閉鎖型植物工場を世界的なデファクトスタンダードに、大豆の栽培実験も開始、プランテックス・山田耕資代表取締役社長に聞く【フードテック最前線】
プランテックス(東京都中央区)が開発した世界でも例がない閉鎖型植物工場に注目が集まっている。室内全体で植物を育てる一般的なオープン型と異なり、密閉された箱(ユニット)の中で植物の生育環境を緻密に制御できるのが特徴だ。山田耕資社長は、「将来的になくてはならない農業生産手段の一つになると思っている」と力を込める。
オープン型の場合、工場全体の室温を細かく制御することが困難で、ある工場では位置により5℃程度バラつきがみられるという。1℃違うと収穫量が10%減るデータもある。温度以外にも生育条件のパラメータは複数ある。そこで同社は光、空気、水の20のパラメータを定義するとともに、それらを制御できるハードウェアを開発した。
2022年6月、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U.S.M.H)と茨城県土浦市に、閉鎖型植物工場を作った。同工場で栽培するレタスは、24時間以内に約200店舗へ出荷され、フレッシュな状態で販売している。色つやも良く、おいしいと人気でリピート率は高い。生菌数が少なく、農薬不使用のため洗わずに食べることができ、日持ちもする。露地栽培と比較し、1株で12Lの水を節約できるという。
オープン型の植物工場と同じ栽培面積で3~5倍の生産量になるため、「環境制御にコストをかけても安価にできる。品質のバラつきも少なく、高品質を訴求できる」と強調するU.S.M.Hではバジルやルッコラの商品化も進めており、秋頃に販売される見込みだ。
川崎市内の研究所では現在、オクラ、ネギ、ニラ、トマト、イチゴ、二十日大根に加え、小麦、トウモロコシ、大豆など穀物の栽培実験も開始している。栄養成分を高める研究も行っており、レタスに含まれるβ‐カロチンはニンジンの約半分に達し、GABAやポリフェノールを増やす研究もしている。「農家でも名人が育て方を工夫し、おいしい野菜を作っている。生育環境をコントロールすることで種のポテンシャルを引き出し、自然環境ではできない、おいしい野菜をつくる技術の確立を目指す」と述べる。
同社の事業は、量産工場の販売と研究所での共同レシピ開発だ。ユニットの規格は統一しているため、「研究所で生み出したレシピは量産工場でダウンロードでき、即座に社会実装化できる。効率の良い研究が最大の特長だ」と説明する。
山田社長は、「2050年には世界人口の増加により、1.7倍の食料が必要になるとされるが、今の延長線上では不足分を賄えない。食の安全保障を確立しつつ、食市場は成長産業でもあるのでビジネスチャンスを捉えにいく」と意気込む。
課題については、「事業をいかに加速するかだ。世界的なデファクトスタンダードになると考えている。社会実装を進めながら、研究所で次々と作物の栽培を成功させ、短期間のうちに技術で圧倒していきたい。海外進出も具体的な計画が見えている」と展望を語る。
【プロフィール】
2007年に東京大学大学院卒業後、ものづくりの生産工程改革で有名なインクスに勤務。2010年以降、日米計6社のベンチャーの創業に参加した。2013年末に、人工光型植物工場と出会う。世界の食と農に革新をもたらす技術だと確信し、創業を決意する。エンジニアリングの分野で卓越した実績・スキルを持つメンバーらと共に、新しい産業を興すことを目指して2014年6月にプランテックスを創業。
〈大豆油糧日報2024年10月15日付〉