米国ではゲノム編集を用いた大豆が開発されるなど、注目を集めている。国内におけるゲノム編集の動きでは、2019年4月創業の京都大学発ベンチャーであるリージョナルフィッシュ(京都市左京区)が、ゲノム編集動物食品の第1号となった「可食部増量マダイ」に続き、10月29日にゲノム編集を応用して作出した「高成長トラフグ」の厚労省と農水省への届出を完了した。クラウドファンディング「CAMPFIRE」で290食分の予約受付けを開始しており、11月29日から順次発送していく。年度内にはECサイトの立ち上げを目指し、個人や飲食店への販売も視野に入れている。

リージョナルフィッシュは10月29日、都内で「高成長トラフグ」についての記者会見を行い、梅川忠則社長は「世界的な人口増加などで2050年には現在より2倍のたん白質が必要となり、供給が追い付かず、不足するようになる。より効率的に生産することが求められる」と述べた。

木下政人取締役CTO兼京都大学大学院農学研究科准教授は、ゲノム編集の技術的な側面を説明した。それによると、人間は自然に起きた生物のゲノム変異を利用して、品種改良(育種)を行ってきたという。ただ、農産や畜産は1.2万年という育種が行われてきた長い歴史の中で、ほとんどが品種改良種となったが、水産については養殖の歴史が50〜100年と浅く、ほとんどが天然種のままだという。
リージョナルフィッシュ 木下取締役、梅川社長

リージョナルフィッシュ 木下取締役、梅川社長

 
ゲノム編集の手順は、天然のトラフグの受精卵にゲノム編集ツールを導入する形で行われる。同ツールにはRNAまたは、たん白質が使われ、遺伝子組換えのようにDNAは使っていないという。RNAやたん白質は成長に伴い、分解されてなくなるという。
 
従来の品種改良法が、DNAに放射線でランダムに変異を入れるのに対し、ゲノム編集育種法は、ゲノム編集ツールでDNAの狙ったところだけを切るというもの。従来の方法だと、目的の遺伝子以外の変異が多数発生し、それらの除外に30年ほど時間がかかっていた。ゲノム編集育種法だと2〜3年に短縮できるという。
 
「狙ったところだけ、短時間でできる」と、育種に対するゲンム編集の利点について説明した。
 
リージョナルフィッシュでは、ゲノム編集技術の分類のうち、SDN1と呼ばれるDNAの狙ったところだけを切る(欠失型)のみを用いており、わかりやすいように「ナノジーン育種」と表している。
 
〈食欲を調整する遺伝子4個を取り除き食欲増進、2年で2倍前後の大きさに〉
「高成長トラフグ」は、食欲を調整している遺伝子「レプチン受容体」を、ゲノム編集で取り除いている。3.8億個あるトラフグのDNAのうち、レプチン需要体遺伝子の4個のみを取り除き、食欲増進させることを目指した。同じ期間、同じ育て方のトラフグと比べると、2年間で2倍前後の大きさになるという写真下。成長速度は従来系統の平均1.9倍、最大2.4倍になり、飼料利用効率(体重増加摂取した飼料量)は42%改善したという。
 
DNAの4個の欠損は自然界でも起こりうる変化で、天然のトラフグ2匹のゲノムの差異を比較すると、4個の欠損は約1万5,000カ所で見られたという。「トラフグの世界では4つの欠損くらいは当たり前に存在する」と述べる。販売にあたっては、表示とトレーサビリティをしっかり行っていくと強調した。陸上の自社養殖場で水槽ごとに生産履歴を管理し、加工を委託する場合も履歴を残す。梅川社長は、「不安と思う人の問い合わせ窓口も設けている」とした。
 
ECサイトでの販売価格は、通常のトラフグと同程度に設定予定で、生産能力は月1,000〜2,000食としている。なお、スーパーや百貨店などの流通向けについては、同社の理念やゲノム編集であることが表示し切れないとし、消費者への理解が進んでから検討するとした。
 
〈大豆油糧日報2021年11月5日付〉