【インタビュー】ニチレイフーズ・清川家庭用事業部長、テーマは急激な変化への対応、先を見据えた事業の再構築を加速
――前期の加工食品事業・家庭用事業の振り返り
ニチレイフーズ全体の加工食品事業としては増収減益であり、家庭用事業にとってもやや厳しい状況だった。
家庭用冷凍食品の売上高については、市場指標(インテージSCI)が全体で前年比5%増だったのに対し、当社は市場を上回る水準で推移した。しかし収益面にでは厳しい状況だ。背景には、原材料費のさらなる高騰や為替の変動、さらには工場の動燃費、人件費、物流費といったあらゆるコストの著しい上昇がある。当社でもサプライチェーンの効率化や原材料の見直しなど、コスト削減に努めたうえで、価格改定を実施して対応を進めたものの、上昇した諸コストを完全に吸収するには至らなかった。
家庭用冷凍食品市場では最近までは、単価も数量も右肩上がりで推移するという成長曲線を描いていたが、市場のフェーズに変化が見られている。幾度かの価格改定に伴って金額ベースの市場規模は膨らんでいるものの、数量ベースの伸びは鈍化している。生活者の選別消費や消費の二極化がこれまで以上に進んでおり、特に物価高騰により、非常にシビアな買い物環境が形成されている。こうした中、当社がコアとするカテゴリーにおいては、売り場で選ばれ続けるナンバーワン、ナンバーツーの商品を確実に育成していく必要があると考えている。
――2025年度のカテゴリー別の動向は
当社が強みを持つ米飯は市場が前年比10%増で、当社はそれを上回り、市場の拡大に貢献できたと思う。その大きな要因は、当社の主力ブランド「本格炒め炒飯」が、年間を通じて冷凍食品全体の全商品の中で売上金額トップ(インテージSCI)を獲得したことだ。さらに、去年の春に発売した「たっぷり卵のえび炒飯」がヒット商品として広く受け入れられたことも、米飯事業全体の伸長を後押しした。
チキンについて、おかず市場全体の伸びが2%増、当社も市場並みの推移だった。当社のチキンカテゴリーでの主力「特から」をはじめ注力展開したが、価格改定が続く環境下で数量面ではやや苦戦した。その中で23年春に発売した「むねから」は引き続き好調を維持している。同品は、これまで取組みながらもなかなかヒットに結びつかなかったむね肉商品で、ようやく消費者の支持を獲得できた商品だ。年々数字が上がっており、配荷の拡大とともに店舗での回転も非常に良い。競合他社から類似商品が多数発売される中でも成長を続けた。
また、当社はタイに供給拠点を持っており、現地でのきめ細かな対応力を活かして、鶏ささみ肉を加工した「梅しそさっぱり ささみ焼き」の展開もしっかりと進めていく。
一方、スナックカテゴリーは苦戦を強いられた。市場全体も1%減とマイナスだが、当社はそれを下回った。
一昨年までは、数年10月や11月頃から「今川焼」のテレビCMを精力的に投入し、その間売上を倍以上に伸ばすなど非常に好調だった。ただ、前年の秋に実施した価格改定により、店頭での平均売価が上昇したことで、売上は前年を下回った。消費者は嗜好品を購入する際、今川焼だけでなく菓子パンや和菓子(みたらし団子など)といった幅広いカテゴリーとも比較しながら選択しており、いわゆる嗜好品である「今川焼」の売上に影響したと考えている。今後も値頃感を意識した対応の必要性を強く感じる。一方でバラエティ商品の展開は引き続き好調で、秋冬のチョコレート商品や春夏のチーズ商品、カルピスとのコラボ商品などは堅調だ。今後も定番商品の価値訴求に加え、新たなフレーバー提案を通じて需要の拡大を図っていきたい。
そして最も大きく伸長したのが「ワンプレート」カテゴリーだ。市場の17%増に対し、当社はそれを大幅に上回って伸長した。全体のボリューム自体はまだ小さいものの、新たな成長の柱として機能している。当社は約2年半前にこの市場へ参入し、前年は中華の切り口による新商品を投入するなど、まだ市場にない価値の提供を目指してチャレンジを続けており、今後もこの成長市場に対して積極的な投資と品質競争を展開していく。
冷凍野菜カテゴリーは苦戦を強いられた。当社がコアとして位置づけているブロッコリーやほうれん草などで、低価格品やプライベートブランド(PB)のシェアが急速に拡大した。当社は、品質や付加価値を重視した商品展開を継続しているが、市場環境の変化に対し、その価値を十分に伝え切れなかったことや、価格対応を含めた市場へのアプローチに問題があり、結果として配荷減の影響を受けることとなった。
一方で、冷凍果実のブルーベリーは非常に好調だ。冷凍果実は今後も拡大が見込める有望な市場で、確実な調達体制の構築が必要だ。
――2025年度の重点施策とその成果
主に2つの柱が挙げられる。1つ目は、コアカテゴリーである米飯の主力「本格炒め炒飯」のプロモーション強化によるブランディングの確立だ。前年も商品のリニューアルを実施。具体的には焼豚の製法を変更し、さらなる商品のブラッシュアップを図るとともに、プロモーションとの連動を強化した。基盤となるカテゴリーの価値を高め続けることは重要な取り組みで、一連の取り組みが着実な成果に結びついた。
2つ目は、ワンプレート商品や個食米飯・麺といったパーソナルユース商品の対応だ。ライフスタイルの変化に伴い、将来にわたり1食完結型の個食ニーズが急速に高まっていることを受け、当社では「三ツ星プレート」に加え、「とろ~り卵のハンバーグオムライス」など、バラエティ豊かな一食完結型商品を重点的に投入してきた。パーソナルユースの拡大という狙いに対し、着実なラインアップの拡充と配荷を進めている。
――コスト上昇に対してどう取組むか
現在、過去に類を見ないほどの多方面にわたるコスト上昇に直面している。前述の通り、原材料費の変動や為替の影響に加え、工場のエネルギーコスト(動力費)、人件費、そして物流費の上昇など、企業努力だけでは吸収しきれない水準に達している。このため家庭用・業務用ともに8月1日からの価格改定を実施した。今回の価格改定で最も重視しているのは、カテゴリーごと、あるいは単品ごとに、極めて丁寧に対応を進めるという点だ。単に一律の値上げを行うのではなく、商品によっては店頭売価の上昇を避けるために、内容量を微調整する規格変更を行うことで一定の売価水準を維持するアプローチも取り入れている。消費者は各商品に対して値頃感に対する一定の許容ラインを持っており、これを超えてしまうと今川焼で経験したように、極端な数量減少を招くことになる。
一方で、生活者の節約志向に対する明確な受け皿として、「価格対応型商品」の強化を進めている。米飯カテゴリーなどで先行して投入し、市場から想定以上の手応えを得ている。
品質の核となる部分をしっかりと維持・担保しながらも、値頃感のある価格で提供する商品設計は、現在の非常にシビアな市場環境において極めて有効な戦略として機能しており、これからの市場に強く求められる。
――2026年度(今期)の重点施策
今期も、基本的には当社が強みを持つコアカテゴリーを徹底的に磨き上げる「力強いカテゴリー戦略」を継続していく。対象となるのは、米飯、チキン、冷凍野菜、今川焼、そしてパーソナルユースの大きく5つのカテゴリーだ。これらにおいて、消費者の求める価値と価格のバランスに合致した商品を確実に提供していく。
具体的な取り組みとして、まず米飯カテゴリーでは、「本格炒め炒飯」の発売25周年に合わせた大規模なプロモーションを春に実施した。テレビCMの投入やマストバイキャンペーンの実施に加え、都内の地下鉄車両をジャックするなどの立体的なプロモーションを展開した。このプロモーションとの連動が功を奏し、春の価格改定以降も販売数量および金額は落ち込んでおらず、手応えを感じている。年内にはプロモーションの第2弾も計画しており、さらなる市場の活性化を図る。
パーソナルユースカテゴリーでは今春「レンジで冷たい」麺類シリーズ3品を投入し、新たな市場開拓に挑戦している。近年の猛暑傾向により夏が長期化している。この環境変化に対応する商品として、冷凍のまま、あるいは冷たい状態で楽しむ商品の提案を強化しており、冷凍食品の新たな価値として定着させていく方針だ。
――数量増に向けた具体的な取組みは
チキンでは「特から」および「むねから」のテレビCMの投下を予定しており、年間最大の需要期の一つである12月のクリスマス商戦に向けてプロモーションを本格化させる。
昨年苦戦した今川焼についても、認知度を高める余地が依然として大きいことから、プロモーションを再強化する。今川焼のコアな喫食層は60代以上のシニア層が多く、各エリアでの新聞折り込みチラシによる販促が、確実な購買行動につながることがデータから判明している。こうしたアナログな手法を大事にしつつも、特定のターゲット層に確実にリーチできるデジタル販促において、小売業との協業提案をより一層深めたい。
――足元の課題と解決に向けた取組みは
直近で直面している家庭用事業の課題は、大きく「お弁当カテゴリーの再構築」と「グローバルな調達サプライチェーンの強化」の2点だ。
お弁当カテゴリーについて、当社の家庭用冷凍食品事業は歴史的にお弁当商品から始まっており、長い歴史を持っている。少子化の影響で従来の主たる需要層であった幼稚園生や高校生向けの弁当需要が今後大きく増えることは見込めない。その一方で、会社員や大人の間で「お弁当を持参する頻度」が上がっているというデータもある。こうした大人需要を取り込むため、商品のブラッシュアップを進めている。
お弁当市場にはスーパーの店頭で「200円の壁」という極めてシビアな価格帯が存在しており、ここに対応するベーシックな商品を確実に維持する一方で、もう一つの極として、付加価値の高い「極上ヒレカツ」「プリッと海老カツ」「チーズメンチカツ」といった高品質なおかず商品を拡充し、大人のこだわり需要に応える両面アプローチを展開している。
なお、お弁当商品の一部のアイテムについては、前年から入数の変更(規格変更)を実施しているが、これは単純な容量削減による価格対応ではなく、1個あたりのサイズを大きくするなど、品質と価値の向上を同時に実現することで、消費者の離反を防ぐ工夫をしている。
もう一つの大きな課題が、世界的な原材料の調達環境の悪化だ。現在、新興国をはじめとする世界的な需要拡大や通貨・為替の状況、さらには諸経費の上昇により、日本が国際市場で買い負ける事例が発生し始めている。好調な冷凍果実のブルーベリーなどもその一例であり、調達先の確保が難しくなりつつある。このような時代において、当社としては安定調達・安定供給を実現するためのインフラおよびサプライチェーンの再構築がこれまで以上に重要だと認識している。調達先の多角化を進め、強固なサプライチェーンを築き上げることが、事業継続の生命線となる。持続可能で安定した調達・生産体制の構築と収益性の両立を引き続き進める。
――最後に、今期の事業運営における決意を
冷凍食品を取り巻く市場環境、そして生活者の購買行動のフェーズは、コロナ前とは完全に異なるものへと変化した。過酷なコスト上昇や激しい競争環境が続く中、ニチレイフーズの家庭用事業としては、「持続可能で安定した調達・生産体制の構築と収益性の確立」を何よりも最優先の核心として事業を推進していく。現在はまさに事業の分岐点であり、これまでのやり方に固執することなく、商品戦略、販売戦略、さらには組織としての働き方に至るまで、あらゆる側面において「事業の再構築」を加速させている。これから5年、10年先を見据えたとき、当社の家庭用事業が正しく、かつ健全に持続的成長を遂げていくために、今期はまさにその基盤を造り変える極めて重要な1年となる。
目まぐるしく、かつ急激に変化する外部環境の波を的確に捉え、「急激な変化への対応」を最大のテーマとして、全社を挙げて日々のイノベーションと構造改革に挑み続けていく。
〈冷食日報 2026年8月12日付〉







