病院給食の危機にどう備える トヨタ記念病院の取り組み
病院給食の提供が困難になると、入院患者の受け入れに影響し、地域医療の継続にも支障をきたすおそれがある。
こうした課題が現実味を帯びる中、トヨタ記念病院では2024年、給食調理業務を委託していた給食会社から撤退の申し入れを受け、病院給食の継続が危ぶまれる事態に直面した。
病院給食は現在、「診療報酬の伸び悩み」「物価高騰」「設備投資の難しさ」「人手不足」という複合的な課題を抱えている。特に調理現場の人手不足は深刻で、受託後に必要な人材の確保が難しくなり、給食会社が契約継続を断念するケースもみられるという。
5月30日に名古屋市で開かれた日本医療マネジメント学会学術総会のランチョンセミナーで、同病院栄養科の福元聡史氏は、撤退申し入れを受けた後も病院給食の継続に向けて約1年にわたり対応を重ねた経緯を説明した。あわせて、従来のように病院で多くの手間をかけて現地調理を行う方式だけでなく、冷凍食品などの完全調理済み食品(完調品)を活用した新たな厨房運営モデルの必要性を提案した。
〈給食会社変更後、わずか半年で撤退の申し入れ〉

トヨタ記念病院は、急性期医療を支える527床の地域中核病院で、1日あたり約1050食を提供している。2023年5月の新病院移転を機に、給食会社をA社からB社に変更した。B社は病院給食の立ち上げ実績が豊富で、従業員教育が充実している点が特徴だった。
十分な準備期間を経て運用を開始したが、運用構築3カ月目で立ち上げ責任者が異動。代わって病院給食の経験が十分ではない職員がリーダー層として配属され、新卒採用者やパート職員への教育も遅れた。さらに、献立に対する患者満足度は期待に届かず、不安定な運営が続いた。
そのため、移転から半年後の2023年11月、病院はB社に改善要望を伝えた。その時点では前向きな回答を得たものの、2024年1月には、同年7月末での契約解除・撤退の申し入れを受けた。病院側は条件の見直しも含めて継続を依頼したが、B社の意向は変わらず、短期間で次の委託先を確保する必要に迫られた。
病院は複数社を比較して選定する時間が限られていたことから、この状況を理解し協力が期待できるA社に病院長から打診した。調整の結果、病院・A社・B社の3者で協議を重ね、撤退時期を延期し、2024年12月の切り替えが決定した。しかし、課題は多く残っていた。A社は旧病院で病院給食を担当していた部門をすでに解散しており、委託給食会社の切り替え経験もなかった。配属メンバーや人員数も未確定で、献立、給食システム、帳票、電子カルテとの連携も未整備の状態だった。
当時を振り返り、福元氏は次のように話す。「私のミッションは、急性期医療を支える病院給食を安定して提供することだった。食事を継続して提供することが、地域医療を支えるうえでも重要だと考え、準備を進めた」。また、「病院給食の提供が止まれば、入院受け入れに影響し、急性期医療の提供にも支障が出かねない。特に12月は入院需要も高まる時期であり、受け入れ制限は何としても避けたかった」と語った。
〈完全調理済み食品に活路を見出す〉
そのとき、打開策の一つとなったのが完全調理済み食品(完調品)だった。
完調品とは、食品メーカーなどが工場で事前に加熱調理し、冷却保存した食品を指す。日本では多くの病院が院内厨房で調理し、毎日の食事を提供しているが、完調品を導入すれば、病院内で一から下準備や調理を行う必要が減り、厨房では解凍・再加熱・盛り付けを中心に提供できる。厨房業務の負担軽減や品質の安定化、調理経験者に過度に依存しない運用などが期待できる。
病院が採用したのはメディカデリ社の完調品だった。全種類を試食し、どの食種に活用できるかを確認した結果、全体の約6割を占める通常食、一部の治療食、嚥下調整食に完調品を利用することにした。残りの約4割は、産後食や離乳食、胃がんなど消化器系術後食など、特別な配慮が必要な食事にあたるため、院内調理を継続する方針とした。
このように、すべての食事を院内で調理する方式から、完調品と院内調理を組み合わせたハイブリッド型の病院給食へ移行することで、危機を乗り越え、12月の切り替え日を迎えた。
福元氏は、「必要最低限の準備でのスタートではあったが、A社の協力もあり、遅滞なく給食を提供することができた。この間も救急患者を通常通り受け入れられたことは本当に良かった」と振り返る。
〈効率化ではなく、給食を止めないための戦略的な選択肢〉

福元氏は、完調品のメリットとして、工数削減、安定した提供、光熱水費の抑制などを挙げる一方、デメリットとして、食物アレルギーへの対応、食種展開の難しさ、発注業務の煩雑さ、冷凍保管庫の確保などを挙げた。
そのうえで、「完調品のメリットとデメリットを十分に理解したうえで厨房設計を考えてほしい。完調品を導入すればすべての課題が解決するわけではない。いかに適切に活用するかが重要だ。導入は厨房設計や運用構築の準備段階から検討することが望ましく、効果的に活用できれば、厨房設備の初期投資や人件費の抑制にもつながる可能性がある」と述べた。
また、「人材不足により、給食会社の撤退はどの病院でも起こりうる。物価や人件費が上昇する中で、経費削減のみを目的とした給食会社の変更は現実的ではない。経費だけに目を向けるのではなく、協力会社との信頼関係を築きながら改革を進めることが重要だ。365日、1日3食を欠かさず提供し続けることは決して当たり前ではない。だからこそ、感謝と謙虚さを忘れてはならない」と呼びかけた。
セミナーに登壇したメディカデリ社の松崎文孝氏も、完調品について、「単なる効率化ではなく、給食を止めないための戦略的な選択肢として捉えてほしい」と補足した。さらに、「給食会社に任せきりにするのではなく、限られた人材、冷凍完調品、再加熱機器の特性を生かした厨房設計と運用へ移行していくことが重要だ」と話した。
〈製造と食事提供の分業は不可欠〉

セミナーの座長を務めた帝塚山大学名誉教授の河合洋見氏は、「病院給食の課題は多いが、一番は人がいなくなることだ。病院給食は労働集約型の産業だから人がいて成り立つものであり、逆に言えば、人がいなければ成立しない。持続可能なものにするためには、製造と食事提供の分業が不可欠。その1つのキーワードが完調品である」と従来の提供システムからの脱却を提案する。
「しかし、その完調品を使おうにも、従来の厨房には完調品を置けるほど冷凍庫にキャパシティがない。導入する場合は、完調品を使うことを前提にした献立設計と共に厨房環境の整備、作業導線など、厨房全体の改革を関係者と共に進めてほしい」と呼びかけた。
医療関連サービス振興会の委託率調査によると、病院の7割が給食調理業務を外部委託している。その多くの現場では、いくら募集をかけても人がとれないことから、常に限られた人材でギリギリ回しているところが少なくない。
病院給食の提供停止は、そのまま地域医療機能の停止につながりかねない。地域医療を守るためにも、時代に即した病院給食改革を進めることが全国の医療機関に求められている。







