自民党・輸出促進対策委、畜産物の輸出で5社から現状と課題をヒアリング

畜産日報 2018年4月17日付
〈輸出認定処理施設の増加、輸出相手国からの要求への対応が課題に〉
自民党の農産物輸出促進対策委員会(小泉進次郎委員長)は13日、党本部で会合を開き、畜産物・乳製品の輸出の取組みついて、伊藤ハム、ナンチク、ミヤチク、高源精麦、雪印メグミルクの5社から現状や課題などをヒアリングした。

このうち、伊藤ハムからは、同社執行役員食肉事業本部国内食肉本部の野須昭彦本部長がサンキョーミートの取組み事例を紹介した。野須本部長によると、伊藤ハムグループでは畜産物輸出について中期輸出目標を掲げており、17年度の30.5億円(牛肉27.9億円、豚肉1.5億円、豚副産物1.1億円)から、19年度には17年度比57%増の48億円(牛肉44.0億円・58%増、豚肉2.5億円・67%増、豚副産物1.5億円・36%増)を目指しているという。牛肉と豚肉は19年度政府目標(牛肉250億円・豚肉12億円)のそれぞれ17.6%・20.8%のシェアを占めるという。

一方で、これら目標達成に向けた課題として〈1〉輸出認定処理場の増加〈2〉原発事故に伴う禁輸産地および放射性物質検査の緩和〈3〉スライス済み商品の輸出促進――を挙げた。

輸出認定処理場の数については「南九州のサンキョーミートを中心に輸出を展開しているが、現状では作業が一杯で、当社としても南九州だけでなく、できれば東北地域に新たな施設を構えたいというのが大きな課題だ」と指摘。さらに、輸出する部位がロースなどに偏りがちな問題についても「ロース中心の輸出では19年度の政府目標に達するのは難しい状況。新たな規格作りに向けて(団体などが)現地でセミナーなどを開いているが、末端で多様な部位の取扱いが進めばより多くの輸出量が期待できる。日本が築き上げてきた様々な部分肉規格について、より細かなしゃぶしゃぶ用のスライスや寿司ネタになるような切り身など、小さな部位・規格で輸出できればよりダイレクトに輸出の取組みができるのではないか」と提案した。

鹿児島のナンチクの北野良夫専務取締役からは、1990年に国内初の対米輸出認定工場(牛処理施設)の認可を取得して以降、牛肉は香港、米国、シンガポールなど9カ国に、豚肉は香港、シンガポールなど4カ国に輸出していること、11年4月に設立された「鹿児島県食肉輸出促進協議会」で、県独自の販売指定店制度を活用しながら輸出に取り組んでいることを紹介した。

北野専務は「弊社はこれまで施設整備に多額の費用が掛かり、輸出は採算性が低いとの意見もあったが、13年度以降、認定施設の優位性、委託処理の増加、施設改修に伴う衛生面の有効性と職員の衛生意識の向上につながるとして、現在は輸出に前向きな意識にある」とコメント。さらに、15年度から「輸出促進室」を設置して販売促進および加工担当者を置くなど、組織体制強化と輸出に対する採算性の可視化を図ってきたことも紹介した。こうした取組みが奏功し、14年度の牛肉輸出実績は152t、16年度は229t、17年度は325tと、それぞれ13年度実績(71.4t)に対して2倍・3倍・5倍の大きな伸びを達成したことを紹介した。16年度の同社の輸出実績は、国全体の約1割、県全体の約3割を占めるという。

一方で、課題としては▽輸出で畜産農家が潤い、意欲拡大に繋がる制度の必要性▽輸出に係る諸費用の問題▽海外での販売拠点となる事務所の確保▽輸出先での産地間競争とオール・ジャパンとしての取組み――などを挙げた。

輸出に関する経費については、輸出港である鹿児島空港の国際便の数が少ないうえに機体も小さいため、同社では福岡空港も利用せざるを得ない状況という。また、和牛の輸出は06年ごろから一部の地域ブランドが先行して取り組んできたことで、すでにこれらブランドの人気が根付いており、国が掲げているオール・ジャパンでの輸出の取組みとの連携が難しい実情があるとしている。その分、EU向け輸出については、「和牛統一マーク」をはじめ、各地域ブランドのマーク、地理的表示保護制度(GI)などの活用によるオール・ジャパンによる牛肉輸出拡大の取組みが期待されると指摘している。

宮崎のミヤチクの有馬慎吾社長からは、米国、香港、台湾、シンガポールなど中心に輸出に取り組み、17年度実績は前年度比48.2%増の245.1tに上ったこと、さらにEUなど新たな輸出先の施設認定の取得に向けて、都農工場(宮崎・都農町)を、国の補正予算や県の補助事業を活用してより高水準な衛生管理や動物福祉の対応が可能となるよう施設整備を進めており(総事業費78億円)、19年3月に完成する予定にあることなどが紹介された。輸出の課題については▽海外市場での持続的な価格形成▽低級部位の販路拡大▽輸出相手国からの要求への対応▽生産基盤の強化――などを指摘。とくに輸出相手国からの要求については「モニタリング検査の検査項目の増加など、輸出相手国からの唐突な要求に対する労力や費用の増加などで販売戦略や輸出計画への変更を余儀なくされる場合がある」(有馬社長)とし、国レベルの交渉と迅速な情報提供、輸出事業者の迅速な対応など、関係者の密な連携と、必要に応じた支援措置の検討の必要性を指摘した。

岩手の高源精麦(株)の高橋誠社長は、自社のブランド豚「白金豚」「プラチナポーク」を香港に輸出しており、21年にはシンガポールへの出荷も目指していることを紹介した。そのうえで、輸出の現状・課題として高橋社長は「日本の商社や食肉関係者のなかには、生真面目すぎて謙遜から日本産の豚肉は海外産と差別化が難しいという人がいる。だが、私に言わせればそれは半分しか当たっていない。とにかく安く生産することを追求すれば、どこの国であっても味の違いはないが、この国の食文化を理解し、風土を生かして作られたものは独特の美味しさがある。『白金豚』は脂に甘味があり、和食で醤油の味や日本酒とよく合う豚肉となっている。東北産の日本酒も海外進出しており、産地を合わせた日本酒とのマリアージュも提案し、採用されている。また海外は日本ほど豚の脂身が食べられていない。美味しくなく、不健康であると捉えられているためで、日本では脂身は豚の旨味の象徴であり、ビタミンや不飽和脂肪酸があり、体にも良いとされている。そうしたことを1つひとつ辛抱強く訴えてゆく必要がある」と強調した。

〈畜産日報 2018年4月17日付より〉

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