。とはいえ、いろんなブランドをやりすぎても分散する。当面は、3つのブランド軸、つまり「コロナ」「ヒューガルデン」並びに米国のクラフトビール「グースアイランド」にフォーカスする。米英のプレミアム市場をみると、プレミアムラガー、ウィート系、IPA の3つのカテゴリーで80%を占める。日本でも、様々なビアスタイルを楽しむという時代が近づいていることから、この3つのカテゴリーに、それぞれ先の3つのブランドを立てた。

日本で“ビール離れ”が続いているのは、根本的には、ビールの楽しさを提案できていなかったということだ。酔う楽しみだけではなく、食とのマッチングや、オケージョンなど、いろんな要素に合せて、飲むビールを楽しむということがきちんと理解されていない。そして、それはそんなに難しいことではない。

なぜなら、すでに日本酒・焼酎・ワインの世界では、味だけではなく、ストーリーやスタイルなどで、選ぶ楽しさを味わっている。日本は食文化が発達している、そういう素地はある。

「コロナ」だが、7月に沖縄のちゅらさんビーチで「サンセットフェスティバル」を開催する。誰にとっても飲みやすいという商品特性を持ち、いろんな場面で飲んで頂ける。ライムを搾って、瓶口に差し込んで飲むというスタイルはこのブランドの「リチュアル(儀式)」だ。

“カッコよさ”“スタイリッシュさ”がコロナの魅力で、最近はいわゆる“インスタ映え”することから、自然とフォロワーやサポーターも多い。昨年下期から出荷ベースでも伸びている。大きな動きを作っていきたい。

「ヒューガルデン」は日本でもっとも人気のあるベルギービールだ。「グースアイランド」も数々のビアコンペティションでメダルを受賞している。すでに世界一となっているABInBevの役割と、これから市場を形成する日本とでは、果たす役割は違う。まずは世界的に成功事例を持っているこの3つのブランドをうまく活用しながら、プレミアムカテゴリーを形成していきたい。

〈酒類飲料日報 2018年5月8日付より〉

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