米の現物市場「みらい米市場」の詳細判明、大手卸など参加へ、ロット・中身問わず「オークション」か「個別相対」で完全オンライン取引

「みらい米市場」の仕組み
「みらい米市場」の仕組み

本紙・米麦日報の調べで、2つの現物市場のうち「みらい米市場(こめいちば)」の詳細が明らかになった。開設主体である(公財)流通経済研究所の折笠俊輔主席研究員が取材に応じた。

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9月の開設に向けて新たに設立する新会社には大手米卸を始めとした各関係者が出資を決め、資本金は7000万~8000万円を予定。出資の内訳は流通研が45%程度、北海道の食品卸(株)いずみホールディングスが10%、残りを産地や卸、実需などが担う形で最終調整中。目標取扱量は初年度2万t、2027年度12万t。

懸案だった取引事業者は、既に参加を表明しているホクレンのほか、各地の農業生産法人、複数の大手米卸、大手実需なども参加の意向を示している模様だ。流通研は8月9日に農林水産省が開催する「情報共有の場」で正式に情報を公開する。

〈概要〉

取引の対象は玄米で、酒米なども含めた「人の口に入る米」が範囲内。飼料用米などは「今後の検討」とする。

農水省の「米の現物市場検討会」が2022年公表した制度設計段階では、「大口取引」と「小口取引」という分類がなされ、ロットや属性(高付加価値米など)に応じて取引形態・参加者が異なるような区分だったが、みらい米市場ではロットや属性に関係なく同一の取引が可能だ。

売り手(主に生産者)が出品する際は「オークション方式(セリ取引)」を採用するほか、買い手が買い注文を掲載する「オーダー取引」も用意。売り手・買い手とも匿名出品・入札が可能で、落札後に相手先が開示される仕組みだ。表示される価格は置場で、出品メニューに表示される出品産地(出荷場所)から事前に運賃を推測することができる。取引(販売)手数料はロット10t未満で1%、10t以上で0.5%。

〈出品〉

オークション方式の場合、売り手が出品時に入力できる情報は、スタート価格・最低出荷ロットや納品可能日・引取期限、農産物検査受検の有無、フルイ目――などの基本情報から、水分計・穀粒判別器・成分計などの機器に基づいた外観・成分情報、DNA鑑定の有無――のようなものまで多岐に亘る。

なお、複数の荷姿を織り交ぜた出品には対応していないため、フレコンと紙袋両方で出品したい場合はそれぞれ別出品にする必要がある。また、出品時には「有機JAS」「GAP取得」「食味●以上」「1等」などのタグを付けることで、それを求める買い手の目にとまるような仕組みも用意。入札ゼロの状態ならば出品取り下げが可能だが、札が入った状態では不可能。

〈入札〉

「みらい米市場」ボード情報
「みらい米市場」ボード情報

一方、買い手がオークションに出品されている米を求める場合は、常に表示される価格ボード情報を参照しながら入札を行う。画像のボードの場合は出品数量が10tのため、このまま入札が終われば1万7000円3tと1万6000円7tの2者が落札となる。同値入札は先に入札した者が優先されるため、このボード状況で新たに1万7000円10tの札を入れて入札期限を迎えても、権利は7tとなる。このように希望数量に満たない状態で落札した場合は、改めて購入意思の確認が行われる。

〈落札後〉

オークション方式の場合は落札後に当事者間のチャット機能がオープンし、そこで運賃の調整や分納、引取期限の延長といった細かい交渉を行ってから、売買契約を締結できる。「出品マニュアルでは、商品説明の箇所に運賃表記をするよう求める。事前に出品産地は開示されているので、そこでのミスマッチは生じにくい」。

売買契約締結後、みらい米市場では2種類の決済方法がある。決済サービスなどを展開する(株)Oneplat(親会社がいずみHD)を通じて支払いを行うか、直接決済するかを出品者が事前に指定するものだ。

oneplat決済の場合は、買い手の(oneplatシステムへの)入金後にoneplatから売り手に入金確認通知が送られ、それを確認した売り手が現物を出荷する。その後、届いた現物を検品し、納品を最終確認した買い手はオンライン上で問題なかった旨を承認。そこで初めてoneplatから売り手に入金される流れとなるため、「カネだけ取ってモノを送らないということはできない」仕組みだ。

この間に必要となる発注書・納品書・受領書・請求書・支払通知書といった書類・帳簿データは全てオンライン上での発行・管理・送付が可能だ。また、与信関連のシステムも用意し、oneplatと連携している大手銀の審査を通過すれば、年間の与信枠を使った決済サービス(ある種の立替払い)も予定。

このほか取引終了後、売り手・買い手は相手を評価(5段階+レビュー)することが可能。

「みらい米市場」出品票のサンプル
「みらい米市場」出品票のサンプル

〈オーダー取引〉

買い手による「オーダー取引」も基本的にはオークション方式に近く、欲しい米の情報や希望価格、数量、最低ロットなどを掲載する(タグ付けも可)。オークション方式との違いは最初からチャット機能がオープンしており、希望に近い現物を持つ(もしくは持つ予定の)売り手がアプローチすると、外から見られることなく個別交渉がスタートする。こちらは買い手主体のため、いわゆる先渡を見据えた条件設定も可能な個別相対取引を主に想定している。

「みらい米市場」の画面イメージ
「みらい米市場」の画面イメージ

〈登録〉

登録は無料。取引相手の信用を担保する上で重要となる参加条件は、生産側と卸・実需側で異なる。生産者として登録する場合は「認定農業者」かどうかを確認する(単協のような生産者団体は別)。「業としてある程度農業を行っている農家なら認定農業者のはずなので、その証明書の写しを提供してもらうなどして確認」。

一方、卸や実需などの場合は、食糧法に基づく届出事業者かどうかを確認する。ただし規模要件の関係で届出していない米穀店などについては、登記情報を確認するなどして「法人として本当に存在しているか」を審査する。これは取り込み詐欺(パクリ屋)を防止するための措置だ。法人格を持たない個人ブローカーについては「流石に審査しようがないので残念ながら登録は難しいだろう」。また、法人は企業単位でアカウントを発行し、設定された責任者が担当者のアカウントを発行できる仕組みとなる。

なお、生産者、卸・実需のような区分はあくまで登録上の話で、生産者として登録されても入札に参加でき、卸として登録されても出品することが可能だ。これはオーダー取引でも同様。

〈相場情報の発信〉

2024年4月ごろを目途に有識者会議を開き、詳細を話し合う。現時点では▽一定期間の取引総量、▽一定期間の取引価格帯(高値・中値・安値)、▽品質・産地・品種・生産者属性別の参考相場表――がベースとなる見込み。

〈米麦日報2023年8月2日付〉

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昭和34年(1959年)3月
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