【米国大豆の需給展望】食品用輸入大豆のトップシェア商社・兼松に聞く、2019年以来の在庫水準を回復、需要喚起する値位置までシカゴ相場は軟化する展開

兼松食糧素材部食品大豆課・繁田亮課長
兼松食糧素材部食品大豆課・繁田亮課長

米国農家が翌年にどの作物を植えるかは、11月から翌年1月にかけて概ね決められる。

前年の生産量も判断材料となるが、直近の米農務省の需給報告では、当初予想に反し、大豆は単収が上方修正されたことで生産量は増加する結果となった。11月の米農務省発表大豆長期見通しでは、2024年産米国大豆の作付面積予測は2023年予想を300~400万A上回る8,700万Aと示された。

比価についてもトウモロコシより大豆有利の状況だが、兼松の食糧素材部食品大豆課の繁田亮課長は「確かに増えるとは思うが100~200万A止まりになるだろう」と予測する。繁田課長に24年のNon—GMOを含めた米国産大豆の作付見通しや需給動向などについて話を聞いた。

――1月の米農務省の需給報告を受けて

11月感謝祭から12月にかけて農家は来年の栽培作物を決める時期になる。農家としてももうかる作物を選びたい。前年の生産量の結果は農家にとっても大事だ。Non—GMOとGMO、大豆とトウモロコシの単収の善し悪しなどを踏まえて決めることになるが、大豆の最終的な単収は確定していない。米農務省は12月の需給報告を基本的には変更しない。12月には一部収穫が遅れているが、それが終わった最終結果を1月の報告で反映させるのが例年のパターンだ。

1月の米農務省需給報告では、単収を0.4bus/A上方修正した一方、収穫面積を40万A下方修正した。当初の予想では、作柄悪化を背景に単収下方修正、収穫面積はほぼ横ばいを予想していたが、結果的に生産量は3,600万bus増加する結果となり、弱い内容となった。これにより、在庫率は、6.7%を回復し、2019年以来の在庫水準を回復。今回需要はほぼ修正されなかったことは潜在的な弱材料と考える。需要喚起する値位置までシカゴ相場は軟化する展開だろう。今回の需給報告と南米の天候相場の影響を受けたシカゴ相場の動向次第で北米の農家が最終的にどの作物を植えるか決まってくるだろう。

〈南米の大豆生産量は乾燥で下方修正見通し、現地サプライヤー筋1億5,300~5,500万t〉

――南米の生産量の見通しは

ブラジルは作付面積が増えているので、うまくいけば増産となる。米農務省の1月発表では1億5,700万tと、前月からさらに400万t下方修正している。ブラジル南部での豪雨、中西部の一番作付されているマットグロッソ州と北部が少し乾燥しているため単収は恐らく良くない。1億5,700万tはさらに下方修正されると思う。

現地のサプライヤー筋からも1億5,300~5,500万tのイメージという話が出ている。北部の雨が降っていないエリア、マットグロッソ州などでは再作付けを行っている。土壌が乾燥し過ぎていると発芽しないので、ある程度雨を待って実施したエリアや他作物へシフトした圃場もあると聞く。時期がズレると一般的には収量が落ちるので下方修正される。1億5,700万tからもう200~400万t減る可能性は否定できないと見ている。

一方でアルゼンチンだが、作柄的にはある程度雨が降ってきており、一部乾燥エリアはあったものの、それほどの懸念はない。2022/2023年が2,500万tで、2023/2024年は5,000万tに達するかはさておき、2021/2022年の4,390万t以上の水準には戻るだろう。

となると、アルゼンチンは2,000万tほど戻ってくる。ブラジルが前年対比500万t減ったとしても、南米全体で1,500万t程度は増えることになる。南米は、エルニーニョの影響で南部は雨が降り過ぎ、中西部・北部は一部乾燥気味で単収低下の懸念材料はあるが、最終的には増産という形で終わる可能性が高い。

アルゼンチンは大豆加工品の輸出が多いが、ミレイ大統領になって為替政策を含めてうまくいけば流動性も上がってきて、国際マーケットからすると輸出国として再注目されるだろう。ブラジルの生産量下方修正が発表されると、下がってきているシカゴ相場も戻す展開も想定されるが、最終的には南米全体の増産によりシカゴ相場に与える影響はマクロで見ると弱いと思っている。

〈2024年の作付面積8,700万Aは難しく、2023年産から100~200万A増止まり〉

――北米の農家の作付け意向は

農家が何を植えるか。大豆とトウモロコシの比価の基準は大体2.4となるが、2カ月ほど前は大豆が高止まりして、トウモロコシが下がっていたため、比価は極端に大豆有利で2.7~2.8だったことから、2024年は大豆の作付面積は相当増える見通しだった。足元でシカゴ大豆相場が下がり一度は比価は2.4~2.5に戻ったものの、再度トウモロコシが軟化しており、理論上は引き続き農家にとって大豆はもうかる商材だ。

11月の米国農務省発表大豆長期見通しで、2024年の米国大豆の作付面積は8,700万Aと予測されていたが、難しいと思っている。2023年の作付面積予想が8,360万Aなので、300~400万A増えることになる。確かに増えるとは思うが100~200万A止まりになるだろう。これ自体は強材料になる。

トウモロコシの面積は9,100万Aと市場では予測されている。大豆とのスイッチで23年から400万Aほど減る見通しが大勢だが、実際はここまでは極端に減らない可能性が高いと見ており、トウモロコシにとっては弱材料になってくる。大豆が極端に増えないとすると、シカゴ相場には短期的には強材料だ。

――需要面については

中国は景気が非常に悪く、搾油マージンも戻っておらず、畜産物の価格も上がらないと聞いている。確かに大豆は購入しているが、直近で米農務省が発表している中国輸入量1億200万tは楽観的で多すぎる。足元の輸出販売推移を見ると低調で、過去5年平均の下限程度しか売れていない。米国の作付面積の増加の割合は減ると思うが、需要もそれほど戻ってこない。輸出需要は今後下方修正されるだろう。

2024年以降、米国も景気が頭打ちになってくると、搾油需要も現在見通されている23億busの需要が右肩上がりに増えるかは疑問だ。バイオディーゼルの話もあるが、需要自体が1~2億bus減ってもおかしくない。そうなると、2024年8月末の在庫はある程度積み増しされてくるという見立てだ。1~2月にかけ南米、ブラジルの下方修正があり、天候相場最中のため、多少値を戻す展開があるかもしれないが、作付面積が想定以上に増えない場合でも、需要減退を背景に、半年から1年かけて少しずつ下がってくるべきというのが見通しだ。

〈プレミアム価格は上昇、パナマ運河の水位低下は食品大豆に大きな影響は無いが要注視〉

――Non—GMOのプレミアム価格について

結論から言うと、プレミアムは上がっている。何を植えるかについて農家との話し合いも後半に入っている。単収はGMOの方がいいため、農家に引き続きNon—GMOを植えてもらうプレミアム割増金は、これまでと同じ価格では難しい状況が続いている。カナダでも同じくプレミアム価格は上昇している。必要な量を確保してもらうためのコストは上がる。

――Non—GMO大豆は必要量を確保できるのか

2022年から2023年はシカゴ相場も上昇していた。農家離れが急激に進んだ年となった。プレミアムの上昇も大きかった。2023~2024年はシカゴ相場もピークからは下がり基調で、単収差×シカゴ相場で考えると、シカゴ相場が低ければプレミアムは2023年時のように上げる必要はない。

特に中国は北米から食品大豆をほとんど購入していない。中国自体も大豆の生産量は豊作だ。食品用途は自国生産で充分に賄え、景気減退も続く中、中国の買い付け意欲も落ちてきている。

日本でも価格転嫁の影響もあって、食品大豆の需要量自体が落ちている。お取引先様メーカーも歩留まり改善など工夫により原料の使用量を減らす動きとなってきている。需要面でレーショニングの兆しが出てきていることからすると、産地サイドからしても、買い付けの引き合いはあるが、2022~2023年産の時ほど旺盛ではないと聞く。この温度差の違いを背景にプレミアム上昇抑制交渉を続けているが、やはり農家確保の厳しさから、2024年産も一定の値上げは避けられない。

――パナマ運河の水位が下がっている影響は

穀物全般では、日本もバルクの大型本船での輸入が中心だ。パナマ運河を通れないと航海日数は15~20日伸びる。それにより海上運賃が高騰しているので、穀物全般の輸入コストは上がっている。

11~12月から米国の新穀のシーズンが始まり、通常はこのタイミングで新穀を持ってくる。1~2月は旧穀との切り替え時期だったが、航海日数が伸びるとその分後倒しになる。運賃上昇もあるが、航海日数の増加により、一部で在庫がひっ迫することも穀物全般で起こっている。当社もバルク大型本船で一部Non—GMOの大豆を輸入しているが、影響は出てきている。足元の需給バランスが少しひっ迫しつつあるのは事実だ。

一方、食品大豆のほとんどが西海岸からのコンテナ輸送なので、今のところ物流には直接的な影響は見られていない。とはいえパナマはいま乾季で、まだ水位が戻る予測は立っていない。東海岸から出ているコンテナも徐々に西海岸へシフトし始めると言われている。今後、物量が増えることによる運賃の上昇や、港が混雑する懸念は出始めている。

今後、穀物全体のパナマ運河の水位低下の影響がすぐに緩和されないことで、食品大豆では西海岸混雑によるコンテナの遅延や、バルク大型本船物流も今後少なくとも半年くらいは船足が伸びるペースで計画を組まないといけない。当然、航海日数が伸びれば品質劣化のリスクも起こってくる。その分さまざまな影響を想定して動かないといけない。

――カナダ産大豆の作付見通しは

カナダ産大豆は、2022年から2023年にかけても面積・生産量はGMOを含めて増えたが、2024年も微増になると予測している。農家へ払うプレミアム価格は上がっているものの、引き続き単収の高いGMOへのシフトは続いており、Non—GMOの割合自体は減る傾向にある。

――日本の大豆加工品の需要が伸びない理由

製品価格上昇により、消費者の大豆加工品消費が減少したことも理由とは考えられるが、価格上昇を背景にスーパー側が発注量を抑えて最低必要な量だけに留め、仮に売り切れても追加発注は避け、売れ残りによるフードロスを避ける動きが主な要因ではないか、との意見をよく耳にする。実際に店頭でも欠品のある棚を見る機会が増えた。需要が減っているのではなく、正しい実需要に近づいてきているのではないか。

原料面で言えば、歩留まりを上げる企業努力もなされている。大豆自体の輸入量も、契約栽培しているので一気には減らないが、実需要に合わせて船積みを調整することで、少しずつ輸入通関ベースでも減ってくるのではないか。

〈艀調達プログラム拡充を継続、事業会社で高たん白・加工適正の高い品種を開発〉

――米国の別の州や他国からの調達可能性は

農家価格を安定的にするために、農家確保出来るエリアを増やさないといけない。艀(はしけ)調達・本船プログラムの拡充はこれからも継続していく。近くに選別工場がなくても、作付してくれる農家がいれば生産をお願いする。

また、当社はオハイオ州の事業会社で品種開発をしている。目的はたん白が高く、加工適正の良い品種の開発だが、同じくらい重要なのは単収が高いことだ。今後はGMOと競合できるような品種を世の中に出していく。中長期的視点で加工適性の良いNon—GMOを安定供給し、価格上昇を抑制するかという視点で動いている。他国からの調達も可能性はあり、当然動いている。

ただ、想定以上にシカゴ相場は軟調になりそうだ。急にコロナ前の水準に戻るとは思えないが、他代替国がその価格帯に追随できるかというと簡単ではないだろう。北米は物流網のインフラが整っており、物流は比較的安定し易い上、食品用途で加工適性の良い品種も多く、全般的には安定している。よって第3国からの調達はいくつか課題がある一方、中・長期的視点で有事を想定し押さえておかないといけない。

――今後の相場の見通しは

シカゴ相場は$11.50が一つの目途だと思う。短期から中期的には、南米・北米の天候相場から上下し、期近限月で$13前半くらいまでに戻すだろうが、最終的に半年から1年後にかけ$11.50を目指す展開だと思う。

価格下落は需要を喚起するため、劇的に在庫率が良くなるとは思えないが、今回1月の需給報告の6%台から、7~8%も見えてくる。そうすると理論値は$11.50~12台前半になる。米国を中心にインフレやコスト高、人経費の高騰、原油価格も上がっており、最低コストに見合う水準という意味では$11割れだと生産コストに合わない。いずれにせよ、シカゴ相場の中長期的な軟化を背景に、食品大豆は徐々に買い易くなり、需要も戻ってくるだろう。

〈大豆油糧日報2024年1月18日付〉

媒体情報

大豆油糧日報

大豆と油脂・大豆加工食品の動向を伝える日刊専門紙

大豆油糧日報

大豆から作られる食用油や、豆腐、納豆、みそ、しょうゆを始めとした日本の伝統食品は、毎日の食卓に欠かせないものです。「大豆油糧日報」では、発刊からおよそ半世紀にわたり、国内外の原料大豆の需給動向、また大豆加工食品の最新情報を伝え続けております。昨今の大豆を巡る情勢は、世界的な人口増大と経済成長、バイオ燃料の需要増大により、大きな変化を続けております。一方で、大豆に関する健康機能の研究も進み、国際的な関心も集めています。そうした情勢変化を読み解く、業界にとっての道標となることを、「大豆油糧日報」は目指しています。

創刊:
昭和33年(1958年)1月
発行:
昭和33年(1958年)1月
体裁:
A4判 7~11ページ
主な読者:
大豆卸、商社、食用油メーカー、大豆加工メーカー(豆腐、納豆、みそ、しょうゆなど)、関係団体、行政機関など
発送:
東京、大阪の主要部は直配(当日朝配達)、その他地域は第3種郵便による配送 *希望によりFAX配信も行います(実費加算)
購読料:
3ヵ月=本体価格29,700円(税込)6ヵ月=本体価格59,044円(税込)1年=本体価格115,592円(税込)