捕鯨を持続可能な事業に 共同船舶・所社長の「鯨を科学する」取り組みとは

所英樹社長
所英樹社長

きょう9月4日は「くじらの日」。鯨と人の共生を考える日として制定された。日本は2019年7月に商業捕鯨を再開し、最近では大手スーパーや外食などで鯨肉を目にする機会も増えている。世界で唯一「母船式捕鯨」を行う共同船舶は、鯨肉の機能性研究による新たな需要の創出を進めている。所英樹社長が描く、鯨肉と魚食文化の未来とは。

◆海上の「冷凍食品工場」が誕生

捕鯨母船「関鯨丸」
捕鯨母船「関鯨丸」

――母船式捕鯨について

世界で当社だけが有する捕鯨方式です。母船を中心とした船団を使い、大型の鯨を捕獲します。調査捕鯨の時代から長年にわたり「日新丸」が捕鯨母船を担ってきましたが、老朽化が進み、73年ぶりに「関鯨丸」を約80億円かけて建造しました。

全長112.6メートル、幅約21メートル、総トン数は9,299トンの巨大な船で、100人が乗船できます。居住エリアは全室個室で食堂や共有ラウンジがあり、働きやすさにも配慮した設計となっています。モーター駆動の電気推進システムを採用した点もこの船の特徴です。解剖デッキの位置を下げ、解剖デッキの先にあるスリップウェー(鯨を引き上げるための坂道)の傾斜は、先代の日新丸が35度だったのに対し、関鯨丸は18度と大幅に緩やかになったため、ナガスクジラなど70トン級の大型鯨を捕獲できます。大幅な省エネを実現しました。関鯨丸の誕生で当社の捕鯨事業の基盤が整ったといえます。

関鯨丸は2024年から操業を始めました。鯨を捕獲後、解体から処理、パッキング、急速冷凍、保管に至るまで、全ての工程を船内で行うことができます。いわば「海の上の冷凍食品工場」です。解体デッキを船内(屋内)に設けることで、海水や雨の影響をうけずに作業を行うことができ、衛生面も大幅に改善しました。捕獲した鯨を外気にさらすことなく出荷可能な状態にできます。沿岸捕鯨は、捕獲後に港へ戻る日帰り操業ですが、関鯨丸は一度の航海で約2か月間も海上に滞在可能となります。

――近年の事業概況は

25年度(26年3月期)の売上高は約34億円でした。内訳は捕鯨事業が約23億円、貸船(調査)事業が約11億円です。26年度は捕鯨事業の売上高目標に29億5000万円を掲げて取り組んでいます。学校給食向けの供給量を3年以内に倍増するとともに量販店や総菜など、新たな販路を開拓したいと考えています。

◆機能性成分「バレニン」に可能性

――成長に向けてのポイントは

現在、鯨肉の価格は1kgあたり1,200円程度です。これを将来的に1kgあたり平均1,500円まで引き上げるには、どうすればいいのか。機能性やおいしさという本質的な価値を訴求して需要を創り出し、価格を引き上げることだと考えています。

捕鯨業は水産庁の管理のもと、鯨種ごとに捕獲枠が定められており、供給量を増やすことは難しい。したがって、需要を高めながら価格を底上げすることが求められます。他の食材にはない、鯨にしかない特徴を打ち出す必要があります。

――具体的には

鯨の可食部は肉(赤肉)と皮(脂皮)に分けられます。赤肉は脂質が非常に少なく、タンパク質が多い点が特徴です。皮にはオメガ3脂肪酸が含まれ、サプリなどに利用されています。

鯨の赤肉には他の畜肉に比べて鉄やセレンなど、体内で合成できない必須栄養素が多く含まれることが分かっています。湘南医療大との共同研究では、「バレニン」の機能性について研究を進めており、抗酸化力や抗ストレス作用、認知機能の向上など、さまざまな働きがあることが分かってきました。今後はバレニンの機能性について情報発信を強化するとともに、鯨油を活用したサプリメントや赤肉をフリーズドライにしたペットフードなど、付加価値品の開発にも力を注ぎます。

ナガス鯨の初漁(2024年8月)
ナガス鯨の初漁(2024年8月)

――捕鯨を未来につなぐには

日本では江戸時代から鯨食文化が育まれてきました。2019年7月の商業捕鯨再開後、当社も日本の領海および排他的経済水域(EEZ)で捕鯨を行っています。

課題は、鯨肉の消費を底上げすることです。「鯨を科学する」ことで、鯨肉の価値や捕鯨について正しい知識を伝えていきたいと考えています。鯨肉のおいしさや健康価値だけでなく、海洋環境や日本の魚食文化との関わりについて、より多くの方に伝えていきます。

「人生を鯨に捧げる」と所社長
「人生を鯨に捧げる」と所社長

【プロフィール】
(ところ・ひでき)1954年生まれ、東京都出身。公認会計士・税理士。東京水産大(現東京海洋大)食品学科を卒業後、1977年小綱(現三井食品)へ入社。1981年公認会計士二次試験合格後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)へ。その後、会計事務所の経営を行いながら銀行、商社、メーカー、飲食チェーン、倉庫業など複数の会社役員として経営に携わる。その傍らで東京海洋大会計学講師を約9年務めた。2020年より現職。海上144人、陸上32人の社員を率いる。学生時代はラグビー部に所属していた。趣味はゴルフ。