米国大豆作付面積の上限は8751万A 食品用輸入大豆のトップ商社・兼松「需要は堅調、マーケットには強材料」

兼松食糧素材部食品大豆課・繁田亮課長
兼松食糧素材部食品大豆課・繁田亮課長

米農務省が3月末に発表した2023年産米国大豆の作付意向面積は、2022年度と同水準の8751万A(アール)、3月1日付の全米在庫は16億8500万bus(ブッシェル)と発表された。

これから農家は大豆の代わりにトウモロコシを作付するか、あるいは何も植えないかを選択することになるが、過去のデータを見ても最終的な作付面積は8750万Aが上限と見られているようだ。

米農務省はアウトルック・フォーラムで2023年産の大豆の単収を52bus/Aと発表しており、在庫率の改善に期待が寄せられるが、過去最高の単収が51.7bus/Aであることから達成は容易ではない。兼松の食糧素材部食品大豆課の繁田亮課長に米国大豆の作付見通しや今後の需給動向の見通しなどについて話を聞いた。

――2023年産米国大豆の作付意向面積と全米在庫の発表を受けて

2022年産を振り返ると、大豆、トウモロコシ、小麦の全体作付面積は減少した。ウクライナ情勢に絡んだ肥料不足懸念、物流問題により物理的に農薬・種子が間に合わず作付できない、金利負担が大きく農家が資金的にも厳しい状況があったため、全体の面積は減った。

2023年産の作付意向面積については、事前予想は8820万A強だったので100万Aほど減少したが、当社の自社分析でも増加の可能性は低いと考えていたので予想通りだ。トウモロコシは約9200万A、小麦は若干減って約5000万Aと予想されている。大豆は増えなかったが、トウモロコシは事前予想よりも増えた。大豆については、ニュートラルから強材料だったと受けとめている。

これから天候相場が始まる。農家の選択によって変動する可能性はあるが、過去15年スパンで見ると、3月の発表から最終の作付面積の増減に大きな傾向はない。ただ、過去5年のデータでは、5年のうち4年は最終の作付面積は減っている。天気や諸事情にもよるが、過去のデータやトウモロコシに根強い人気があることを踏まえて考えると、8751万Aはほぼ上限と捉えている。

在庫は3月1日付で16億8500万busと、2022年同時期比で約2億5000万bus減、事前予想比で約5700万bus減となっている。堅調な需要が確認されたので強材料として捉えるべきだ。3月から8月までの需要次第で最終在庫は変わるため、今後、需要が減れば期末在庫が増え、在庫率が回復する可能性はあるものの、改めてタイトな需給状況であることが確認された。

米国内で搾油需要が堅調であることも背景ながら、当社の独自予想では、昨年の最終生産数量がもっと少なかったと見ている。2022年産の作付面積、単収、収穫面積が発表されて生産量は確定しているため、その他需要などで最終調整し、需要を増やすことで在庫を減らす可能性が高い。ひっ迫した在庫状況であと半年間、2022年産の需給をまかなっていかないといけない。これはマーケットにとっては強材料だ。

4月11日に発表された4月度の需給報告では2023年産の需給マトリックスに変更はなかった。米農務省は需要を上方修正させ、更に在庫を減らすことには慎重になっていると思っている。いずれにせよ、作付意向面積と在庫の2つの発表を見ても、基本的には弱材料ではなかったことからすると、天候相場を迎えるにあたって、引き続き期近のシカゴ相場は高値で推移すると見ていいだろう。あとは北米天気や南米の最終生産量状況を含めた各種要因次第となる。

〈トウモロコシから大豆シフトの期待は持ちにくい、単収52bus/A以上は楽観的な見方〉

――天候相場の見通しは

4月後半に向けては北部が少し低温、西側で降雨予報が出ている。4~5月全般で見ても、東側で降雨予報が出ているが、気温は北部を除き中西部全般は平年並みから温暖で、降雨も大雨予報ではないことから、先に作付が始まるトウモロコシは、順調に進むだろう。実際、南部のトウモロコシの作付は例年よりも早めの進捗で進んでいる。(次面に続く)

これから生産量の多い中西部のエリアの作付が進んでいくが、いまのところ低温や長雨の影響で、トウモロコシの作付けが遅れて大豆にシフトするという可能性は低く、大豆の面積が大きく増えることは期待できないだろう。

過去2~3年はラニーニャの影響で米国の一部や南米、特にブラジル南部・アルゼンチン北部で干ばつとなったが、ラニーニャからエルニーニョへと変わる予想が出ている。過去エルニーニョが発生した年の北米生産量を見ていると、基本的には平年作以上となっている。単収は天気次第のため数カ月先の予測は難しいが、過去の傾向からそれほど悲観的に見る必要はないと捉えている。

――単収が伸びる見込みは

米農務省は2月のアウトルック・フォーラムで、大豆の単収を52bus/Aと発表している。GMO種子(遺伝子組み換え)の単収の伸びを考慮すると、確かに収量自体は伸びる傾向はある。だが、昨年1年間を見ても、北米の天候は局所的に乾燥したエリアが9~10月に見られたが、全般的にはさほど悪くなかった。それにも関わらず、最終単収は49.5bus/Aと発表されたことから、52bus/Aの単収は、よほど好材料が重ならないと達成しづらい。

過去を振り返ると、2021年産の51.7bus/Aが最高となっている。52bus/A以上というのは楽観的な見方で、慎重に考え50~51bus/Aで生産量を見通すのが無難だと思っている。そのベースで23年産生産量は2022年産対比で1億busほどの増加にとどまる。

南米ではブラジルが大豊作で、1億5000万tを超え、前年対比で2400万tほど増えている。一方、アルゼンチンの生産量は2700万tという数字が発表されているが、現地の話を聞くと最終的に2000万tを割るという予想もある。4500万tの期初予想に対して2500万t減となるが、ブラジルは2400万t増、パラグアイは600万t増となっており、南米全体では若干のプラスとなる見通しだ。

〈期先$13は、需給緩和による在庫積み増しを見越した価格、向こう1年は高値推移の環境〉

――2023年の需給の見通しを

米国の輸出需要はほぼ横ばいと見ている。中国はゼロコロナ政策が終了し需要が回復、約1億tの輸入が計画されているが、ブラジルがある程度の数量をまかなっていくとすると、米国の2023年産の新穀の輸出自体はほぼ横ばいで推移すると考えている。

ただ、米国の搾油需要は増加傾向で、2022/2023年クロップから2023/2024年クロップにかけての需要は1億busほど増えると見られる。生産量が1億bus増、輸出需要がほぼ横ばい、搾油需要が1億bus増となれば、2022年産の2023年8月末の在庫数量予想2億1000万busがそのまま23年産の期末在庫となる。足元の期末在庫は2億1000万tで、在庫率は4.82%だが、23/24クロップも、計算上ほぼ同じ在庫率となってしまう。

作付面積が2022年産対比で増加し、単収が52bus/A、需要がほぼ横ばいであるならば、計算上、在庫が2億後半から3億bus辺りまで増加し、在庫率は約6%まで回復する。直近のシカゴ大豆相場は期近が$15前後、期先が$13前半だが、この$13の意味は、今後需給が緩和し、在庫率が増加することを見越した価格と把握している。もし在庫が増えない結果になれば、$13という値位置に留まることは理論上難しく、期近の$15に近づくと捉えるのが普通だろう。原油相場とシカゴ大豆相場は基本的に連動しており、大豆期末在庫率が4~5%台で、原油価格が$70~80時のシカゴ大豆の理論値は、過去のパターンでは$15だ。

在庫率6%が達成できれば$13というのは決しておかしくないが、上述の予想通り引き続き需給バランスが改善しないとすると、新穀2023年産見合いのシカゴ相場は、これから期近の値位置に近づいてくると考えざるを得ない。

エルニーニョ予想から、大きな流れで天候自体は良い方向に向かうと期待できるが、引き続きタイトな足元の需給バランスを新穀まで引っ張っていく。アルゼンチン大減産で南米全体の大増産が厳しい中、原油価格も高く、インフレにより農家の生産コストも高止まりしている。各種状況を全体的に考えると、向こう1年も$15台の高値で推移せざるを得ない環境だと思っている。

〈大豆油糧日報2023年4月19日付〉

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昭和33年(1958年)1月
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