消費者庁のGMO表示制度検討会では、前回1月31日の会合において、湯川剛一郎座長(東京海洋大学術研究院教授)が制度改正の指針となる報告書案に、いわゆる「遺伝子組み換えでない」表示はGMO不検出を条件とする厳格化案を盛り込む考えを示した。報告書案は明日16日午後開催の検討会で議論されるが、仮に厳格化案が制度化された場合、これまで問題無く機能してきたGMO表示制度と分別流通(IPハンドリング)制度の仕組みが根底から覆される恐れがあり、大豆業界内では動揺が広がりつつある。今回は油糧輸出入協議会の井上達夫専務理事に、厳格化案の問題点などを聞いた。

――始めに、Non―GM農産物の分別流通をどう評価していますか。

GMOの表示制度が施行されてから約17年の間、分別流通の精度が向上し続けて来た背景に、混入率が5%に設定されている事が寄与していると評価できる。

具体的に言えば、GMO混入率が5%を超えたものを、「非遺伝子組換えを分別物流」と言うと表示違反になり、虚偽表示と見なされる。これは法律上罰則の対象であり、さらに今の日本社会では風評被害から企業の信用は失墜し、存続の危機も招きかねない。

このためNon―GM農産物の輸入商社と、それを原料として使用する食品メーカーは、5%を絶対に超えないように、輸入時のGMO混入率の目標を1%以下に設定して分別流通に取り組んできた。これにより、サンプル採取のぶれや分析のぶれに対して、結果が5%超えない様に余裕を持てる。

分別物流の成果として、法律の5%に対して、大豆ははるかに低いGMO混入率の実績を達成している事が評価できると思う。5%の規制と物流の実態の間に余裕が無ければ、この様な対応に至らなかったと思う。

また、海外の生産者の努力と協力によって精度が向上したことも評価すべきだ。

〈「不検出」はリスク大きく非現実的、虚偽表示で企業存続が危ぶまれる事態も〉
――GMO表示制度検討会では、「遺伝子組み換えでない」と表示するための条件としてGMO「不検出」とする案が浮上しました。これが分別流通に与える影響をどうみますか。


検討会は法規制を議論するものなので、5%の基準の存否について、他の原料の基準と違える場合には、明確な理由が必要となる。なぜならJAS法の有機の規定では非有機の原料は5%までの混入率が認められている。他の原料も、世界標準のコーデックスも、米国の規定も同じだ。GMOだけ違う基準とする理由が示されておらず、法律の整合性が無ければ変える必要は無いと思う。

次に「不検出」を混入率0%とすることを法律で規定すると、コンプライアンス違反の大きなリスクが生じる。輸出サンプルが「不検出」、輸入港・中間流通・メーカーの各サンプルが「不検出」だとしても、0%基準では商品のサンプルが「不検出」となる保証は無く、万が一検出されれば、虚偽表示として製造者は法令違反になる。

「遺伝子組換えでない」=混入率0%を基準にすると、分析用のサンプルは採取場所毎に違うので、この様な事が起きるリスクは常にある。

この場合も、法的な罰だけでなく、風評被害による企業の信用失墜、事業存続が危ぶまれる可能性があり、その場合、多くの社員が困窮してしまう。こうした事態が頻発した場合は、制度自体の欠陥が原因であり、この法律を認める事の責任を認識して、消費者庁や委員会の皆様には改正案を慎重に検討していただきたいと思う。

分析のサンプルが毎回違うので、海外生産者や商社は、「不検出=0%」を達成する分別物流はできないだろう。毎回採取される大豆の粒のサンプルは違うので、結果の保証はできないため、「採取されたサンプル」に対する分析結果を出すとしても、「0%保証」の証明書の発行は難しくなろう。

表示維持のため国産大豆の需要激増・価格高騰の可能性、消費者も大きな不利益

さらに食品メーカーも、同様のリスクがあると判断した場合、「遺伝子組み換えでない」という表示は無くなる可能性がある。商品選択の幅は狭まるが、その様な事を消費者は本当に求めているのだろうか。

検討会では、「5%もGMOが入っているのに、『遺伝子組み換えでない』と表示しているのはおかしい」という意見が出ている。消費者に正確な情報を伝える表現でない事は理解できるので、「でない」という表現を適切な言葉に変える必要がある。適切な表示については、検討会と事業者団体、消費者団体の意見をまとめれば解決すると思う。

「遺伝子組み換えでない」という表現を改めるとしても、「不検出=混入0%」と法律で規定する事は前述の通り非現実的なので、今まで通りの5%以下の混入率で分別流通制度を維持しつつ、消費者がわかりやすい適切な表示方法を検討することが現実的な解決策であると思う。

――さらにどういった影響が考えられますか。

「遺伝子組み換えでない」表示を維持するために、国産大豆を使う食品メーカーが激増すると思われる。

しかし、食品大豆の需要約90万tに対して、国産大豆の供給量は約20~25万tであり、国産大豆の買付に競合が起こる事で価格は高騰するだろう。それについていけない製造者は廃業に追い込まれるかも知れない。また、原料価格の高騰が連動して、末端の製品価格も高騰すると、消費者にとっては大変な不利益となる。こういったことまで検討会では想定して、消費者にとって良い制度ができるように考えてほしいと思う。

総じて言えば、日本の大豆産業全体のバランスが取れた持続可能性に逆行し、多くの矛盾を抱えた改正案になりかねず、検討会には現実的な視点で議論を進めて頂きたいと思う。あわせて行政には、消費者の疑問に応えるためにも、一層の啓発活動をお願いしたい。

〈大豆油糧日報 2018年2月15日付より〉

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