オイルバリューの意味の啓発は不可
欠製油メーカーの26年3月期の上期業績は大幅減益が目立った。油脂コスト悪化や価格改定の実勢化の遅れなどが要因となったが、今年に入ってオイルバリューの上昇、ミールバリューの低下という言い回しが頻繁に聞かれるようになった。
これらは製油業界では一般的な概念で、大豆を搾油した時に得られる油と大豆かすの相対的な価値比率と説明される。大豆の油分は約20%で、ざっくり油と大豆かすは2対8の割合になる。大豆かすは主に家畜の飼料に使われ、安定した需要があり、ある程度は国際相場と連動した価格で販売されるようだ。一方、油の方は競争が激しく、発表通りの値上げがすんなりと通る訳ではない。毎回難しい交渉が行われ、その進捗が業績に直結する。昨年10月に続き、今年に入って製油メーカー各社は4~5月と9月に値上げを行っているが、発表している改定幅の水準まで実勢化できていないのが現状だ。
製油メーカーによると、「昨年10月から価格改定のお願いをしているが進展・進捗はスローペース」、「想定以上のコスト上昇と販売価格改定に時間がかかっている」といった状況で、通期業績の営業利益は下方修正もされている。
これまでの製油業界では、指標となるシカゴ相場の上下や為替が主な価格改定要因だった。ところが直近1年ほどの価格改定では、物流費やエネルギーコストといったユーティリティコストなども含めて説明されるようになった。実際にそれらのコスト増はあらゆる産業で叫ばれ、コスト圧迫につながってるのは明らかだが、当初は理解が進まないという声も聞かれた。食品業界全般で値上げ要因として上げられたことなどから、徐々に理解も進んでいったと見られる。
ところがここへ来てオイルバリューの上昇、ミールバリューの低下という業界特有の問題が大きくなっている。米国環境保護庁(EPA)が6月にバイオ燃料の混合比率の引き上げ計画を発表したことがトリガーとなった。注目されるのはオイルバリューの上昇率にある。通常は35~40%程度が適正であるとされ、変動することも当然あった。ただ40%を超えると高いと捉えられる中、今年はピーク時に50%を超え、現在も高水準で推移している。このオイルバリュー50%というのは、9月からの価格改定発表でも、「異常」といった表現含めて触れられていたが、業界関係者によると前代未聞だという。
オイルバリューの上昇はミールバリューの低下と表裏一体で、大豆かすの販売価格が下がることを意味する。大豆かすで十分な利益を得られるのであれば、油の価格は適正価格を目指すのが前提だが、ある程度下がっても事業として成り立つ。大豆かすの利益が下がれば、油の価格をその分上げないと減益要因をカバーできなくなり、採算は悪化することになる。「搾油環境の大きな変化」(日清オイリオグループ久野貴久社長)、「過去30年からは世界観が変わっている」(J-オイルミルズ春山裕一郎社長)といった認識も示される中、製油産業の事業構造の根幹が揺らぎつつあるという印象さえ受ける。
これが一過性のものであれば、苦しい時期を乗り越えた上で、業績回復へ向けた力も蓄えられる。問題はオイルバリューの上昇が今後も継続していく可能性が高いことだ。先のEPAによる混合比率引き上げにより、搾油需要が増える一方で、大豆かすの在庫は積み上がる。途上国の経済成長などで、今後も世界的に食用油の需要は高まっていくのも不可避の流れだろう。
オイルバリューの意味は業界では周知のことと思われるが、実際には大手チェーンはともかく、個人の飲食店にはあまり理解されていないということも卸筋からは聞かれる。大半の消費者も知らない。製油大手は上場企業でコスト状況を細かく開示し、増減要因も詳らかにしている。オイルバリューの上昇基調が定着していくならば、適正マージンをしっかり確保し、国内で搾油された安全安心な食用油を安定的に購入できる環境を維持していくために、業界内はもちろん、消費者への啓発は不可欠だ。
〈大豆油糧日報2025年11月25日付〉







